【零ノ次章】

付き合い始めて数ヶ月、何度目か分からないデートの最中。俺と寧音はお互いどうしようもないほど惹かれあっていた。
「はい、あ、あーん」
「あーん、お、美味い」
「ほ、本当?」
俺たちは巷で少し有名なバカップルになっていた。今も一つのパンケーキを二人で食べさせあっている。
(あぁ、最高だ)
外からは怨みや妬み、羨望の眼差しを向けられてるにも関わらず、二人の間には幸せな空気で溢れかえっている。
(うん、羞恥に顔を赤らめる寧音も可愛い)
寧音は多少なりとも、周りの視線に気づいているらしい。
「ねぇ、そろそろ場所変えない?」
遂に周りの視線に耐えかねたらしい寧音はそんな提案をしてきた。
「うん、いいよ」
俺は快く引き受けた。
「次はどこ行きたい?」
時刻は三時を回ったところだった。
「今から行くとなると、映画館、ゲーセンくらいかな」
「あ、じゃあ映画館行きたい!」
「オーケー。んじゃ、行くか」
映画館まで三十分くらい歩く間、二人は他愛のない話で盛り上がっていた。
「映画館来たのはいいけど、何か見たい映画でもあった?」
「うん、竜也と見たいなぁって思ってた映画が確か先週くらいから始まってるんだよ」
「そうなんだ、俺も寧音との映画館デート、いつかやりたいって思ってた」
そう、数ヶ月の間に二人の呼び方は互いに呼び捨てに変わっている。
寧音が選んだ映画は『ラブコメ』だった。それも結構アレなやつ。寧音は見ながら顔を赤く染めていた。
(可愛い)
映画は一時間半で終わった。映画の最中、ポップコーンを取ろうとした二人の手が当たったりして、いかにも初々しい時を過ごしていた。時刻は五時半を回っていた。
「これからどうする?」
「夜ご飯でも食べに行く?」
「うーん、それならお母さんに連絡しないと。」
プルルルルルルルル。
寧音がお母さんに連絡を入れている。
「あ、お母さん?今日、友達とご飯食べて帰るから夜ご飯要らない」
「うん、分かった、うん」
そう言って電話を切った。
「お母さんなんて?」
「気をつけてねって」
「それなら安心だね。俺がいるし」
「こら、調子に乗らない」
「悪い悪い」
「「あはは」」
そう笑いあってファミレスに足を運んだ。
ファミレスの中、料理を待っている間に寧音が爆弾を投下した。
「そういえば、もうすぐ定期テストだけど大丈夫?」
「あ、う、うーん、多分」
竜也の成績は、進学校ではない学校で最下位争いをしている。大丈夫な訳がないのだ。
「普段、こういう話しないけど、もしかして竜也って、勉強出来ない?」
「そ、そんなはっきり言わなくてもそうだよ、出来ないよ、いつも赤点ギリギリだよ!」
「え?本当に?」
「できるように見えるか?」
「うん、とっても」
「あ、そうだ!勉強教えてあげる!明日空いてるでしょ?」
「あ、うん。でも、いいのか?」
「もちろん!赤点取って遊べなくなる方が嫌だもん!」
「じゃあ、お願いします」
「それじゃ、明日朝九時に行くね?」
「分かった」
こうしてあっさり勉強会の日程がたったのだった。