一兎「さあ、最後の演目を始めようか」
降り注ぐ雪のように、俺の髪や服装が白く変化する。そして、首元には白いマフラーが巻かれていた。
盗真「なんだ?その姿は・・・まさか!まだ魅守霊が!」
佐々木盗真が勘違いをして、そんなことを言った。
一兎「いや、お母さんはもういない。俺は正真正銘、俺だ」
俺はそう言いながら佐々木盗真をキッと睨む。
盗真「ま、まあいい。先ほどお前は『妖力以外を減少させた』と言っていたな?ならば、【百鬼の勾玉
】の力は使えるというわけだ!無影虚像は使えないのは少々厳しいが、妖力なら!」
そう言って妖力の使用を試みる佐々木盗真。しかし、それは俺が許さない。
一兎「その妖力は多恵が遺したものだ。悪用させるわけないだろ。終焉廻路」
俺はセフィラム能力で佐々木盗真の中にある【百鬼の勾玉】妖力という形をした魂。つまりは封印されていた妖怪たちの魂を自身の体に移した。
盗真「なん、だと?妖力以外を減少させたなら、セフィラムエネルギーも減少させたんじゃないのか?私の能力も使えなくなっているというのに・・・」
佐々木盗真は困惑している。顔に「焦っています。どういうことか分かりません」と書かれているような慌てっぷりだ。そして俺が答え合わせをする。
一兎「簡単な話だ。妖力以外を減少させたのは嘘で、ほんとはこの周辺の魔力だけを減少させたんだ」
俺がそう言っても、納得はしていないようだ。それもそのはず、これだけでは佐々木盗真がセフィラム能力が使えなくなった理由にはならないからだ。当然、その仕掛けも教えてやる。教えたところで状況を打開するのは不可能に近いからな。
一兎「そして、この秘守術
が降らせる雪には特殊な力がある。それは、この雪に触れたものを調整するというものだ。この調整する力でお前がセフィラム能力を使えないように調整したんだよ」
俺がそう解説すると、佐々木盗真の顔は少しだけ恐怖に染まった。それだけで、俺は勝利を確信した。万が一にも、俺はこいつに負けることは無いと。
そして、佐々木盗真はこう言う。
盗真「なんなんだ。そのチート能力は・・・まるでご都合主義の主人公みたいじゃないか・・・」
一兎「だから、『演目』なんだろ」
俺の返しに佐々木盗真は黙り込み・・・そして
盗真「ならその演目、私が破壊してやる・・・お前はこの手で殺す!」
威勢のいい殺害予告と共に床を蹴り、こちらへ猛スピードで拳を突き出す。サタンと融合したことによる身体能力の大幅な強化をされた佐々木盗真の一撃は、普通ならば相殺するのも難しいだろう。しかし俺はその拳を真正面から左手で受け止める。
一兎「妖力全開放。真・血気開放
。バーンフェーズ」
妖力全開放で多恵の・・・【百鬼の勾玉】の妖力を取り込んだ俺の妖力を最大まで引き出す。
真・血気開放で血液を五割消費してしべ手の力を大幅に増幅する。だが今回は髪の色は赤くならず、代わりに全身に赤い幾何学模様が浮かぶ。
そして、バーンフェーズで全身に炎を纏う。
その状態の俺を止めることはできない。相手の拳を止めたまま、右手に炎属性の妖力を纏う。
一兎「妖術、全幕引き、一兎九錬
!」
そのまま『炎・雷・水・風・氷・闇・土・光・死』の順で妖力を練り上げまぐり続け、最後の死属性で相手を吹き飛ばす。それでもまだ倒れていないようだったので、俺は『エラーザブレード』を呼び出し、追い打ちをかけにいく。地を蹴って、剣を上段に構えて上から斬り下ろす形になったが、佐々木盗真はエラーブレードを右手で受け止め、そのままその刀身を破壊した。
一兎「チッ」
盗真「ははっ、油断してるからそうなるんだ」
この剣はお母さんの形見でもあったから正直破壊されたのは精神的に来るものがある。
しかし、破壊して得意になっている佐々木盗真に異変が起こる。
盗真「な、なんだこれは!ぐ、ぐああああ!」
佐々木盗真の体が白い炎で焼かれていた。
?「この剣をその拳で破壊してくれたおかげで一時的にこの世界に干渉できた。無様だな。サタン。そしてその使いの者よ」
あのとき、水無月先生と戦っていた時に聞こえた声と同じ声がそう言った。俺が「お前は誰だ?」と聞く前に返事が返ってきた。
ミカエル「我が名はミカエル。魅守家の守護天使である。さあ、一兎よ。限定的に干渉している今の我ではトドメを刺すには至らぬ。今こそそなたの全力を以てこの者に引導を渡すのだ!」
ミカエル様の御言葉に俺はうなずき、右足にすべての力を込める。体の赤い幾何学模様が消える。『ブラッディ・キック』の準備。終焉廻路と最終演目を発動。そして氷属性の妖術を右半身に武装し、『エタニティ・キック』の準備。そして、バーンフェーズを右足だけに凝縮させ、炎属性を付与。さらに死属性妖術『幕引
き、黒薔薇ノ舞~狂咲
~』の黒薔薇の花びらを用いて佐々木盗真を真っ黒なミイラにする。炎属性はお母さんが俺にくれた属性、死属性は兄さんの属性。最後に、全能力を数倍にまで調整させる雪を俺の周りに纏う。
セフィラム能力、妖術及び妖力、そして秘守術。この三つをこれでもかと詰め込み、回し蹴りの体制をとる。
一兎「妖術、終演」
盗真「・・・これで・・・よかったのかもしれないな。はっ。引き返すには遅すぎたってことか」
全てを終わらせる一撃。それは・・・
ー【始まりの一撃】ー
そして・・・種族戦争は終演を迎えた。
~エピローグ~
種族戦争は多くの爪痕を残した。この戦争による死者も少なくはない。最後の戦いで生き残ったのは俺と歌恋とその兄の光汰
。そして、深夜と有栖と幸。龍時
さんと照も無事だった。深夜と幸は幸が目論んでいた部屋の爆発で危うく命を落とすところだったが、深夜が咄嗟に幽
さんの能力を使って幸と脱出したらしい。なにはともあれ、無事でよかった。まあ、幸と光汰は戦争犯罪人として捕まることにはなったが。俺たちは戦いの後、幽さんにこっぴどく叱られたが、最後には「よくやってくれた」と笑顔で俺たちに言葉をかけてくれた。
この戦争のせいで佐々木派及び規制派は失脚。おかげで『異能犯罪対策局
』も政府公認組織として活動できるようになった。これからはセフィラム能力者が今よりは生きやすくなるだろう。
そして、最も変化が大きかったのは妖怪だ。妖怪たちは怪物のスタンピートから人々を守ったり、戦後の復興にも尽力したりした功績が認められ、人権を得られるようになった。まあ、人ではないが。正直、ここまでのことは想定していなかった。というか、復興への協力に関しては俺は何も指示していない。彼らの意志でやったことだ。そのおかげで、妖怪に対しいい印象を持っている人も多い。妖怪たちのユートピアが実現するのも時間の問題だろう。兄さんが目指したものが今、現実になろうとしている。俺も妖怪の王として彼らの為に百瀬さんとか歌恋のお父さんとかに掛け合うなどをして妖怪たちが暮らしやすい日常を作れるよう頑張っている。
そして今・・・
一兎「富山さん。お願いがあります。この、折れたエラーブレードの欠片で新しい剣を造ってください。生まれ変わったエラーブレードを未来に託して、また世界に危機が訪れたとしても世界を守れるように」
歌恋「私からもお願いします!」
俺は歌恋と一緒に富山さんに頭を下げてお願いした。俺たちはあのときに折れたエラーブレードの欠片をすべて回収して持ってきたのだ。その欠片を見た富山さんは
草刃「この感じだと、刀になるが・・・わかった。造ってやろう。俺の全力を込めた最高の出来にしてやるよ。銘も入れてやるが、何がいい?」
富山さんのその言葉に対して俺と歌恋は顔合わせて、来る前に決めていた銘を口にする。
一兎・歌恋「【終焉・歌兎】」
俺と歌恋の名前が込められたこの刀はきっと、未来で誰かの助けとなるだろう。
帰り道で、歌恋はポケットから石のようなものを取り出した。割れた【百鬼の勾玉】だ。真っ二つに割れた勾玉は一つは歌恋が、もう一つは有栖が持っている。
一兎「歌恋。多恵の分も、幸せに生きよう。俺と一緒に」
俺が顔を赤らめながらそう言うと、歌恋もまた、顔を赤らめながら笑顔でこう言った。
歌恋「うん!イチ兄と一緒に!幸せに生きるよ!多恵ちゃんの分まで!」
失った物は多かった。犠牲無くして世界は救えなかった。それでも、いや、だからこそ、この平和が最も尊く、美しいものなのだ。そしてこれからは、俺も幸せに生きるとしよう。
歌恋と一緒に・・・
~エンディング~
・園上幽
百瀬仁の勧めで政治家へと転身。様々な功績を認められ、後の総理大臣へと大出世を果たす。
・富山草刃
『銀狼』が公開組織となった後、弟子入り志願者が彼の下に集まる。弟子を取った後、彼は『鍛造神』と弟子たちから裏で呼ばれるようになった。
・月夜見龍時
戦後も『銀狼』に所属し、組織のあるべき姿を保つための監督官としてこれからの組織を見守る。
・天野照
魅守一兎と常陸歌恋が『銀狼』から脱退した後、彼らについていき、魅守家を見守る存在として一兎が作った小さな集落で暮らすこととなった。
・鏡深夜
学園卒業後、園上幽が政治家へ転身する際に『銀狼』の次期班長に任命される。その後、花倉有栖と結婚。
・花倉有栖(花咲アリサ)
学園卒業後、鏡深夜と結婚。深夜の妻として組織を支える。その後、娘・百姫を授かる。
・常陸歌恋
学園卒業後、『銀狼』を脱退。その後魅守一兎と結婚し、息子・犬兎を授かる。
・魅守一兎
学園卒業後、『銀狼』を脱退。その後常陸歌恋と結婚し、歌恋と天野照と共に一兎の故郷の樹海へと帰り、そこで妖怪や身寄りのない子供たちの為の集落を築き、幸せに暮らす。