第十八話 午未申

ーSINYA`SVIEWー
僕たちは月夜見さんたちと別れた後、建物の中へ進み、階段を上る。
深夜しんや「あれ?君は・・・」
そこにいたのは僕らの裏切り者もとい、スパイの星宮幸ほしみやゆきだった。
幸「はぁ、ここまで来るとか、暇人かよ」
幸がそんなことを言いながら、臨戦態勢をとる。それに対応して、こちら側も全員臨戦態勢をとるが、
深夜「みんな、待ってくれ。ここは僕に任せてくれないか?」
そう言うと、みんなは姿勢を戻してくれる。
一兎「深夜・・・それは死亡フラグか?」
一兎はふざけていた。
深夜「そうならないように頑張るし、君がそうならないように設定したんだろ?」
僕がそう微笑むと、一兎いちと
一兎「確かに。じゃあ、任せたぞ」
そう言って、歌恋かれんとアリサを連れて先へと進んだ。
幸「まあ、あとを追おうとしたら背中からやられそうだし、今はお前と相手してやるよ」
幸が大量の鉄球を投擲した。それに対し、僕は
深夜「妖術ようじゅつ第玖幕だいきゅうまく火具土命ノ憤怒かぐづちのふんど
炎の壁を造る。一兎の言っていることが正しければ、妖術の壁なんて意味が無いに等しい・・・だが、
幸「何!?」
案の定、幸は驚いている。それはそうだ。無効化できるはずの妖術で、自身の攻撃が防がれたのだから。
深夜「忘れたかい?僕の妖術はセフィラム能力によるものだから。妖力は含まれていないんだ」
つまり、一兎に通用した戦法は僕には通用しない。そのことを理解できないほど幸はバカではない。だから、彼は先ほどよりもこちらを警戒しているようだ。いや、最初からそれくらい警戒しようよ。
幸「チッ、仕方ないか・・・・」
そう言いながら、幸は大量に鉄球、ナイフ、そして、なんかよくわからないものを投げる。
深夜「・・・それは?」
僕がそれを警戒すると、急に爆発した。
幸「ほら、もっとだ!」
更に投げる。しかし、
深夜「妖術ようじゅつ第捌幕だいはちまく海蛇かいじゃまい !」
全てを僕は跳ね返した。そして、
深夜「こっちからも行くよ!チャージ・キック!」
急接近して強力なとび膝蹴りを放つ。
それを受けた幸は後ろへ吹き飛ぶ。避けれなかったというより、避けることすらできなかったのだろう。
幸「ああもう!なんでだよ。体が全然動かねぇ!」
幸は体が動かないといわんばかりに、地面に座り込む。
深夜「そりゃそうだ。君は以前、一兎のエタニティ・キックを受けただろう?あれは、永遠に続く自由に設定した痛みを与えるという効果がある。そして、一兎が設定したのは、僕らに攻撃するたびに痛みが現れ、行動ができなくなるというものさ」
僕がそう言うと、幸は諦めたように、
幸「そんなのありかよ・・・」
と言い、体の力を抜いた。そして、僕はそのまま幸の体を拘束した。
深夜「さて、どうして君があの男についたのか聞きたいんだけど?」
僕がそう聞くと、思ったよりあっさり言ってくれた。全て諦めたのだろうか。
幸「・・・俺は、孤児だった。親に捨てられて、どこにも行く当てが無くて、そんなときに出会ったのが佐々木さんだった。あの人は俺に居場所を与えてくれた。だから、俺はその恩返しがしたいだけなんだ」

星宮幸の【秘密】
彼は孤児で、佐々木盗真ささきとうまに拾われた。そのため、佐々木盗真に恩返しをしたいと思っている。

そこまで聞いて、僕は理解した。あの男には悪い面ばかりでは無いのだと。ただ、正義が行き過ぎてしまっただけなのだと。
深夜「それで?あの男の動機は?」
僕がそれを聞くと、幸はこちらを軽くにらみ、
幸「簡単なことだよ。愛する人をセフィラム能力者によって殺された、復讐だ」
僕はその復讐はあまりにも行き過ぎていると思った。その感情を察したのか、幸は
幸「能力の規制が無理だったから世界を破壊するというのは確かに極端な発想だとは思うけど、そんなことはどうでもいいでしょ。だってもう、手遅れなんだから」
深夜「それはどういう・・・」
僕が聞き返そうとした瞬間、幸は何かを手から放り、部屋全体を爆発させた。諦めていたのではなく、最初からこうするつもりだったようだ。

ーKAREN`SVIEWー
私は今、因縁ともいえる相手と対峙している。
光汰こうた「ほんとに一人で残るとはな。お前、見捨てられたんじゃないか?」
そう、光汰兄さんだ。私はさっきのかがみ先輩と同じように、花咲はなさき 先輩とイチ兄を先に行かせて、私は残った。光汰兄さんは私と戦うのが楽しみだったらしく、二人には見向きもせずにずっと私の方を見てニタニタ笑っている。
歌恋「はあ、そんな顔、子供に見せたら泣いちゃうよ?」
ちょっと煽ってみた。すると、不愉快そうな顔をして、
光汰「お前こそ、そんな薄汚い顔を子供に見せたら泣くんじゃないのか?」
と言ってきた。私は少しむかついたので、適当に妖術を打っておいた。
歌恋「妖術ようじゅつ第壱幕だいいちまく白撃はくげき
目にも留まらぬ速さで放ったその白い一撃は、光汰兄さんの体に当たった瞬間、霧散した。
光汰「ふん!どうだ!お前のその気色悪い攻撃など、一切効かないんだよ!」
自慢げに言っているが、そんなことはとうに知っている。というか、目の前で体験した。
歌恋「得意になってるとこ悪いけど、光汰兄さん、もうまともに立てないからね?」
私がそう言うと、光汰兄さんの体は跳ね始めた。
光汰「は?な、なんだよこれ!妖術じゃないのか!?」
そんな素っとんひょうな声を出す。正直ださい。私がやったのは、垂直抗力の変動。兄さんにかかる垂直抗力のバランスを変えて、地面に降りると、勝手に飛び上がるようになっているのだ。垂直抗力だけ力を上げるなんてこと、普通に考えたらおかしいが、物体にはたらく力である以上、自由に操作できてしまうのが終焉機構 ラストシステム
光汰「くっ、こうなったら・・・魔術【ヨグ=ソトースのこぶし】!」
歌恋「くっ!なに?これ・・・」
見えない強力な一撃が直撃し、私はよろめく。そのせいで能力が解除されてしまった。
光汰「どうだ!これが佐々木さんに教わった魔術の力だ!これでお前を殺せる!」
光汰兄さんは嬉しそうにそう言った。この人の目的がいつの間にかセフィラムの規制などではなく、私を殺すことになっている。なにがどうなったらそうなるのか。いや、理解できなくていいのだろう。こういった極端な思考に至る人の気持ちは常人には理解できない。まあ、私が常人かどうかは定義できないとは思うが。
歌恋「はあ、もう光汰兄さんはセフィラム能力も、世界もどうでもよくなったんだね」
私がそう言うと、光汰兄さんは激怒し、
光汰「うるさい!お前を殺せるならもうなんだっていい!俺はお前のせいで親からも愛されなかったんだ!もう何もいらない!さっさと死ねよ!魔術【ニョグタのわしづかみ】!」
その瞬間、私の心臓がわしづかみにされたかのような痛みが走る。
歌恋「ッ!っぁ!っく!ああ!」
息ができない。苦しい。でも、死ねない。まだ、イチ兄と一緒にこの世界を生きていたいから。
大好きな人と一緒に生きるために。私は、イチ兄のお兄さんからもらったこの血を使う。私は血液を介して妖力を付与された。それなら、私の体には魅守みかみの血が流れているはず!
光汰「さっさと、死ね!」
もう一度光汰兄さんがそう暴言を吐く。でも、私は屈しない。ここでけじめをつけるって決めたから。私が大好きなあの人のように、自分の家族のことは自分でケリをつけないと。
歌恋「守術かみじゅつ・・・人ノ道じんのみち・・・決意けつい 正義せいぎたましい・・・!」
私の背中に、黄金の紐状のものがたくさん現れ、マントのようになる。
歌恋「さあ、私がこの演目を始めるから、覚悟して!」