第十七話 最終決戦

一兎いちと「・・・いくぞ。歌恋かれん
俺がそう声をかけると、歌恋はしっかりとうなずいた。
今から俺たちがするのは独断専行。つまり、勝手に敵の本拠地へ攻めるということだ。実は敵の居場所はもうわかっている。以前、俺がさち に放った技、『エタニティキック』の効果で、幸の体を少しだけいじったのだ。そのおかげでいろいろな影響をあいつに残せたのだが、その影響の一つが居場所の特定だ。
歌恋「あれ?誰かいる・・・」
俺と歌恋が一緒に目的地へ進んでいると、目の前に二人の人影が・・・
深夜しんや「つれないじゃないか。僕らも一緒に行かせてくれよ」
深夜とアリサだった。二人は笑顔で俺たちに話しかける。
アリサ「一兎くんと歌恋ちゃんが何かをするんじゃないかってなんとなく思って後をつけてたの、ごめんね」
俺たちの後をつけていたということはつまり、あいつが死ぬ瞬間も・・・
深夜「二人が今辛い感情を抱いているのはわかってるつもりだ。だからこそ、僕らも心配になるんだよ。今から行こうとしているのは佐々木盗ささきとう たちがいるであろう本拠地でしょ?それなら二人だけでは無理だ」
深夜が真剣な顔でそう言ってくる。俺はその言葉に対して、礼を述べるしかなかった。
一兎「ああ、ありがとう」
俺がそう言うと、深夜はふっと微笑み、
深夜「まあ、君たちのことを心配しているのは僕らだけではないけどね」
深夜は後ろを振り向き、俺たちに背を向ける形になる。その深夜の視線の先にいたのは・・・また二人組だった。
龍時りゅうじ「いや・・・バレてたのか・・・」
龍時さんとてるだった。
照「まあ、そうですね、先程明らかに異常な妖力を察知したのであなたたちに何かがあったのではないかと思い、急いできた次第です」
照がそう説明してくれた。
一兎「何はともあれ、これで六人だな」
俺がそう言うと、みんなが首を縦に振る。その目には決意が宿っていた。
歌恋「私たちにはこんなに心強い仲間がいたんだね・・・」
そんなことを感慨深く言う歌恋だった。
深夜「それじゃあ、行こうか」
そんなことを力強く言う深夜だった。
アリサ「私はサポートしかできないけど、それでもみんなの為に頑張るからね!」
そんなことをやる気に満ち溢れた笑顔で言うアリサだった。
龍時「今の俺は恐らく一兎よりは弱いだろうが、露払いくらいならできる。背中は任せろ」
そんなことを自信満々に言う龍時さんだった。
照「いよいよ、最終決戦ですね。微力ながら私も、私にできることをしましょう」
そんなことを真剣な面持ちで言う照だった。そして、
一兎「さあ、最後の演目を・・・始めようか」
そんなことを言う、俺だった。

歩き続けること数十分。広い駐車場(ただし車は止まっていない)がある大きなビルのようなところにたどり着いた。外見は今までにもあったような廃墟のようになっており、うまくカモフラージュできていると思う。
一兎「ここだ。ここに幸たちがいるはずだ」
俺がそう言った瞬間、地面に大きな魔法陣が現れる。そして、瞬く間に大勢の人型の怪物が現れた。
歌恋「えーさすがに多くない?道を切り開くのも時間がかかりそう」
歌恋の言うとおり、敵がたくさんいるため、前に進むのも難しいだろう。いや、できるにはできるが、消耗戦になることが予想される。そう思っていた時。
照「ならば私が道を切り開きましょう。私がこの怪物たちの相手をするので、あなたたちは進んでください。一兎の体力だけは極力温存しておいてくださいね」
照がそう言いながら黄金に輝く槍に炎を纏わせ、前へ一歩踏み出す。しかし、その横にもう一人いた。
龍時「さすがの照でも、この数を一人で相手にするのは難しいだろ?だから、俺も手伝う」
龍時さんが照の横に立ちそう言った。その言葉に照は一瞬困惑しながらも、
照「いいでしょう。足だけは引っ張らないでくださいよ?」
と挑発するように照が言う。
龍時「そっちこそ、俺の速さにおいてかれるなよ?」
と挑発し返す龍時さん。
一兎「それじゃあ、ここは二人に任せる!歌恋、深夜、アリサ。二人が道を創ってくれたら全力で走れ!」
俺がそう言うと、三人は深くうなずいた。
龍時「時空間展開じくうかんてんかい・・・」
照「時空間圧縮じくうかんあっしゅく・・・」
二人が超高速で前方へ走り出す。目に見えない速さで道が開ける。
龍時「今だ!」
照「今です!」
二人の合図で俺たちは走り出す。二人がつないでくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。

ーTERU`SVIEWー
私は一兎たちの後ろを守るように縦横無尽に駆け回る。
照「焔返ほむらがえし!」
大量の炎が降り注ぐ。すると、私の真横に超高速で月夜見つくよみが移動してきた。
龍時「危ねぇな・・・俺にもあたるところだったぞ・・・!」
彼がそんなことを言ってきた。どうせパラシュートが落下してくるのと同じくらいの速さに感じていたくせに、何を言っているのだろうか。
龍時「まあ、そんなことはいいんだけどな。それよりお前、なんで急に一兎の側についたんだ?天照大神あまてらすおおみのかみなら、よっぽどのことがないと意見を変えたりなんてしないだろ」
そんなことをこの状況で言ってきた。まあ、どのみち今私たちがいる、建物の入り口の前で道を塞ぐように戦う必要があるので、ここから動くことはできないのですが。
照「そうですね。実は、私が直談判しました。天照大神様に彼を殺さず、世界を救うべきだと」
私がそう言うと、月夜見が刀を振りながらも驚いているのがわかる。私は構わず、槍を振るいながら話を続けた。
照「まあ、そこでとある神が私の後ろ盾をしてくださったんです。ノーデンスという神が」
ノーデンス。彼は有名な神で、多くの神からも信頼を寄せられている。そんな彼が『悪魔サタン』の存在について教えてくれたのだ。
照「ノーデンスは、サタンの力を誰よりも危惧していて、私の提案を受け入れるべきだと進言しました。さすがの天照大神様もその提案を条件付きで受け入れてくれました」
私がそこまで話すと、月夜見は聞き返して、
龍時「条件?なんだそれは」
怪物たちを相手にしながらもこちらを見てそう言った。
照「はい、それは、私が魅守一兎みかみいちと が力を悪用しないかの監視をすること。そして、彼が力を悪用しなかった暁には、私は魅守一兎及び魅守家に力を貸し、世界を守れと。そう言われました」
私がそう言うと、彼は納得したように息を吐き、
龍時「なるほどな。それがお前の【秘密】ってやつか」
と言った。私は再び前方へ『焔返し』を放ちながら、返答した。
照「その通りです」

天野照あまのてるの【秘密】
照は魅守一兎を死なせてはいけない、世界にとっての重要人物だと思っている。
照の目的は、魅守一兎及び魅守家の為に尽力し、彼らと世界を守ることだ。

龍時「まあ、知りたいことも知れたし、ここいらで本気を出すとするか?」
と彼が吹っ切れたように言った。しかし私は、
照「あなたはバカですか?これ、どう考えても無限湧きでしょう。このタイミングで本気出したら後で厳しくなりますよ?」
その言葉を聞いた月夜見は、
龍時「え?マジで言ってる?これ・・・無限湧きなの・・・?」
と、めんどくさそうな、困ったような表情を見せる。
照「まさか、怖気づきましたか?」
私がそう煽ると、
龍時「ハンッ、まさか」
と煽るような笑みを浮かべる魅守一兎の師、月夜見龍時だった。