・・・本当にあれでよかったの?そんなわけないよね?それじゃあ、やり直そう。いくよ。【終演廻路】
さあ、もう一度同じ演目を始めよう。
ーICHITO`SVIEWー
俺たち『銀狼』のメンバーは、これまで様々なことがありながらも、協力して困難を乗り越えてきた。
種族戦争は残念ながら規模を拡大している。日本だけじゃない。外国でも同じようなことが起きている。
それをすべて行っているのが佐々木盗真
率いるセフィラム能力規制派・・・いや、今現在ではこのような事態になってしまったために佐々木の下から離れていった者はたくさんいる。というか、ほとんど離れていったはずだ。
方法はどうであれ、規制派の連中もこの世界をよくしたいと思って活動していたので、世界を破壊するなんてことには協力できないと思っているはずだ。
世界中の様々な機能は麻痺し、復旧するのは時間がかかるだろう。それに、まだ戦争が終わったわけではないため、復旧したくてもできないというのが現状だ。俺たちは『白鷺
』のみんなのおかげで何とかほかの地域や海外の情報を手に入れることができているが、多くの人は手に入れることができず、不安になっていることだろう。
そんな暗い日々にもちょっとした休息はある。それが今この瞬間だ。
俺と歌恋
はここ最近いろいろ頑張りすぎだということで休ませてもらった。今は忙しいというわけもなく、ゆったりできるので、俺たちは気分転換の為に外へ出ることにした。
歌恋「うーん、ちょっと暑くなってきたね・・・」
歌恋がそんなことを言い出す。なぜか、この会話を以前にもしたような気がするが、気にせずに
一兎「そうだな・・・本当ならこの時期は期末テストの勉強で忙しいはずなんだがな・・・こんな風に忙しくなるとは・・・」
俺はそう返した。
種族戦争が始まってからなんだかんだ言って一か月以上は経っている。世界的に見たら比較的恵まれている日本でも飢え死にする者もいるくらいにはこの世界の状況はあまりよろしくない。俺たちも、非常食がそろそろ底をつきそうだとか何とか。非常食とは別に備蓄食料も用意していたが、近くの避難している人たちに分けたため、俺たちの分は残っていない。
歌恋「さすがに、非常食だけじゃお腹すいちゃうよね・・・まあ、イチ兄と幽さんのおかげで『銀狼』の支部がある地域は食糧難にはなっていないだろうけど・・・」
歌恋の言う通り、俺は最終演目
を使って、農産物を大量生産している。それくらいならば簡単にできるので、ちょっとした合間に育てて幽さんに日本各地にある『銀狼』の支部に送ってもらい、食料難から多くの人を救おうとしている。しかし、この会話も・・・以前に似たようなことが・・・?
一兎「ま、まあ、それを発案したのは歌恋だからな・・・さすがとしか言いようがない」
そう、この作戦は歌恋の発案だ。多くの人を救えないかと考えた歌恋が思考を巡らせた結果、俺の能力に目を付けたのだ。
歌恋「でもさ・・・イチ兄の負担がすごいと思うんだ・・・能力を使いすぎて大丈夫なのかなぁって」
歌恋が心配そうに俺を見る。その表情も、遠くない過去に見た気がする。
歌恋の言う通り、俺は能力を使いすぎて、一日のやるべきことが終わると疲労困憊で仮眠をするはずが、熟睡をしてしまう。
一兎「そうだな・・・確かに疲れてはいるが、そこまで問題はない。仮眠ではなく熟睡をしているからな」
俺は決め顔でそう言ってみた。すると、歌恋はぷっと笑い、
歌恋「イチ兄・・・それはいろんな意味でダメだと思う・・・」
と言われてしまった。なぜだろうか、能力を使っていないのにその反応が来ると確信していた。
一兎「確かにそうだな。これからは無理はしないでおくよ」
と、俺は歌恋にやさしく言った。しかし歌恋はあきらめたようにため息をつくと、
歌恋「どうせ、イチ兄は無茶するんでしょ?わかってるんだから」
と言いながら肘で軽く小突かれた。この感触も俺は・・・識っている。
そんな会話をしながら俺たちは近くの神社に来ていた。時間的にはそろそろ夕方だが、空は灰色の雲が覆っており、普段は夕日がキレイに見えるこの神社からも、何も『見えなかった。』
だが、見えなかったのは夕日だけだった。俺たちの『明日ははっきりと視える。』
歌恋「うーん、夕日を見に来たのに、こんな天気だとがっかりだね・・・」
歌恋は残念そうにそう言った。その言葉に対して俺は、
一兎「そうだな・・・でも、今度来た時にはきっと見えるよ」
俺は確信を持ってそう言い、曇天を仰いだ。
すると、歌恋が俺に声をかけてきた。
歌恋「ねぇ、イチ兄。あのね、私。イチ兄に言いたいことがあったんだ」
歌恋は頬を夕日に照らされたように赤く染めながらそう言った。
一兎「なんだ?」
俺が歌恋の方に視線を向けると、歌恋は・・・
歌恋「好きです。私と付き合ってください」
一兎「・・・ッ」
歌恋の言葉に俺は息を呑んだ。俺はそれに返答しようとして、気が付いた。歌恋の後ろの人影に。
一兎「なっ・・・佐々木盗真・・・?」
雰囲気をぶち壊した犯人は、佐々木盗真だった。
歌恋「え?どうしてここに!?」
俺と歌恋が驚いていると、佐々木盗真は口を開いた。
盗真「甘いラブストーリーはここで終わりだ」
そう言って、奴は臨戦態勢をとる。なので俺たちも、
一兎「神剣・・・断華、遡月、核飛車
!」
歌恋「妖術、第漆幕、光刻の聖剣
!」
俺は三振りの神剣を空中に顕現させ、歌恋は光の剣を装備する。だがしかし
盗真「無駄だ。略奪・ラストフィクサー!」
半透明の巨大な腕が超高速でこちらを掴もうと迫ってくる。
一兎「しまっ・・・」
俺は突然のことで反応しきれなかった。そしてそれは奴の思い通りだったというわけだ。このあと、歌恋が俺を守ろうとするのも含めて。
歌恋「イチ兄!」
歌恋が・・・俺の前に立つ。しかし、歌恋にその腕が触れることは無かった。なぜなら。
『パリン』
突如歌恋の体から飛び出してきた【百鬼の勾玉】がその腕により壊された。
盗真「なんだと・・・?」
奴もこれは予想していなかったようだ。もちろん、俺たちも驚いている。
一兎「まさか・・・!終焉廻路」
俺が勾玉に向けて能力を使うと、一人の少女が姿を現した。それは多恵だとなぜか確信を持てた。
多恵「どう?僕はお役に立てたかい?」
多恵は苦笑いをしながらそう言った。
歌恋「まさか・・・私たちを守る為に飛び出したの?」
歌恋が涙目になりながらそう言った。歌恋はもうすでに察しているのだろう。勾玉が壊れた今、多恵は消滅してしまうということが。俺の能力で一時的に多恵の姿を具現化させて最後の時間を作っているということも。
多恵「そうさ。僕は、二人を守りたかったんだ。僕らとは違って、これから幸せに生きて行けるであろう二人を。識ってたんだ。僕がこうしないと、歌恋は死んで、一兎が暴走して、世界を壊すという未来を僕は体験したから」
多恵は優しい笑顔でそう言った。
一兎「すまん。もうそろそろ能力の限界だ・・・」
俺がそう言うと、多恵は仕方ないとでも言うように、最後にこう言った。
多恵「歌恋。今までありがとう。短い時間だったけど、楽しかったよ。あとは、もうわかるね?一兎と幸せな未来を創ってくれ。一兎!歌恋を泣かせたら祟りとなって君を襲いに来るから、覚悟しておいてね」
多恵が幽霊のマネをしながらそう言ってきた。
一兎「わかってる」
俺がそう言うと、多恵は満足したようにうなずき、
多恵「ありがとう。さようなら」
光の粒子となって天に昇った。
そして、勾玉の中に宿る力は・・・
盗真「くそ!この程度しか集まらなかったか!仕方がない。ここは撤退だ」
半分ほどは佐々木に行き、もう半分は、俺と歌恋に譲渡された。
歌恋「・・・・多恵ちゃん」
涙で目が赤くなった歌恋は、真っ二つに割れた百鬼の勾玉を拾って握りしめていた。
そして俺は、空を見上げた。その空は、先程までどんよりとした曇り空だったのが美しい青空になっていた。
一兎「止まるなってことか・・・いいだろう。この最低で最悪な演目に終焉をつけようか」