第十四話 世界の涙

ーANOTHERVIEWー
佐々木盗真ささきとうまが引き起こした種族戦争は、当然、藤ノ宮ふじのみや 市だけでなく、日本中・・・それどころか世界中で繰り広げられていた。だが、各地には『銀狼ぎんろう』の支部や、それと似たような組織が戦争から人々を守っていた。

・アメリカ
「くっ・・・やはり、悪魔は強いな。だが、みんなのためにもここで負けるわけにはいかない!」
アメリカのとある地域では、たくさんの悪魔たちが空を覆って、人々を襲っていた。しかし、その地域に存在していた、対神話生物の組織に所属している者たちが全力で抵抗していた。
「もう少しの辛抱だ!ここから先には何も進ませてはならないぞ!」
仲間同士で声を掛け合って連携を取りながら、魔術を使用する。セフィラム能力者も少ないが存在しているため、彼らと協力しながら戦っている。
「よしっ!これですべて倒したぞ!」
悪魔や神話生物に対抗する手段は何もセフィラム能力や妖怪の力だけではない。魔術もある。佐々木によって世界各地に広げられた悪魔・神話的存在の召喚術は魔術によるものだ。であれば、他の人間が魔術を使えないという道理はない。

・エジプト
「みんな!あと一時間で日が昇る!今ここにいるモンスターたちは光に弱い奴が多いはずだ!そうなれば少しは楽になる!」
エジプトもアメリカ同様、多くの人々が戦っていた。この二国の共通点はやはり、仲間と共に共闘し、困難を打ち砕こうとしているところだろう。種族戦争は多くの人々に絶望を与えているが、その中では人間の結束力というものが力を示している。しかし、人間にも悪者という存在はいるものだ。

・ロシア
「へへっ。食料ゲットだぜ・・・これで明日も・・・」
「おい!お前何をしている!」
一人のやせ細った青年が食料を盗み、それを追いかけるその食料の持ち主。
「うるせー!こうでもしないと生きていられねぇんだよ!」
彼の言い分もわからないでもない。このようなことは世界各地で起きている。戦争により、食料の生産は止まり、交通機関も機能していない。そうなれば飢餓寸前の人がたくさんいるのは何も不自然なことではない。
「はぁ・・・はぁ・・・あれ?死んだ・・・ははっこれで俺も人殺しか・・・ははっ」
このように怪物たちではなく、一般人によって殺される例だってたくさんある。種族戦争でよくわかったのは、人間の恐ろしさだ。セフィラム能力などなくとも強盗や殺人は普通に起こる。規制派が今までやってきたことはたとえうまくいったとしても無意味だったのだ。
・・・いや、むしろ無意味だったから世界を滅ぼすという発想に至ったのかもしれないが・・・
人間の醜さを十分すぎるほど映し出したのがこの戦争だ。たった一つの悪意が異常なほどまでに膨れ上がり、それが爆発した瞬間から、その悪意は他人へと伝播する。

・日本 北海道
「あらら・・・これは世界の均衡がぐっちゃぐちゃだね・・・どうしようかな・・・うちの組織はあんまり表沙汰にできないんだよなぁ・・・まあ、陰ながら頑張りますか・・・」
とある秘密結社では目立たないように奴らを殲滅している。彼らは二十五年後に面白い動きをしてくれるだろうから、今はあまり期待していない。だが、彼らのように闇に紛れて戦う者たちも多い。少なくとも、世界平和やら世界を守ることを目的としている組織は世界を守る為に動いているだろう。だが、今後のことを見据えて動くのは最小限でというのが大半だ。今回、『銀狼』はかなり派手に動いているため、戦争が終結したら彼らはその存在を表にするしかなくなるだろう。もっとも、戦争の終結は規制派の敗北を意味するため、公開政府組織になるための弊害はなくなるだろう。
「・・・了解。本部から指令だよ。私たち北海道支部は、人目を忍んで怪物たちの討伐をしろだってさ」

本当に、人間社会っていうものは複雑なものだ。
秘密にしておきたい組織は大っぴらには動けない。なんとも不便だ。

・中国
「ああああああああああ!」
ここには発狂して精神状況が異常な状態になっている者がいる。これも、ここだけでなくたくさんの場所で見られる。普通に生きていれば目にすることもなく、そもそも人間が想像できる範囲を超えているような見た目の怪物を見てしまえば、並の人間であれば正気を保つことはできない。というか、『銀狼』の連中の精神力が強すぎるだけなんだが・・・
「おい!お前!大丈夫か!?正気に戻れ!」
他人に声をかけられたって正気を取り戻せるかどうかなんてわからない。むしろ、戻りにくいだろう。それが愛する人のものであったり、そういったことに長けている人でなければ戻らないだろう。
でも、こういう光景は僕にとっては大好物だ。人間の狂気ほど面白いものはない。ただ、それ以上に面白い存在にそう遠くない未来で出会えるというのが楽しみなだけだ。

・イギリス
「・・・キレイ」
一人の成人したばかりであろう女性がこの狂気に満ち溢れた景色を見てそうつぶやいた。
この戦争の景色を見てそんな事を言えるなんて、ただ者じゃない。
「あははははははははっこの景色!もっと!もっと永遠に続けばいいのに!」
なるほど。佐々木盗真のように復讐心でもなんでもなく、ただこの景色に惚れ込み、戦争を再び起こそうとする、異常な趣向の持ち主もいるということだ。この女が将来、再び種族戦争を引き起こすことに期待をして、今回の戦争を幕引きにしてしまってもいいかもしれない。あの時、佐々木盗真にああ言ったが、僕にとってはあまり世界を滅ぼすということはこのタイミングではしてほしくない。

・日本 藤ノ宮
盗真「さて、そろそろアレを回収するか」
佐々木盗真は何かを企んでいるようだ。近くには『銀狼』にスパイとして潜入していた星宮幸ほしみやゆき。そして、常陸歌恋ひたちかれん の実の兄である、常陸光汰ひたちこうたがいる。
常陸光汰か・・・厄介な奴と一緒にいる。まあ、直接手を加えるつもりはないし、人間の姿であるうちはそういう派手なことはするつもりはない。まあ、それくらいならどうとでもなるんだけどね。
幸「おっとうとうやるんすね。でも・・・光汰さん。いいんすか?」
星宮幸は常陸光汰にそう聞いた。ということはつまり常陸光汰に大きく関係することなのだろう。
光汰「ふん。別に構わないさ。あのクズが死ぬのは俺にとっては最高なことだからな」
常陸光汰がクズと呼ぶ人間。そして、そいつは佐々木盗真の望む物を持っている。
この二つの情報があれば誰でもこれから何が起こるかは想像がつくだろう。
幸「うっわ~辛辣ぅ~」
星宮幸が冗談っぽくそう言った。まあ、こいつらは人が死ぬことなんてどうでもいいんだろうな。
盗真「そうか・・・それなら、手段を選ぶことなくやれるな」
佐々木盗真は正気を保った人間にしてはなかなかに狂っている。そうでもなければ、セフィラム能力の規制という発想が世界を破壊するという極端な発想へと変化することなどないだろう。
光汰「それじゃあ、盗真さん。あいつに引導を渡してやってください」
常陸光汰は佐々木盗真に向かってそう言った。
この男もなかなか狂っている。だが、この男が物語フラグメントに必要であることに変わりはない。
そんな重要人物が佐々木盗真にそう言った。佐々木盗真はもちろんうなずく。そして、
盗真「ああ、それでは行ってくるとしよう」
佐々木盗真は扉を開き、外へと出る。彼の進む道は迷うことを知らない。まるで目的の人物がどこにいるのかわかっているかのように。
盗真「さて・・・不意打ちはこちらの得意分野だし、これくらいは簡単だろう」
佐々木盗真は悪意と狂気に満ち溢れた表情で歩を進める。それと同じように空では雲が行軍しており、彼の黒い感情をより一層際立たせる。
彼の目的についてはわざわざ言及する意味がないので省かさせてもらおう。
どうせ、次で分かる話だ。
観測者「・・・次で全部完結かな?」
などと僕は冗談を言って、再び空を見た。先ほど行軍していた雲は、空をすっぽり覆って今にも水滴が落ちてきそうなほど雰囲気を暗くしている。
世界が・・・彼が涙を流すのは時間の問題だろう。