第十二話 果てしなく続く最後の路

ゆき「今のを避けたくらいで調子に乗るな!」
幸が大量のナイフを地面に落とし、そのナイフと共に突撃してくる。
一兎「別に、調子に乗ってるわけじゃない。ただ原点回帰しただけだ」
そう言いながら、両手に握られている二振りの神剣に妖力を流す。
一兎「妖術ようじゅつ幕引まくびき、二連続発動、終炎ノ一太刀しゅうえんのひとたち!」
巨大な二振りの炎の剣が現れる。そしてその炎はナイフを焼き斬った。
幸「マジかよ・・・!」
その様子を見た幸は慌てて後ろへ飛び退けた。
幸「おいおい・・・妖力による攻撃なのになんでこっちのナイフが焼かれてんだよ・・・」
幸は妖力を貫通する装備を貫通してくると思って飛び退けたようだ。
一兎「簡単な話だ。俺がそういう設定をしたからだよ」
終焉廻路ラストプログラム 。魂を司る能力。終焉回路では、自身と自身の触れている物の設定をいじるだけだったのが、そこに魂の力が加わった。本来死んでいるはずの魂を司る。それは世界の理から逸脱していることであるため、秘めている力は俺でも想像はできない。最終演目 ラストステージ が自然を操り、終焉廻路は自然から逸脱した力を生み出す。制御するためにまた特訓しなければならないようだ。
幸「終焉回路か・・・でもそれは今まで使えなかったはず・・・」
幸は動揺をしている。その隙を見逃すほど俺は甘くない。
一兎「妖術ようじゅつ第伍幕だいごまく氷道輪月ひょうどうりんげつ
刀から氷の斬撃を飛ばす。そのついでに神剣を二振りとも投げる。能力で狙ったところに確実に当たるように設定しておいたため、吸い込まれるように氷の斬撃と共に幸の元へ飛んでいく。
幸「俺のマネかよ!」
幸はそれらを完璧に避けて見せた。しかし・・・
一兎「俺の目的はそっちじゃない。『影縫い』だ!」
二振りの神剣は幸の後ろへ飛んで行ったかと思うと、方向を変えて幸の影に突き刺さった。
幸「くっ、動けねぇ・・・」
幸はその場から動けなくなってしまった。だが、腕は動くため、必死の抵抗をする。
一兎「残念だが、俺にその攻撃は届かない。妖術ようじゅつ第肆幕だいしまく氷柱華ひょうちゅうか
氷の盾で攻撃を防ぐ。
一兎「最終演目。自然回復速度上昇。妖術、第壱幕から第拾幕まで、同時発動」
あたり一面が氷まみれになる。氷の柱やらオブジェのような氷。地面も凍っているし、『第玖幕だいくまく絶対零度ぜったいれいど 』の効果による強力な吹雪も吹いている。
幸「いやいや・・・寒すぎるって!」
幸はもう平静を保てていない。俺は『第捌幕だいはちまく結露氷明けつろひょうめい 』の効果で空中に氷の足場を作り、そのうえに立つ。さらに高い場所へ足場を作り、高度を上げていく。
一兎「これで終演だ。最終演目!」
俺は五芒星ごぼうせいを空中に描き、それを右足に纏わせる。
一兎「妖術ようじゅつ幕引まくびき、氷雪月華ひょうせつげっか!」
あたりにあったすべての氷がパキパキッという音を立てながら俺の元へ集まり、全て右足から右肩にかけて武装する。当然、足場の氷もその一部となり、俺は急降下をし始める。その下には幸の姿が。
一兎「終焉廻路!エタニティキック!」
左足を曲げ、右足だけを突き出した状態にする。そしてそのまま・・・
一兎「くらえぇええええ!」
幸「ぐぁああああああ!」
俺の右足が勢いよく幸の体を蹴り飛ばす。その瞬間、『影縫かげぬい』も解除された。
幸「くっ・・・さすがに、今回は逃げなきゃダメかぁ・・・」
幸が謎の魔導書のようなものを取り出す。
一兎「・・・」
しかし俺はそれを止めようとはしない。幸がテレポートか何かで撤退するのは識っているからだ。
幸「追ってこないんだな。俺が戻ったら『白鷺しらさぎ』場所もバレてしまうというのに・・・」
幸は脅してくる。そして幸の足元に魔法陣が出現する。しかし俺は追わない。ただ俺は、
一兎「やれるもんなら、やってみるといい」
俺のその言葉聞き、幸は眉間にしわを寄せながらも姿を消した。

-YUKI`SVIEW-
幸「佐々木ささきさん、帰ってきましたよ。さすがにバレましたね」
俺は一兎から撤退したのちに、規制派の本拠地に戻ってきた。
盗真とうま「・・・星宮ほしみや、そのケガはなんだ?まさかその装備で魅守一兎に負けたのか?」
佐々木さんが睨んでくる。
幸「はい、その通りですね。なぜか使えるようになっていた終焉回路で返り討ちにあいました・・・」
俺のその言葉を聞いた佐々木さんは、一瞬驚き、納得したように首肯した。
盗真「なるほどな。それなら仕方がないか・・・それで?奴らの本拠地はどこにある?」
佐々木さんがそう尋ねてきたので、俺は当然、スマホの地図を見せて、
幸「ここですよ。この地味そうなビルにいました」
俺がそう教えると、佐々木さんは、何やら端末にいろいろ打ち込み始めた。
盗真「よくやった。それならば奴らを沈めてやろう」
カタカタしてた佐々木さんの指は、思いっきりエンターキーを押すようにカタン!と音を鳴らした。
幸「何をしていたんですか?」
そんな俺の質問に佐々木さんは口元をにやりと歪ませ、
盗真「ミサイルだよ。私の能力で隠蔽していた、街一つをつぶせるだけの・・・ね」
佐々木さんはどこか楽しそうな口調でそう言った。
幸「すっげぇ・・・これって映像とか見れないんですか?」
俺がそう言うと、佐々木さんは「ほら」と言って映像を俺に見せてくれた。
その映像には、ミサイルが『白鷺』の本部へすごい速さで向かっている様子が映っていた。
幸「こういうのって見てると興奮してくるんすよねぇ」
そういいながら、ミサイルが着弾するのを心待ちにしながら見ていると・・・
盗真「・・・ッ!これは!」
幸「なるほど・・だからあいつは俺のことを追ってこなかったのか・・・」
佐々木さんと俺はともに驚く。なぜなら、
盗真「私のミサイルを防げるだけの結界を作るなんてな・・・少々あの男を侮りすぎていたか・・・」
佐々木さんの言う通り、ミサイルは、突如として消滅してしまったのだ。ミサイルとしての機能を失い、バラバラになって崩れていった。
幸「こんな結界、たったの数分じゃ作れないよな・・・一兎のやつ、俺の知らないうちにこんなものを・・・いや、もしかしたら全員に内緒で作ってたのか・・・」
俺たちは一兎に一歩先を越されてしまった。だが、佐々木さんは「フッ」と鼻で笑い、
盗真「まったく、どこまでも楽しませくれる・・・だが、これで勝ったと思ったら大間違いだぞ」
そう言いながら佐々木さんは、手から赤と紫が混じった炎を発生させる。
幸「それが、悪魔サタンの力ですか?」
俺がそう尋ねると、
盗真「ああ、そうだ。この力の制御をする特訓のようなものだ。そして、そろそろ奴は目覚める」
佐々木さんが言う『奴』というのはサタンのことだ。サタンと契約し、世界を滅ぼすためにサタンに力を供給するのが今の佐々木さんの目的だ。
幸「ということは、最終決戦は近い・・・ということですね?」
俺が佐々木さんにそう聞くと、佐々木さんは立ち上がって言った。
盗真「ああ!人間の・・・いや、この世界の最終演目は、もう止まらない!」