第十一話 絶対投擲の開猿

-ICHITO`SVIEW-
一兎いちとゆき・・・」
俺たちの目の前に現れた幸は、こちらに気が付くと
幸「よお、一兎・・・全部、気づいたみたいだな」
そう言った。
一兎「こんなことになるなんて、思いもしなかったがな。でも、これが真実なんだな」
俺がそう言うと、幸は静かにうなずき、
幸「こうなったからには、やることはわかってるよな、一兎」
手を後ろに組んだ状態で幸がそう言う。その動作の意味に気づかず俺は戦いを挑んでしまった。
一兎「最終演目ラストステージ・・・ッ!」
能力を発動するよりも先に俺の体は回避行動を起こす。なぜなら、どこからともなくナイフが俺の元へ飛んできたからだ。
幸「投げるってのは、思いっきり投げるだけじゃないんだ、落とすように軽く投げても、能力は発動するし、それに威力や速度まで調整できる。だから、今までのようにはいかないぜ」
能力に関しては深夜しんやの言っていた通りだった。だが、ほぼノーモーションで高火力な遠距離攻撃をしてくるのは、想った以上に厄介だ。油断をすると負けてしまいそうだ。
一兎「ちょっとめんどくさいな・・・フロストフェーズ!」
フロストフェーズ。簡単に言えばバーンフェーズの氷属性バージョンだ。全身に薄い水色のオーラと、雪のような氷の結晶を纏った状態である。バーンフェーズはまとった炎で焼き尽くす力があり、フロストアップはまとった冷気で凍らせる力がある。幸の攻撃は燃え尽きる前にこちらへ届きそうだったので、凍らせて防ぐ作戦に出た。
幸「あーなるほど、そう来るか・・・」
俺のこの状態に幸はあまり驚いている様子がない。もしかして予想していたのか・・・?
一兎「妖術ようじゅつ第肆幕だいしまく不死鳥ふしちょう!」
俺はさらに全身に炎を纏い、炎でできた翼で飛ぶように幸に向かってキックを繰り出す。
幸「絶対投擲・・・」
幸は手でつかんだたくさんたくさんの金属のようなものを取り出し、俺に向けて投げた。それは、俺の炎と氷を貫通しないと思ったいたのだが・・・
れい(まずい・・・!終焉回路ラストプログラム!)
歌恋かれん「イチ兄!危ない!終焉機構ラストシステム!」
歌恋の能力で俺の動きが止められた。そして金属は、炎と氷を貫通して俺の体に当たっていた。お母さんが能力で硬化してくれなかったら貫かれていただろう・・・それも、投げてきたものは銃弾だった。
一兎「あ、ありがとう・・・助かったよ・・・」
俺は混乱を起こさぬようにあえて二人称を言わずに感謝の言葉を述べた。
幸「未来予知と神楽かぐらによる予測か・・・厄介だな・・・」
一兎「それより、そっちの攻撃のほうが厄介だよ・・・妖術を貫通してくるとか・・・やばすぎだろ」
あいつの攻撃は妖術、及び妖力を貫通してくるようだ。能力による副産物だとは思えない。となると、投げている物に何か秘密があるのだろうか。俺がそう考えていると、脳内から再び声がした。
霊(一兎、私に考えがあるんだけど・・・)
お母さんだった。
霊(私の能力を完全に譲渡する。まあ、その過程で私は消えちゃうわけだけど。)
自分を代償にした作戦だった。
一兎(それって・・・)
そんなことを会話していると、大量の弾丸が降り注ぐ。
一兎「クッソ!最終演目!」
能力で炎と雷を凝縮させた巨大な球を放ち、弾丸を消し飛ばした。
霊(一兎、悩んでる場合じゃないよ。)
お母さんの催促が聞こえる・・・俺はそれでも悩み続けていた。正直、頑張れば幸を倒すことができるかもしれない。でも、おそらく苦戦はする。能力の相性的に歌恋は太刀打ちできない。深夜たちがこっちに来るのも時間がかかる。それに、そもそもこちらに向かってきてるかどうかも分からない。妖術による防御もできないため、防御手段が限られてくる。攻撃も、幸はある程度の距離を保っているため、できることは限られる。
一兎「秘守術ひかみじゅつ天地人ノ道てんちじんのみち千変万化ノ結せんぺんばんかのむすび 神剣しんけん赫飛車かくびしゃ断華たちばな!」
赤いマントが揺れる。俺はそのまま攻撃を仕掛ける。
幸「接近戦なら勝てると踏んだのか。でも、無駄だ!」
幸はコンバットナイフを取り出し、俺の攻撃に対応する。もう一方の手で投擲をする。
一兎「いってぇなぁ・・・妖術ようじゅつ第拾幕だいじゅうまく、同時発動、氷獄天霧ひょうごくてんむ 炎龍乱舞えんりゅうらんぶ!」
無数の氷の巨大な棘と無数の炎の龍が幸を襲う。だがしかし、
幸「さすがにそれは対策済みだ」
俺の攻撃は、謎の結界によって防がれてしまった。
一兎「なんだと・・・?」
妖術に対する対抗策を持っていたようだ。つまり、先程から後方で不意打ちを狙っていた歌恋の攻撃も無意味ということになる。
幸「これこそが、佐々木さんたちが発明した対妖怪の武装。お前じゃ俺を倒せない」
幸の言う通りだ。このままでは俺は幸をたおせない。その前に倒される・・・
霊(一兎。覚悟を決めて。私はどのみち、一週間以内には自然消滅してしまうの。私の能力にも限界があるからね。だから、遅いか早いかの違いだよ。だから・・・)
俺は、決断ができない。お母さんが消滅するのはなんとなくわかっていた。でも、こんな別れ方は・・・
幸「もういい。さっさと死ね」
決断をすることに迷っていた俺を無数の弾丸が襲う。考え込んでいたため、反応が遅れる。
一兎「しまっ・・・」
その瞬間・・・
歌恋「危ない!」
歌恋が能力で弾丸を防ごうと俺の前に出て、いくつかは止めたが、半分くらいは受けてしまった。
歌恋「きゃっ・・・!」
その様子を見た俺は・・・
霊(いい加減にしなさい!一兎!いつまでも死人の私に構わないで!今生きてる人の為にできることをしなさい!あなたは自分が決めたことも忘れてしまったの?)

一兎の【秘密】
歌恋を守る。たったそれだけだ。

その言葉を聞いて、俺は・・・覚悟を決めた。
一兎(わかった。行こう、お母さん。お母さんの最終演目だ。)
霊(うん、それでこそ、私の息子。いいんだよ、それで。この能力がある限り、私は一兎といつまでも一緒。この能力が私たちの繋がり。だから、あとは気にせず、ちゃちゃっと世界を救ってきてね!)
その言葉を最後に、お母さんの気配が消えた。いや、消えてはいない、能力として、お母さんの想いは、今もこの体の中にある・・・
俺は、歌恋の前に出て、幸と再び対峙する。
幸「今度は死にに来たのか?それなら大歓迎だ!絶対投擲!」
再び大量の弾丸が襲ってくる。だが・・・
一兎「終焉廻路・・・!」
弾丸は全て俺の二振りの刀ですべて切り落とされる。なぜなら、どれだけの量が、どこへ飛んでくるのか識っていたし、そもそも体も超硬化していたため、切り落とすのが失敗してたとしても、問題はなかった。
幸「は?マジかよ・・・この量を斬るってマジモンのバケモンじゃねぇか・・・」
幸が動揺をしている。これが一番の狙いだ。
そして、俺は俺とお母さんの決め台詞をこの瞬間に言った。
一兎「さあ、行くぞ幸。次の演目を、始めようか」