第十話 猿は逃げる

一兎いちと「チッ、月夜見つくよみさんと連絡が取れない・・・!」
俺はゆきの正体を知った後、すぐに幸と共に行動をしている月夜見さんに連絡をしようと試みた。だが、できなかった。一方、ゆう さんは幸に連絡をした。だがもちろん。
幽「だめだ・・・幸とも連絡が取れない」
こちらの行動をほぼ完璧に把握されている。
深夜しんや「じゃあ、『白鷺しらさぎ』の皆さんに協力をしてもらって、月夜見さんと幸を探すのが一番かな?」
深夜がそう提案したが、『白鷺』の班長の長木ながきさんは首を横に振った。
登美晴「悪いけど、それはできない。こちらも今手が足りてない状況だ。この戦争の騒ぎで犯罪行為を働くセフィラム能力者が増えていて、その騒ぎを食い止めるべく、現場に出ている『銀狼』の隊員に情報を回したりと忙しいんだ」
長木さんは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら言った。こんな状況だ。大方、食糧難になってしまった能力者が食料の略奪をしようとしたりしたんだろう。それか、人間の想像できる範疇を超えた悪魔などの神話生物を見てしまったことで発狂し、暴れだしたのか。だが、この様な状況になってしまった以上、こうなるのは必然ともいえる。そして、こうなることで一番恐ろしい存在になるのは、無能力者たちだ。このような事件を受けて、何の罪も犯していない能力者たちを危険分子として避難所から追い払うというような行動に出る可能性がある。それに、窃盗などの犯罪行為をしているのは無能力者も同じだろうに。
一兎「仕方がない。ここからは自分の足で見つける・・・だがその前に、俺は歌恋かれんの所へ行ってきていいか?」
俺がそう聞くと、深夜は、
深夜「うん、わかった。多分、そこに有栖ありすもいるよね?それなら僕もついていくよ」
そう言って、その話を聞いていた幽さんが俺たちに向かって
幽「それなら歌恋たちが今いる避難所の方へテレポートさせよう。それでは、健闘を祈る」
幽さんの能力が発動。俺と深夜はテレポートした。テレポートした場所は、
一兎「学園か。ここもひどいありさまだな」
藤ノ宮学園ふじのみやがくえん。俺たちが通っている高校だ。
深夜「でも、ここならセフィラム能力者も安全だよね」
深夜の言う通り、この学園はセフィラム能力に関する学習過程もあり、能力者にやさしい学園だ。だから、先程言ったような能力者が差別されることはないだろう。
一兎「まあいい。とりあえず歌恋たちを探そう」
俺がそう言いながら歩きだすと、見慣れた金髪の女性がいた。
てる魅守一兎みかみいちと?それに鏡深夜かがみしんやも・・・」
一兎「照か!合流できてよかった」
俺たちは照と合流できた。そして、俺と深夜は簡単に照に現状を話した。
照「なるほど。つまり、星宮幸ほしみやゆきはスパイだった・・・と。他の方々は動けそうにないので私たちに協力を要請しに来たということですか?」
照がそう聞くと、俺と深夜はうなずいた。その様子を見た照は、困ったような顔をして、
照「ですが、常陸歌恋ひたちかれんはまだ体の傷が・・・彼女にあまり無茶をさせるのは気が引けますね・・・」
と。すると、照の後ろから声がした。
歌恋「私なら大丈夫だよ!」
歌恋だ。その後ろには有栖もいる。
照「な、傷がまた開くかもしれませんから、じっとして・・・いて・・・」
歌恋の姿を見た照は絶句していた。なぜなら、傷が一切ないのだから。
歌恋「えへへ、アリサちゃんに私の妖力を増幅してもらって、『逆境超越ぎゃっきょうちょうえつ』の妖術を使って傷を治したんだ。おかげで全快だよ!」
歌恋はそう言いながら右腕をブンブン回す。
一兎「それなら、行けるか?スパイ探し」
俺が挑発的に言うと、向こうも挑発的な笑みを浮かべ、
歌恋「もちろん」
正直な話、歌恋が大きな傷を負ったなんて話は知らなかった。俺と別で戦っているときにケガをしたのだろうが、そういうことを考えると、なおさら俺の傍にいてくれたほうがまだ安心できる。俺が歌恋と合流した理由はただ一つ、心配だったからだ。まあ、それは深夜も同じだったようで、
深夜「有栖、目覚めたばっかなのにそんなに能力を使い続けて大丈夫なのかい?」
有栖「深夜くん・・・私のお父さんみたいだよ?」
という親子のような会話をしていた。
照「はあ・・・仕方ないですね。引き続き私はここを守ってますから、あなたたちは星宮幸を探してください」
照はあきれたようにそう言った。
一兎「ああ、任せとけ。行くぞ、歌恋」
歌恋「うん!」
俺は歌恋と、深夜は有栖と一緒に幸を探すことにした。
歌恋「それにしても、まさか星宮先輩がスパイだったなんて・・・」
歌恋は唐突にそうつぶやいた。
一兎「そうだな。あいつは女癖こそ悪かったが、いつも明るくていいやつだったしな。そう思うのも仕方がないよな。俺もまだ信じきれてない」
俺がそう言うと、歌恋も同意するようにうなずき、
歌恋「うん。嘘だったらよかったのにね」
そんな会話を俺たちが繰り返していると、一人の人影が現れた。
一兎「・・・これってさ、俺たちの運がよかったってことでいいのかな?」
歌恋「多分・・・そうだよね・・・」
その人影の正体は、幸だった。

-SINYA`SVIEW-
僕と有栖は一兎たちとは別の場所を探していた。しかし、僕たちが見つけたのは、
深夜「月夜見さん!」
倒れて苦しんでいる月夜見さんだった。
有栖「深夜くん、大丈夫、私に任せて。減少関数グレードダウン
有栖がそう唱えると、月夜見さんの苦しそうな声が消えた。
深夜「有栖?何をしたんだ?」
僕がそう聞くと、有栖は、
有栖「減少を操る能力で月夜見さんの痛みを減少させたの」
深夜「なんでもありだね、それ」
僕らがそんな会話をしていると、月夜見さんはこちらに気づき、
龍時「深夜と・・・アリサ?」
月夜見さんはそう言って、意識をはっきりさせようと頭を振る。
有栖「今の私はアリサじゃないんだけど」
深夜「月夜見さんは有栖の能力についてまだ知らないからそれくらい我慢しようね」
僕たちがそう会話をしていると、月夜見さんは意識がはっきりしたのか、急に起き上がって、僕の肩を掴んできた。
龍時「そんなことより、一兎が危ない!幸が、一兎を殺すための秘策を持って一兎の元へ向かっていったんだ!」
月夜見さんのその言葉を聞いた僕たちは、顔を合わせて、
有栖「深夜くん・・・これってもしかしてヤヴァイやつ?」
深夜「あ、ああ・・・もしかしなくてもヤヴァイやつだと思うよ・・・」
などということを言い合って、
深夜「すみません、月夜見さん、僕たちは一兎の所へ急行します!『銀狼』には自分で連絡をしておいてくれますか?」
僕がそう言うと、「ああ、分かった」と言って懐から携帯を取り出し、連絡をし始めた。
深夜「有栖、学園の前にテレポートするよ!」
有栖「うん!わかった!」
そして僕たちは学園から一兎たちが向かった方角へ走り出した。