俺たちは鋼汰の部屋へ入った。
鋼汰「ここが俺の部屋です」
中には必要最低限の物しか置いてなく、ベッドやクローゼット、テーブルくらいしかない。
草刃「よいしょっと。それじゃあ、どこから話そうか」
ベッドに腰かけた富山さんがそう言った。俺たちはそんな富山さんを囲むように立っている。傍から見たらいじめているようだ。
一兎「どこからも何も、最初から全部話せばいいじゃないか」
俺がそう言うと、富山さんは軽くうなずき、
草刃「それもそうだな。わかった。全部話そう」
そして、草刃さんの話が始まった。
草刃「始まりは今から七年前。俺が父親に刀鍛冶の見習いとして弟子入りして三年が経ったときのことだ」
富山さんがそう言うと、周りにいた幽さんと長木
さん、そして鋼汰が苦い顔をした。この三人が関係している、もしくは知っていることなのだろう。
草刃「俺が刀の材料を取りに行っていたときのことだ。両親が殺されたという知らせを聞いて、急いで家に帰ったんだ。そのとき、鋼汰にも知らせが届いていたから、ほぼ同じタイミングで家に着いた。家に着くと『銀狼
』のメンバーがいたんだ。まあ、当時はそんな組織のことなんて知らなかったんだがな。彼らは俺たちの両親を守る為にそこへ来たらしい。間に合わなかったがな」
俺はそこまで聞いて富山さんに尋ねる。
一兎「ちょっと待て、なんで富山さんの両親が襲われるってわかったんだ?」
俺がそう言うと、横から幽さんの声がした。
幽「それについては俺から説明しよう。実はその時、『銀狼』にとある情報が流れてきたんだ。セフィラム能力者が人を殺そうとしているとな。その情報源は・・・義姉さんだ。義姉さんが手紙で伝えてくれた。物騒なことに、その封筒には『遺言書』と書かれてあったから驚いたが」
その話を聞いた俺は驚きを隠せなかったが、お母さんには聞かなかった。なぜならお母さんは今力を使いすぎたせいでスリープモードというやつになったらしい。まあ、簡単に言えば寝ている。だが、どうしてそんなことを知っていたかは聞くまでもない。未来を視る能力だろう。
一兎「そりゃそうですよ。七年前はお母さんとお父さんが兄さんに殺された年ですから。三人でこの計画をしていたなら遺言書をタイミングよく書いて、幽さんの元へ送るのも簡単なはずです」
俺がそう言うと、幽さんは納得したようにうなずき、話を続けた。
幽「そうだったのか。まあ、俺はその時不審に思ったんだが、疑わしいなら確かめるしかないと思い、何人かそこへ急行させた。あの時素直に信じていればこんなことにはならなかったんだと思うがな」
幽さんは悔しそうにそう言った。すると、富山さんが、
草刃「まあ、後悔先に立たずってことだ。気にするな」
そう言って、再び話し出した。
草刃「それで、俺はなんで両親が殺されたのか気になって、独自で調査をしていたんだ。あんな辺鄙な場所にどうして能力者が襲いに来たのかが気になってな。妖怪とかだったらまだ分からんでもないが、普通のそこらへんにいるような能力者がわざわざあんなところまできて人殺しをするのは不自然すぎるだろ?そして登美晴
にも協力してもらって調査を進めていった結果・・・」
俺はその続きが予想できたので口にした。
一兎「佐々木盗真が怪しいことに気が付いた・・・」
富山さんはそれを聞くと、深く首肯した。以前、富山さんが佐々木盗真のことを探っているということを聞いたので、このことは容易に想像ができた。
草刃「あの男が俺たちの家に能力者を送ったんだ。きっちり大金を払ってな。だが、俺がつかめた情報は、眉唾なもので、あいつを失脚させるには証拠が足りなさ過ぎた。それで今まで武器を作る傍ら、奴のことを調べていた。まあ、調べすぎて奴につかまっちまったんだが」
富山さんが自嘲気味にそう言った。俺はなんとなく鋼汰のほうを見てみた。すると、拳に力を入れ、かすかにふるえていることが分かった。怒りが抑えきれないのだろう。その気持ちは親の仇に復讐することだけを考えて生きてきた俺にはよくわかる。それに気づいているのかどうかは知らないが、富山さんが話を続けた。
草刃「俺があいつに捕まったあと、聞かされた話がある。それは、あいつがどうしてこんなことをしているかだ。あいつには、かつて愛する女性がいたようなんだ。しかし、その女性は、セフィラム能力者によって殺された。その一件からセフィラム能力を危険視し、規制派を発足させた。俺の両親を殺させたのは、セフィラム能力者に大切な人を殺された人が増えれば自分に賛同する人が増えると思ったからだと言っていた」
いろいろツッコミたいことはあった。でも、誰も口を開こうとはしなかった。それだけ衝撃的だったのだろう。
草刃「そしてあいつはあの手この手でセフィラム能力を規制したが、無意味に終わった。そしてあいつは考えた。どうやってもこの世界はセフィラム能力を認めてしまうと・・・」
そこまで話してくれれば奴がどんな思考に至ったかはわかる。要するに、この世界へ復讐をしようとしているということだ。
鋼汰「そんなの・・・そんなのただの八つ当たりじゃないか・・・そんなことの為に俺たちの両親は・・・」
鋼汰がいよいよ怒りを表に出してきた。今すぐにも走りだしそうだ。それをなだめるように長木さんが
登美晴「落ち着け、お前まで復讐に固執しては意味がない。それこそ佐々木盗真と同じだ」
と。そう言ったのだが、鋼汰の感情は収まらず、両目から涙を流しながらほんとに走り出してしまった。
登美晴「おい!鋼汰!」
長木さんの声も聞かず、どこかへと行ってしまった。その様子を見た富山さんは
草刃「大丈夫だ。登美晴。あいつは強い。簡単には修羅に落ちないさ。復讐から立ち直った経験者の一兎がなんかいいアドバイスでもしてくれればな」
冗談を言うことができるくらいには富山さんは余裕がある。そう思い、少し安心しながら富山さんの言葉に答えた。
一兎「アドバイスをする必要はない。あいつの目には怒りは宿っているが、復讐心なんていう物騒なものは無かった。でも、何かを決意したような目だ」
俺がそう言うと、深夜が
深夜「そうだね。僕も一兎に同意見だ。彼は一兎みたいに復讐に走るほどバカじゃない」
一兎「おい、お前今俺のことバカって言ったよな。おい、無視すんなよ馬頭」
とまあ、遠回しに俺が深夜にけなされ、その場にいたみんなが軽く笑った。そんなこんなで数分後、俺たちは富山さんの体のことも考えて退出しようした。そのとき、
鋼汰「ありました!ありましたよ!これがあれば、佐々木盗真を止められる!」
鋼汰が肩で息をしながらとある紙を持ってきた。そこに書かれていたのは
『盗聴器を仕掛けられていた件についての報告書』
その報告書には、盗聴器が外部の人間によって設置されたことを示す証拠のようなものがあったが、鋼汰はもう一枚紙を見せ、その報告書にある証拠を全否定するのに十分な証拠を持ってきた。
要するに、外部の人間には盗聴器を設置することはできないということらしい。
鋼汰「さっき、どうやったら佐々木盗真を止められるか考えたんです。そして俺がたどり着いた答えがこれです。佐々木盗真からスパイがおくられている可能性は以前から考えていた。でも、証拠がなかった。でも、そいつは最初っから証拠を残していた。そう、この報告書を書いた人こそが、異能犯罪対策局に潜入していたスパイ」
俺たちは一斉に報告書を書いた人物の名前を見た。
深夜「やっぱりそうだったか」
深夜はあっさり納得した。俺や幽さんはこの真実に驚きを隠せていないのに、深夜だけは最初から疑っていたかのような反応をしていた。
一兎「深夜。お前、わかっていたのか?」
俺がそう聞くと、深夜はうなずき、口を開いた。
深夜「彼は、時々反応がおかしかった。規制派がどう動くかがわかっていたような動きをしていたんだ。たとえば、敵が出現する前にその場所を指して、『あれはなんだ!?』って言ったり、能力の出力を抑えて発動したり」
その話を聞いた幽さんが尋ねる。
幽「能力を抑えていた?どういうことだ」
その疑問に深夜は真面目な顔で答える。
深夜「彼の能力は、ターゲットにどうやって攻撃が当たるか、投げた物の軌道を決めることもできるし、その投げた物の威力も自由に設定できる。例えば、投げた物がおかしな軌道を描き、狙ったものに多段ヒットして、なおかつその威力は対物ライフル並み。みたいな感じでね。僕がその能力を見てここまでコピーできたってことは、彼はその使い方を知っているってことになるんだ」
深夜の説明を聞いた俺は、言葉を失った。まさかあのチャラい女好きな変態野郎が、それでも気の利く優しいやつが、俺の同期にして友人の『星宮幸
』が俺たちをスパイとして騙していたなんて。