第八話 這いよる混沌

盗真とうま「悪いが、嫌われるのは慣れている」
私たちの前に現れた佐々木盗真ささきとうまはそう言いながら私たちのもとへと寄ってくる。この距離だと、逃げる前に殺される。そう思って、私たちは再び臨戦態勢を取ったのだが・・・
?「ごめんね。あんまりこの世界で自由にされると困るんだ」
その声が聞こえた瞬間、真っ白なローブに身を包んだ若い男の子が現れた。
れい「あなたは一体・・・」
私がそう聞くとその子は
?「そうだね。今は観測者とでも名乗っておこうか。この呼び方が定番のようだしね」
その観測者と名乗った少年は、こちらに振り向き、
?「ほら、行きなよ。ボクはこの人と話があるんだ。逃げるタイミングは今しかないけど?」
その言葉を聞いた私は、深夜君の方を見た。仕方がないけど、今はそうするしかない。それにこの少年、見かけによらず強い・・・と思う。まるでたくさんの魂が濃縮されて一つになっているかのような感覚。恐らく、その感覚は深夜しんや 君も感じ取ったはずだ。私たちは頭の中にたくさんの疑問を浮かべながら、その場から離脱した。

-TOMA`SVIEW-
私は一連のやり取りを黙って見ていた。この少年、私に背を向けて、隙だらけだと見せているが、おそらく私が攻撃をしたら完璧に攻撃を防ぐだけではなく、そのまま反撃をしてくるだろう。私は『銀狼ぎんろう 』の連中が消えるのを見届けた後にその少年に話しかけた。
盗真「・・・私に話があるといったな。聞かせてはくれないか?」
その言葉を聞いた少年は
?「世界を破壊するのはやめて置いたほうがいいよって話なんだけど・・・聞く気ないよね」
こいつも私の邪魔をするつもりか。私はそう思い、少し威圧的にこう言った。
盗真「やめろと言われてやめるわけがないだろう。邪魔をするなら、お前をここで殺してやってもいいんだぞ」
そう言うと、その少年は大声で笑いだした。
?「あはははははははっ。面白いことを言うんだね。君に僕を殺せるわけないじゃないか」
その言葉は、私を怒らせるのには十分だった。私はとある呪文を口にし、怪物を召喚する。
盗真「そこまで言うならばいいだろう。お望み通り殺してやる。いでよ!【忌まわしき狩人】!」
忌まわしき狩人。クトルゥフ神話により伝えられてきた神話生物。その姿は黒い蛇か巨大なワームにコウモリの翼を一枚か二枚つけたような姿をしている。話によるとこいつは日光に当たると死んでしまうらしいから私の能力で日光からその体を守っている。
普通の人間であれば発狂をし、下手をすれば廃人になってしまうのだが、その少年は、
?「何を召喚するかと思えば・・・狩人、お前か」
一切驚いていなかった。それどころか知人に会ったくらいの感覚だ。
盗真「何を余裕ぶっているのかは知らんが、忌まわしき狩人、そいつを喰らってしまえ!」
私はそう命令したが、動く気配がない。
?「君の命令は聞かないよ。狩人、お前は帰っていいよ。というかどっかに行ってくれないかな」
その少年がそう言うと、忌まわしき狩人は姿を消してしまった。
盗真「一体・・・どういうことだ・・・!」
私は状況が理解できていなかった。忌まわしき狩人を従える存在だと・・・?
盗真「ま、まさか・・・お、お前は・・・」
忌まわしき狩人の召喚方法を調べるときに知った存在、そいつは忌まわしき狩人を眷属として従えていると書いてあった。まさか、この少年が・・・
?「もうわかったね、ボクが何者なのか。君みたいな人間が敵う相手ではないよ」
その少年、いや、神は先ほどよりも余裕そうな笑みを浮かべている。確かに、人間では敵う相手ではない。それに、私が召喚できる悪魔たちもこの少年が本気を出せば瞬きをするだけの時間で消滅させてしまうだろう。
盗真「お前の話を聞こう。なぜ世界を破壊しないほうがいいのか、教えてくれないか?」
私は当然戦意を失った。なので、大人しく話を聞くことにした。
?「君は素直でいいね。それじゃあ、単刀直入に言わせてもらおうか。僕が気に入ってるからだ」
彼はそう言った後、何かが違うといった感じで首をかしげ、続けた。
?「ああ、いや、少し違うね。僕が気に入る予定だから・・・って言ったほうがいいのかな?」
私はその言い回しが気になり、彼に聞いた。
盗真「予定ということは、今は別にどうとも思っていないということか?」
私の質問に、彼はうなずく。
?「そうだね、まあ、人間たちを狂気に陥れたり、人間たちが騙しあいをしたりと意外と面白いものはあるんだけどね、あんまり好き勝手やるとあのクソジジイが文句を言ってくるんだけど・・・ってこれは関係なかったね。まあ、とにかく、ボクは今の世界は別にどうでもいいんだ。それよりも今から大体二十五年後にボクを楽しませてくれる存在が活躍してくれるから、君にその芽を摘まれると困るんだよね」
彼はそう言うと、私に真顔で近づき、忠告する。
?「いいかい?君が世界を壊すことはできない。壊そうとすれば君の存在を消すよ?」
私はその言葉を聞き、背筋が凍り付いた。しかし、それでも私は・・・
盗真「お前に逆らうのは得策じゃないというのはわかっている。だが、それでも私は、この世界を・・・私からすべてを奪ったこの世界に、復讐をする!その決意だけは、誰が何と言おうが変わらない!外なる神よ、お前に何をされようと関係ない。私はこの世界を破壊する」
私は恐怖をかき消し、白いローブを身にまといし神にそう宣言した。
?「・・・・そうかい。これだから人間は面白い」
私の宣言を聞いた彼は、小さく笑う。
?「いいよ。壊したいなら好きにしたらいい。君がどこまであがけるか、見てみたくなったしね。退屈しのぎにはちょうどいいさ」
私の言葉が彼の心を動かしたのか、彼は私に何かをするつもりもないようだ。気まぐれな神もいたものだ。
?「それじゃあ、ボクはもう行くよ。観測者って名乗ったばかりだし、君の行動も、観測してるからね。まあ、せいぜいボクを楽しませてよ」
彼はそう言って、姿を消した。これで私の目的を妨げる障害はほとんどなくなったといってもいい。
盗真「あとは・・・百鬼ひゃっき勾玉まがたまだけだな・・・」

-ICHITO`SVIEW-
深夜がゆうさんの能力を使って『白鷺しらさぎ』の本部に俺の体と富山とやまさんを転移した。
深夜「危なかったね。あのヤバそうな男の人が来てくれなかったら多分三人・・・正確には四人かな?全員全滅してたよ」
深夜の言葉に俺はうなずく。すると・・・
幽「一兎いちと!深夜!それに、草刃そうじんも。みんな無事だったか」
俺たちがここに来た音が聞こえたのか、幽さんが奥から走り寄ってきた。その後ろから二人の人影が、一人は富山さんの弟、鋼汰こうた 。もう一人は、俺の戸籍を作るときに一度だけあったことがある。『白鷺』の班長、長木登美晴ながきとみはるさんだ。長木さんは、富山さんのもとへ駆け寄り、
登美晴「草刃、無事だったか。よかった」
富山さんにそう話しかけた。富山さんは、長木さんを認識すると、
草刃「登美晴か・・・心配かけて悪かったな」
と言って、軽く笑った。二人はどうやら仲のいい友人のようだ。
その様子を見た鋼汰は、俺と深夜の前で土下座をして、頭を下げた。
鋼汰「兄を助けてくださってありがとうございました!この恩をどう返したら・・・」
勢いよく頭を下げたので、鋼汰の額に赤いあざができている。しかし、そんなことも気にしない様子で、感謝の言葉を俺たちに述べる。
一兎「そんなことは気にしないでくれ。俺たちは富山さんにいつも世話になっていたからな。その恩をここで返しただけだ」
俺がそう言うと、長木さんに支えられた富山さんが俺に話しかける。
草刃「いや、俺がいつもやってること以上のことをお前はしてくれた。だから、礼としてはなんだが、土産話をしてやるよ。ちょうどいい機会だ。鋼汰、お前も俺の話を聞いてくれ。実はな・・・アイタッ!」
富山さんがそう言いかけると、長木さんが小突いた。
登美晴「ここでそんな話をしようとするな。一旦横になれる場所に行くぞ。鋼汰、お前の部屋のベッドでいいか?ここには療養できる場所なんてないしな」
長木さんが鋼汰にそう言うと、鋼汰はしっかりとうなずき、返事をした。
鋼汰「はい、もちろんです。それでは行きましょう」
鋼汰と長木さんの後についていき、富山さんの土産話とやらを俺たちは聞くことにした。
そこで話されたのは驚くべき真実だった。