第七話 子と卯と酉

俺たちが恐る恐るその扉を開く。幸いなことに鍵はかかっていなかったので、普通に開くことができた。
そして、開いた扉の先にいたのは・・・
一兎いちと富山とやまさん!それと・・・お前は・・・!」
深夜しんや「ラスボスがこんなところにいるとはね・・・さすがの僕でも予想外だったかな」
俺と深夜は互いに驚く。そこにいたのは拘束された富山さんと、
一兎「佐々木盗真ささきとうま!」
深夜「佐々木盗真!」
俺と深夜が一緒に言った通り、セフィラム能力規制派の政治家であり、その派閥のトップ、俺たちが標的にし、危険視していたこの騒動を引き起こしたと思われる張本人。佐々木盗真本人だった。
盗真「はあ、まさかこんなに早くここにたどり着くとは・・・よかったな、富山の倅。お前には人望があるようだぞ」
佐々木盗真はそう言いながら富山さんの脇腹に蹴りを入れる。
草刃「うっ」
深夜「富山さん!」
その蹴りによって吹っ飛ばされた富山さんを深夜が介抱する。
霊(一兎・・・ここは撤退一択だよ。こいつには今の一兎じゃ勝てない。もちろん、私でも・・・)
その様子を見ていた俺に、お母さんがそう言ってきた。割と・・・というか、かなり真剣な声だ。どのみち、俺もそうしようとは考えていた。こいつからは嫌な感じがする。みのけがよだつとはまさにこのことだろう。俺は佐々木盗真相手に恐怖している。
一兎「深夜、富山さんを連れて撤退だ」
俺がそう言うと、深夜が不思議そうな顔を浮かべる。おそらく、深夜には俺やお母さんみたいにこの嫌な感じが伝わっていないのだろう。深夜は焦ったり、恐怖したりする表情を浮かべておらず、平然としている。
深夜「一兎、それはいったいどういう・・・」
深夜がそう言いかけたところで、佐々木は嫌な笑顔を浮かべ、しゃべりだした。
盗真「やはり、魅守みかみ親子は勘が鋭いな。それは賢明な判断だ・・・だが、お前たちをここから逃がしてしまうと、後々私の計画を邪魔する恐れがある。だから、撤退は許さない」
そう言って、佐々木は俺に向かって、手を伸ばす。すると・・・
一兎「うっ、うがぁぁぁああああ!」
激しい苦痛が俺を襲った。まるで、俺の中の何かが暴れているような、激しい痛み。
深夜「一兎!?」
霊(一兎!?大丈夫!?)
深夜とお母さんの心配する声が聞こえる。俺が佐々木の方を見ると、佐々木は余興を楽しむように笑っていた。
盗真「苦しいか?苦しいだろう?それは私の能力だよ」
私の能力?この男、能力者だったのか?
盗真「規制派のリーダーのくせにセフィラム能力を持ってるのが変か?まあ、そうだよな。私は能力者であることを隠すために、他者の能力に寄生させて、その能力を規制させた奴に育成してもらっていたのだから」
佐々木がそう言うと、深夜は何かに気づいたような声をあげる。
深夜「そうか!無影虚像ラストフィクサーか!あの能力は、一兎が終焉回路ラストプログラム を使うたびに成長していた、そして、一兎は仕事柄、戦闘をよく行い、その体に母親がいることにより、何らかの副反応としてごまかしが利く。成長させるのと能力を隠すのにはぴったりな人間だ・・・」
深夜がそう言うと、佐々木はゆっくり拍手をした。
盗真「大正解だ。それに、この能力を寄生させるのに、直接注入したりする必要はない。虚像という形で魅守一兎の能力に寄生・・・というより、乗り移ることができるからな」
佐々木がそう言うと、脳内でお母さんが納得したような声で言う。
霊(なるほど、だからさっき一兎みたいな気配がしたわけだ・・・一兎、私に考えがある。私に意識を渡して。)
俺がその提案に乗ろうとすると、今までよりもひどい苦痛が襲った。
盗真「まあ、そろそろ能力は返してもらおう。まあ、お前を弱体化させるためにほんの一部だけは残しておくが」
そして、その苦痛が一旦収まったかと思うと、変な脱力感が俺を襲った。体から何かが抜け落ちたような。だが、そんなことを考えている場合じゃない。俺はお母さんと意識を交代した。
-REI`SVIEW-
私が表にでる。すると、佐々木盗真は少しだけ驚いた顔をして、
盗真「ほう・・・?魅守霊に変わったか。だが、その体を使っている限り、私の能力で苦しみを与えることはできるぞ」
そう言いながら手を伸ばす。しかし、何も起こらない。別に、私は痛みを我慢しているわけではない。
盗真「どういうことだ・・・能力が発動した手ごたえがない・・・まさか!」
佐々木盗真は気づいたようだ。私が終焉回路で体の中から佐々木盗真の能力を排除したことに。
霊「思いつくのが遅かったせいであなたを無能力者にすることはできなかったけど、これでとりあえずはあなたの能力による影響は受けない」
私は自信満々にこう言ったが、内心では焦りが止まらない。なぜなら、この男にはおそらく私の能力が一切通用しないからだ。
盗真「まあいい。お前たちはこの部屋から出ることはできない。私の能力で封じたからな」
なるほど。佐々木盗真は虚像の実体化で結界を張ったようだ。私の能力、終焉回路でも解除は難しそうだ。
霊「ほんと、性格が悪い・・・それなら私があなたを倒さないといけないみたいだね」
私は挑発するように言った。その挑発中、私は深夜くんに魂の念話で話しかけていた。
霊(深夜くん、驚かないで聞いて。今の私たちじゃ、佐々木盗真には勝てない。だから、私の合図でとおる ・・・ロイヤル・カーズのJから一兎と歌恋ちゃんを助けた時の煙幕みたいな技を使って。その隙に脱出するから。)
私が念話ながら早口で急いで言ったあと、チラッと深夜くんの方を見ると、佐々木盗真に気づかれないように軽くうなずいてくれた。この子、歳に合わず冷静な子だなと思いながら私は目の前の男と対峙する。
盗真「そうだ。せっかくだからお前たちが名付けた名前で技を使ってやろう。無影虚像」
そう言いながら彼が虚空へ向かって正拳突きをする。瞬間、無数の半透明な拳が私に迫る。本来なら私の能力で拳がどれくらいの数、どこに飛んでくるかを識ることができるんだけど。この男には私の能力が通用しない。これまでもそうだった。この先の未来、何が起こるのかはわかるのに、肝心の黒幕の姿は靄がかかったように見えなかった。だから対応がここまで後手に回ったのだ。私の能力が通用するなら一兎に任せず、もっと早い段階でこの男を私が倒していたはずだから。ちなみに、今日、この日にこうなる未来は識らない。もうすでにこの世界の未来は私でも観測できないところまで来ている。
霊「チッ、秘守術ひかみじゅつ地ノ道ちのみち虚無破滅ノ影きょむはめつのかげ
私は計六本の巨大な黒い爪を背中から生やし、それで防御する。しかし・・・
霊「くっ、きゃっ!」
その攻撃は黒い影を貫通してきた。その攻撃は私の・・・いや、一兎の体にほとんど当たった。自分の能力というだけはある。一兎も使わなかったような手を使ってくる。というより、これがあの能力の本当の力なのだろう。好きなタイミングで虚像を実体化できる。
霊「ああ、もう・・・インフィニットシャドウ・・・!」
零司も使っていたこの技。何を隠そう私が教えたのだ・・・なんていう自慢話をしている余裕はなく、私は最高速で無限にも等しい数の黒い影でできた棘を佐々木盗真に向かって放つ。佐々木盗真がひるんでいる・・・やるならこのタイミングしかない。
霊「深夜くん!」
私は大声で叫んだ。すると、草刃くんを支えていた深夜くんは妖術を発動する。
深夜「妖術ようじゅつ第弐幕だいにまく常闇とこやみ!」
黒い煙幕のようなものが佐々木盗真の視界を奪う。その隙に、
霊「シャドウ、リープ!」
私は深夜くん、草刃そうじんくん、そして私を黒い影で覆う。深夜くんに私の義弟くん園上幽 の能力を使ってもらうのも考えたけど、私の予想が正しければその手は使えない・・・それは、エラーブラ―ドが私のもとに来なかったことと、私の能力で未来が視えないことが証明している。恐らく、この男の結界内では天使の力 セフィラムエネルギー を介して結界の外に干渉することができない。結界内は終焉回路が使えたことから使用可能なのはわかった。だからこの方法を使った。シャドウリープは影の世界を介して短い距離ながら別のところへ逃げる技だ。これで一旦結界の外へ逃げる。しかし、私たちが逃げた先には・・・
霊「ほんっと、しつこいのは嫌われるよ?佐々木盗真・・・」