一兎「深夜、大丈夫なのか?疲れて眠ったんじゃ・・・」
俺がそう尋ねると、
深夜「まあ、万全とは言い難いけどね。大ケガをしたわけじゃないし。問題ないよ」
そう言いながら軽くその場で跳躍をして見せる。確かに、動けないほど問題があるわけではないようだ。
一兎「うーん、わかった。でも無理はするなよ?まあ、戦闘があると決まったわけではないが」
深夜「わかった。約束しよう」
深夜はしっかりとうなずいた。
一兎「んじゃ、俺たちは行ってくるよ」
俺がみんなに向けてそう言うと、
鋼汰「兄をお願いします!」
と、鋼汰が深々と頭を下げながら俺たちに言った。
俺たちは、富山さんを探すため、まずは富山さんの家へ向かった。
深夜「一兎。どうして富山さんの家に来たんだい?行方不明だとわかってるなら、ここにはもういないはずだよね?」
俺の後ろを歩く深夜が俺にそう尋ねてきた。
一兎「まあ、そうなんだが、なにか手がかりがあるかもしれないからな。まずはそれを探す」
深夜「なるほどね。確かに、闇雲に探してても見つかるわけがないか・・・」
深夜はそう言いながらフムフムといった感じでうなずいていた。
深夜「わかった。それじゃあ、さっそく捜索開始だ!」
深夜は拳を突き上げ「オー!」とでも言わんばかりの勢いでそう言った。
個人的には、俺たち二人は捜索するのにはぴったりだと思う。深夜は魂が視える。それを利用することで人がいるかどうかぐらいはわかるだろう。そして、俺にはあの妖術がある。妖怪相手なら、妖力で存在を感知できるのだが、富山さんは正真正銘人間だ。なので、あの妖術を使い、上空から探すことにした。
一兎「妖術、第伍幕、燐神の瞳
」
発動した瞬間、俺の視点は上空から見下ろしたようになる。そして俺は、視点の高度をさらに上げ、付近にあるものを探した。この付近には、昔俺たちが住んでいた樹海、以前歌恋
と戦った高原。あとは大きな湖がいくつかあった。とはいえ、湖はこの場合あまり関係なさそうなので、除外する。あとは、あの大きな山だ。この辺は藤ノ宮市
の中でも端のほうで、住宅街も、大きな商店街もなにもない。あるのはこの地形を利用した牧場くらいだ。特に富山さんの家は樹海の近くで、人気がない。あの悪魔や怪物たちは、人気が多いところを狙っている傾向があるため、ここにいる限り襲われる心配はないのだが・・・
一兎「なんだ?あれ」
俺はその樹海の先にある山に注目した。樹海は、大きな山を囲むように120度ほどの範囲で広がっている。その樹海の先に鎮座する巨大な山。その山頂に向かって、樹海と、その反対側にある湖から不気味な妖力が少しずつ流れ込んでいる。山頂に何かあるというのか・・・?
深夜「一兎!こっちに来てくれ!」
俺がこの現象について考えていると、深夜に呼ばれた。
一兎「わかった!すぐに行く!」
俺はそう言いながら深夜のもとへ走っていった。
深夜「あれを見てくれ。樹海の入り口だ」
俺が深夜のもとへ行くと、深夜はそう言いながら指を指した。その先にあったのは、樹海への道を塞ぐように集まっている腐死者や食屍鬼
のような怪物がいた。そして、彼らはこちらの様子を見ているようだった。それもそのはず、俺たちは隠れたりしていないのだから。
一兎「なんかやばそうなのいるけど、隠れて様子を見るみたいなことをしなくていいのか?」
俺がそう深夜に問うと、
深夜「ああ、それがね、あいつら、さっきからこっちの様子を見てるだけで何もしてこないんだよ。だから、多分、この先に誰も進ませないための足止め要員じゃないかなって考えてる」
奴らから隠れることもなく堂々とした佇まいで俺に説明してくる深夜。
一兎「そうか、それなら話は早い。連中にはお帰り頂こう。俺もこの先に進んで調べたいことがあるのでね」
そう言いながら、俺は無防備なに堂々とゾンビたちの方へと歩みを進めた。
深夜「どうする気だい?強行突破なら手伝うよ?あいつらは多分不死身だ。魂が視えないからね。死体を使った人形のようなものだと思う」
深夜がそう俺に忠告と手伝いを申し出てくれたが、
一兎「その必要はない。なぜなら、あいつらが守っているあの場所は、俺にとっては最高の、あいつらにとっては最悪の『ステージ』だからね」
深夜「なるほど。確かにそうだね」
俺の『ステージ』という言葉で納得した深夜は、大人しく俺の様子を見守ることにしたようだ。
一兎「さて、ここら辺まで来れば、能力範囲内かな。いくぞ、『最終演目』!」
俺が能力を発動させると、ゾンビたちの周りにあった木や草からツタが伸びたり、地面から木が生え、というより成長したりしてゾンビたちを拘束する。木の中に埋まった者、ツタに絡まり動けなくなった者、その姿は様々だが、動けないことに変わりはない。
一兎「一応、凍らせておくか。妖術、第参幕、凍幻華」
そして、捕まったゾンビたちは一瞬にして氷漬けになり、暴れることも無くなった。
一兎「おーい、深夜、終わったぞー!」
俺がそう呼ぶと、深夜は肩をすくめながら、苦笑いをしてこう言った。
深夜「もうどっちが怪物なのか分からないね・・・」
一兎「まあ、半妖だからな。そんなことよりさっさと行くぞ」
俺は深夜の言葉に返答をしながら先へと進んだ。そして、歩きながら深夜にさっき俺が視たものを教えた。
深夜「フム・・・山の向こう側にある湖と、この樹海から妖力が山頂に向かって流れ込んでいるのか・・・何か嫌な予感がするね。佐々木盗真
の計画に何か関係でもあるのか・・・あれ?そういえば・・・」
深夜が何かを思い出したかのように俺に尋ねる。
深夜「一兎、君はこの樹海に住んでいたって言ってたよね?」
一兎「あ、ああ。だが、それがどうかしたか?」
俺の受け答えを聞き、深夜が納得したかのように言った。
深夜「そういうことか。この樹海には【百鬼の勾玉
】が祀られていた。僕は、これがこの土地をいや、あの山を守る結界の役割をしていたんだと思う。そう思う理由として、僕と有栖
がこのお役目を引き継ぐとき、先代のお父さんが言ってたんだ。この勾玉は祀ることはこの国を守ることだってね。そして、一兎のお父さんとお母さんはこの樹海を守っていた。この二つの守りがなくなった今、この樹海でやりたい放題にできる。例えば、結界によって封じられていた強大な妖怪や力が解放される・・・とか」
深夜の考察を聞き終わると、脳内で声がした。
霊(深夜君が言ってることは大体あってるよ。勾玉のことや、私たちがあの樹海に住んでた理由とか。ちなみに、照
ちゃんがお父さんを襲った時はね、あの人、勾玉の力を欲しててね、それはまずいと思ったアマテラスが照ちゃんを送ったんだよ。まあ、そこで私が間に入って二人を物理的に沈めたんだけどね。まさか、あれからあの人とこんな関係になるとは思わなかったな・・・そうそう!そのあとあの人がね!)
一兎「はぁ・・・深夜、お前の言っったことはあってるらしいぞ。よかったな」
脳内でお母さんがノロケ話を始めたので、脳内で流れる話を無視し、深夜に報告した。
深夜「うん・・・それはよかったけど、なんで不機嫌そうなの?」
俺の感情が伝わったのか、深夜は頭にはてなマークを浮かべたような顔でこちらを見た。
一兎「なんでもないよ・・・親のノロケ話ほどウザイものは無いなって考えてただけ」
霊(ちょっと?聞こえてるんですけど。ノロケちゃ悪いの?そっちだっていつも歌恋ちゃんとイチャついてるじゃん。それを見せられる私の側に立ってみてよ。)
それまでお父さんとのノロケ話をしていたお母さんが今度は俺に文句を言いだした。
そんなこんなで俺の脳内が騒がしくなり緊張感もクソも無くなっている状態のまま探索していると、深夜が何かに気づいた。
深夜「あっ、あれは・・・?建物だね・・・もしかして、一兎の家かい?」
一兎「違う。俺たちの家はもうちょっとおしゃれな外観だった」
霊(違う。私たちの家はもうちょっとおしゃれな外観だった。だってお父さんが作ったんだよ?センスがいいのは当たり前!)
途中まで脳内のお母さんとシンクロしてたのにまたノロケだした・・・
深夜「そ、そっか。でもあの建物から二人の人間の魂が視えるよ。誰かがいるね」
深夜がそう言うと、脳内でお母さんが、
霊(一兎、一人は普通の人間だけど、もう一人からは変な気配がする。でも、なんでだろう、一兎みたいな・・・)
お母さんでも困惑しているような存在と対面することに不安を抱きながらもその建物に侵入することにした。