有栖「減少関数」
その能力を発動した瞬間、照さんに迫っていた敵の大軍が一斉に倒れた。いや、倒れたというより、転んだのに近いような・・・
照「今のはいったい・・・?」
照さんが困惑している。私も困惑している。そもそも、私自身、体が勝手に動いたようなものだったから、ほんとはあのタイミングで発動させるつもりはなかった。
照「あそこにいるのは・・・なるほど、なんとなくわかりました。とりあえず、仕留めましょう。焔返し!」
照さんが転んだ敵たちに向かって炎の雨を降らせる。そして怪物たちは燃え尽きた。
照「花倉有栖さん、助かりました」
有栖「い、いえ。間に合ってよかったです」
照さんが私のことを注意深く見てくる。
照「あなたの能力は、増幅の能力でしたよね?ですが、今使ったのはどちらかというと、減少に近いようでしたが・・・」
照さんが私にそう尋ねてくる。
有栖「あ、あれって減少の能力なんですか?」
つい、質問を質問で返してしまった。
照「あーなるほど。自分でもよくわからずにやったというパターンですか」
有栖「お恥ずかしながら・・・」
私は右手で頭の後ろを掻いた。すると、照さんは、おほんと咳をするような素振りをして、話し始めた。
照「以前、鏡深夜
が、一兎の能力を反転能力だと推察していました。まあ、実際は、霊が自分の能力の一部を渡したことによるなんらかの特殊な反応だっただけなのですが。もしかしたら、あなたの能力は、反転能力ではないのですか?アリサから有栖に反転したことによって、能力も反転した。私はそう思ったのですが」
その話を私は黙ってしっかりと聞いた。
有栖「つまり、私が百鬼の勾玉によって得た能力は増幅ではなく、減少だったということですか?」
私がそう聞くと照さんは静かにうなずいた。
照「私の考えが正しければ、有栖さんには百鬼の勾玉の黒い感情が詰まった能力を渡したけれど、記憶を失い、アリサさんとなってしまったことにより、存在が反転したのではないでしょうか?」
照さんの話を聞いて、私の中で一つの考えが浮かんだ。
有栖「じゃあ、私が有栖としてではなく、アリサとして能力を使えば、全能増幅が使えるということですか?」
照「おそらく」
と、会話にひと段落が付いたところで、インカムから声がした。
アサ「あの~話は終わった?そろそろ一兎が危ないんだけど」
その言葉を聞いて私はハッとした。
有栖「す、すみません!すぐにいきます!照さんは速く歌恋ちゃんを安全なところへ!」
照「わかりました」
そして、私は一兎くんのもとへ急ぐ。
ありとあらゆるものを減少させる能力。おそらく、これが私の能力。さっきはあの怪物たちの身体能力とか、運とか、そう言ったものを減少させたんだと思う・・・多分。でも、それがほんとなら、試してみる価値はある。
そして、私は一兎くんが戦っているところへとたどり着いた。
有栖「減少関数!」
私は先ほど同様、能力を発動させる。対象は、大きなこん棒を持った巨大な人型の怪物の筋力。
怪物「???」
ドシーン。その怪物は手に持っていたこん棒を地面に落とした。慌ててそのこん棒を拾おうとするが、持ち上がらない。やっぱり、私の能力は減少させる能力だ。アリサの能力と違って触らなくていいから使いやすい。でも、この能力だと決定打にはならない。サポート向きな能力だ。でも、ここには彼がいる。
アリサ「一兎くん!」
一兎「この声は、アリサ・・・いや、有栖か!」
一兎くんが有栖の名前を呼んだ。でも今は違う。
アリサ「今はアリサだよ!はい、一兎くん。全能増幅」
私は一兎くんの体に触れ、身体能力や妖力を増幅させた。
一兎「・・・?一体どういうことか分からないが・・・まあいい。助かった!」
そう言って一兎くんは赤い刀を握り、巨大な怪物たちに向かって技を放った。
一兎「妖術、幕引き、終炎ノ一太刀!」
巨大な炎の刃が敵を燃やし尽くす。
一兎「オラぁ!出血大サービスだ!妖術、第拾幕、氷獄天霧
!」
そして、一兎くんはなにもない空中に氷でできた一メートルほどの大きさの棘をたくさん生成して、怪物たちに向けて放った。その棘を正面から受け止めた怪物たちは顔がつぶれたり、体に穴が開いたりと多種多様だったが、とてもグロテスクな具合になっていた。これでは、出血大サービスをしてるのは怪物たちのほうだ。
一兎「さて、有栖?アリサ?どっちか知らんが、説明してもらおうか」
-ICHITO`SVIEW-
有栖からいろいろ説明をしてもらった。特に能力のことだが。
一兎「なるほどね。反転能力は俺じゃなくて、有栖の能力のことだったんだな」
有栖「そうなるね」
などと話していると、有栖が耳を手で押さえるような仕草をした。おそらく、インカムから何か指示があったのだろう。そして、数秒も立たないうちに、有栖が俺に向かって口を開いた。
有栖「一兎くん、幽さんが今すぐ戻ってきてほしいんだって!能力で送ってくれるらしいけど」
一兎「なんかあったみたいだな。うん。わかった。すぐに送ってくれ」
俺がうなずくと、体の転移が始まった。そして徐々に視界が暗くなる。そして次に俺が見たものは。
?「一兎さん!お願いです!兄を、兄を探してください!」
俺の体にしがみつく俺より年上っぽい男の人の姿だった。
一兎「あ、あの~これっていったいどういう状況?」
俺が男の人を体から離そうとすると、俺はこの男の人に既視感を覚えた。
そして、困惑している俺に幽さんが話しかけてきた。
幽「あー一兎。おかえり、疲れているところ悪いが、そいつの兄を探してくれ。いやなに、顔はお前もよく知っているだろうから、そこは心配しなくてもいい」
どうやら、このしがみついてきた男の兄と俺は知り合いらしい。どおりで既視感を覚えたわけだ。
一兎「うーん。もしかして・・・富山さん・・・?」
俺がなんとなく思い浮かんだ人の名前を口にすると、幽さんはうなずきながら説明してくれた。
幽「ああ、そうだ。そいつは富山鋼汰。情報班、通称『白鷺』のメンバーで、刀鍛冶、富山草刃の弟だ」
一兎「なるほど。それで?富山さんが行方不明?ごめん。よくわからん」
などと言っていると。なんかヲタクっぽい、それでも割といいスタイルをした男の人が鋼汰の肩を叩いた。
?「いや、一旦落ち着けよ。一兎さんが困ってるだろ」
鋼汰「ゆ、幸さん・・・そうですね。一旦、落ち着きます」
あれ?なんか、今すっっごい聞き覚えのあるような名前が・・・
幽「先に言っておくが、こいつは久遠寺幸。星宮幸とは全く関係ないからな」
みなさん、速報です。幽さんは心を読む能力を持っています。
そんな幽さんの言葉に俺は
一兎「い、いえ、わかってますよ。あいつみたいにチャラそうじゃないし」
幽「確かにな」
そう言いながら俺たちが笑っていると、
鋼汰「いや、笑ってないで早く兄を見つけてくださいよ!」
と、鋼汰に怒鳴られてしまった。
一兎「ああ、すまんすまん。つい、ね」
などと話していると、部屋の扉が開かれた。扉を開いたのは・・・
深夜「話は聞かせてもらったよ!富山さんを探すのに、この僕、鏡深夜も微力ながら助太刀しよう」