第四話 夢から覚めた羊

-ARISA`SVIEW-
懐かしい夢を見た。
深夜しんやくんと一緒にあの樹海で一緒に遊んだ夢。
深夜くんに料理を振る舞った夢。
そして、あの祠が壊れて、あの石に触れてしまった夢。
そこからはなぜか思い出せない。なぜ誘拐されたのか、あの場に能力者の中でもかなり強い深夜くんがいながら、どうして私は連れ去られたのか。
ただ、わかったことがある。私はすべてを思い出した。
魔道具プライズ百鬼ひゃっき勾玉まがたま は、手にした者の潜在能力を覚醒させる力を持つ。しかし、その中に封じられている無数の魂の存在に触れてしまった私は記憶を失った。ここまでは、私も理解している。
でも、不可解なことがあった。勾玉の中の魂に飲み込まれた時、怒り、憎しみ、怨みの感情を強く感じた。そんな力から得られるものは力の増幅などという『能力上昇バフ』ではなく『能力低下 デバフ 』を付与する能力になるはずだ。それでも私が覚醒した力は『全能増幅アップグレード 』という、誰かへ力を与える優しさの力。黒い感情から生まれた力とは思えない。なんでも、記憶がなくなった時、私の中の何かが反転したことは憶えている。

私は目を覚ます。体を起こす。自分の手を見ながらその手を開いたり閉じたりする。
体の動きには何も問題がなかったので、ベッドから降りる。ここは見たことがない場所だ。おそらく、『白鷺しらさぎ』の本部だろう。
有栖ありす「まさか、こんな形でここに来ることになるなんてね・・・」
本来なら、『アリサ』が幽さんに連れられてここに来るはずだった。しかしそこで百鬼の勾玉は目覚めてしまった。そして抜け殻となった私の体は捨てられたということだ。勾玉が無くても、能力は感じられる。しかし、能力に違和感がある。まるで、『アリサ』として今まで使っていたものが『有栖』が使うことで別の性質になったような感覚。
深夜「有栖・・・!」
私が体の違和感に関して考察していると、聞き覚えのある声がした。
有栖「深夜くん?」
鏡深夜かがみしんや、私の幼馴染で、私の一番の親友。
深夜「よかった・・・目が覚めて・・・」
そう言いながら深夜くんは泣きながら私の体を抱きしめた。しかし、その彼の体はボロボロだ。
有栖「まったく、こんなにボロボロになるまで戦ってきたの?私の心配より、自分の心配をしてよ・・・」
深夜「あ、ああ、そうだな。今回は無理をしすぎた。頭も痛いし、おとなしく寝るよ・・・」
あっさりと引いてくれた。だいたいこういう会話になると彼はおとなしく引き下がるなんてことはないのだが、それほど疲れているのだろうか・・・
有栖「うん、わかった。じゃあ、おやすみ。積もる話は深夜くんが目覚めた後にしよっか」
私がそう言うと、彼は首肯して、奥の部屋へと歩を進めていった。
しばらく、私が待っていると、別の部屋から騒がしくなった。何かに慌てているような声だ。
?「はあ~どうしたらそうなるんだ・・・魅守みかみくんたちが苦戦するなんて・・・勝ち目は薄くないか?」
私というか、『アリサ』が会ったことのない人の声だ。『白鷺』の人かな?『銀狼ぎんろう 』に所属している人は十数人とそこまで多くなかった。いつも話すメンバー以外の人たちはあまり話したりはしなかったものの、一通り顔を合わせ、互いに自己紹介をしたこともある。
ゆう「仕方がないだろう!一兎たちは分断されたんだぞ!一兎は押し寄せる大群を一気に一人で相手していて、歌恋かれんは大ケガを負って、てる は動けない歌恋をかばいつつ戦っている。龍時りゅうじ たちのグループも、大きな戦闘があったばかりで連戦は難しいだろう、深夜も戦線離脱しているしな。他のメンバーは市民の救助、誘導、避難場所の捜索と確認で忙しい。何か方法は・・・」
これは幽さんの声だ。話を聞く限り一兎くんたちがピンチのようだ。
有栖「失礼します」
私は彼らが話している部屋へ堂々と入った。
幽「む、アリサ・・・ああいや、有栖だったか。目覚めたんだな、よかった」
幽さんと、もう一人の男性。幽さんと同じくらいの年齢に見える。その二人がこちらを見る。部屋全体を見ると、たくさんのパソコンだったり機械が置いてあり、その画面に向かって何やら作業をしている人や、ヘッドホンを装着し、付属のマイクに向かって何かを指示したり話したりしている人もいて今はとても忙しいようだ。
有栖「はい、先ほど目覚めました。で、そちらの方は?」
私は一旦幽さんの隣にいる人について尋ねた。すると、その男性は自己紹介をしてくれた。
登美晴「ああ、初めまして、僕は長木登美晴ながきとみはる。情報班、『白鷺』の班長を務めている。君が花倉有栖はなくらありす だね。話は聞いているよ。それで、何の用だい?今はご覧の通り、緊急事態でね、ゆっくりしゃべっている時間はないんだ」
長木さんが話し終えたタイミングで、私は手に力を込めて言った。
有栖「私にやらせてもらえませんか?一兎くんたちの救援」
登美晴「君が?いや、幽に話を聞いたけど、君の能力は戦闘向きじゃないだろ・・・あ、でも力の増幅なら彼らの手助けに・・・うーん」
長木さんはかなり悩んでいる。その様子を見た幽さんが
幽「ふむ、まあいいだろう。有栖、君に任せてしまっても構わないかい?目的地へは私が能力で送ろう」
と私の出動を認めてくれた。
登美晴「はあ~他にこの状況を打開する方法なんて思い浮かばないし、君の意見を採用しよう」
長木さんも認めてくれたので、私は一兎くんたちを助けるため、現場に行くための準備をし、幽さんの能力で目的地へと向かった。
有栖「うわ・・・なにこれ、まるで映画の世界だね・・・」
私が目的地へとワープすると、そこには廃墟の世界が広がっていた。
有栖「こういうのを世紀末っていうのかな?知らないけど」
などと私が変なことをつぶやいていると、耳に付けた小型のインカムから声がした。
アサ「あーあー。聞こえるかな?俺は朝岡アサ。今回、初めての現場入りということで、俺が君の指示を担当することになった。ちなみに、今班長と園上さんは全グループの状況を同時に確認、そして俺たち『白鷺』に指示をしているから忙しいらしいよ」
そう言うとアサさんは一兎くんたちが戦闘しているエリア、戦況を教えてくれた。私はそれを走りながら聞いた。
アサ「そのまままっすぐ進んで。もしかしたら戦闘音が聞こえるかもしれんから、そしたらその方向へ行けばいい。今、彼らはかなりピンチの状況で、一兎はたくさんの大型の怪物と同時に戦ってる。まあ、今のところ無双してるけど、そのうち限界が来そうだね。とはいえ、一番危険なのが歌恋と照。歌恋は動くのが難しいほどの大ケガをしてて、妖力もほとんど無いみたいだから、回復は無理っぽい。そして、動けない歌恋を守りながら照は戦ってる。一兎ほど強い敵を相手にしてるわけじゃないけど、歌恋への攻撃を全部肩代わりしてるから、そろそろ限界だと思う」
その話を聞いて、私は、
有栖「どうして幽さんは歌恋ちゃんを回収しないの?」
と聞いた。すると朝岡さんは
アサ「ああ、それなんだけど、敵がすごい勢いで攻めてて、照は歌恋を担ぎながら戦ってるんだ。空間干渉系能力だと、照も一緒にワープすることになる。しかも、そこには避難した一般人もいるから、照がいなくなると一般人にも被害が出てしまうんだ・・・」
有栖「なるほど・・・」
事態は思っていたよりも深刻なようだ。私に何ができるか分からないけど、どうにかしてみせる。
私がそう決意すると、私たちにしか見えないものが見えた。
有栖「魂の反応を感じた・・・多分、あっちが一兎くん。てことはあっちは・・・ダメ!歌恋ちゃんの魂の力が弱まってきてる!急がないと!」
私たちは魂を視たり、感じたりする力がある。干渉とかはできないけど、私は観察力が人一倍高いという自信がある。だから、魂を視たり、感じたりするだけでも誰の反応かがわかるようになっていた。
アサ「魂の反応?どういうこと?ちょっと!聞いてる!?」
朝岡さんがインカム越しで困惑している。
有栖「すみません、私の特異体質なんです!」
私はそれだけ言って、全力で走った。走って、走って、走りまくると、怪物の大軍と戦闘している金髪の女性の姿が見えた。照さんだ。
有栖「早く助けないと!」
私はそう言って、怪物たちに狙いを定めて、能力を発動した。
---『減少関数 グレードダウン 』---