-SINYA`SVIEW-
僕と月夜見さん、そして幸は一兎
たちとは別の場所を見回り、避難所の様子を見たり、悪魔や規制派の連中を探したりしている。奴らが召喚した悪魔は、ここ数日でジャンルが変わったように思える。ジャンルというか、種類というか。今まではドラゴンや巨人のようなデカブツだったりしたが、最近はこうやってパトロールのようなことをしていないと見つけられないが、そいつが及ぼす影響が大きいという非常に厄介なタイプになっている。
幸「はぁ・・・めんどくさいな~」
龍時「おい、めんどくさいとか言うな。これは人の命に係わる問題だぞ」
幸の言葉に月夜見さんが注意する。それを横目に僕は考え事をしていた。敵の狙いはどこにあるのか。セフィラム能力を危険視している一般人が相手でも、この騒動がセフィラム能力によるものだとは思わないだろう。ゆえにセフィラム能力が危険だと言って規制する目的のためとは思えない。それに僕たちは何かを見過ごしているような・・・
幸「お、おい!二人とも!あそこを見て!」
幸が指で示した方向を見ると、何もない空間から魔法陣のようなものが現れた。そこから出てきたのは巨大な体に頭と尾がそれぞれ八本ある蛇のような怪物。というか、こいつって悪魔というより・・・
龍時「八岐大蛇か・・・大昔に須佐之男命
によって討伐されたと聞いたんだがな・・・規制派の連中が蘇らせたとでもいうのか・・・?」
やはり八岐大蛇だった。本来は山神または水神だと言われているが、古事記や日本書紀では完全に悪者扱いされている。まあ、神には違いないから、分が悪いのだが・・・
深夜(にしても、さっき幸は魔法陣が出現する前に僕たちに知らせていたが・・・)
と考察していると、八岐大蛇が攻撃を仕掛けてきた。
幸「やばいって!あんなデカブツ相手にできるかよ!」
幸が喚く。しかし月夜見さんは冷静だった。
龍時「まったく。いくら神でも『月光』の刃は防げまい!いくぞ!時空間展開」
『時空間展開』これが『物質超加速
』の正式名称らしい。以前、月夜見さんが俺たちに教えてくれた。その能力を発動した月夜見さんは超高速で八岐大蛇を攻撃していく。『月光』ともう一振りの刀、名前が無いのはかわいそうなので、『無銘』とでも呼ぼうか。その二振りの刀を以て切り刻む。所要時間はたったの一秒。できた傷は数えきれないほど多い。しかし、傷で済んでしまった。
龍時「チッ、かなり硬いな・・・」
月夜見さんは速さに関していえば誰も勝てないだろう。だが、瞬発的な火力はそこまで高くない。同じ神の使いである天野照さんと比べたらその半分程度の力。
幸「うへぇ~月夜見さんでも無理なんて、俺じゃあどうしようもないじゃないか・・・」
確かにその通りなのだが・・・こいつはどこか余裕そうだ。
深夜「じゃあ、そろそろ僕に任せてもらおうかな。『焔返し』」
上空から炎の雨が八岐大蛇に襲い掛かる。
龍時「何!?それは照の技か!?」
月夜見さんの言う通りだ。実は少し前、両チームの見回りが同時に一旦中止になった時があったのだが、その時に天野さんに頼み込んで『焔返し』を見せてもらったのだ。
深夜「まだまだ行くよ!妖術・鏡、第拾幕、双龍乱舞!」
大量の炎と水の龍が僕の周りから暴れるように放出されるオリジナル妖術。正確には二つの妖術を同時に発動しているだけだが。その龍たちの乱舞を真正面から受ける八岐大蛇。
八岐大蛇「 !」
声にならないうめき声をあげ、苦しんでいるのがよくわかる。そこに月夜見さんが追撃。
龍時「これはさすがにくらうだろう!月命斬!」
『月光』の刀身が金色に輝き、その刀を両手で握った月夜見さんが八岐大蛇の胴体めがけて自身の頭上から振り下ろす。すると八岐大蛇の胴体と尾が切り離された。
龍時「ふん、見たか。これが月読さまから頂いた神技だ」
月夜見さんがドヤ顔をする。天野さんの『焔返し』にあたるものが『月命斬』なのだろう。
幸「おお!八岐大蛇が動けなくなってるぞ!・・・あれ?」
八岐大蛇「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
八岐大蛇は最後のあがきと言わんばかりの炎ブレス攻撃をする。というか、そんなドラゴンみたいなこともできたんだな・・・と、そんなことを思いながら、僕は迎撃の構えをとる。
深夜「ぶっつけ本番だ・・・できないかもしれないけど、試してみる価値はある・・・」
僕はあの友の動きを思い出す。あいつは波動攻撃として使っていたが、あれは本来結界を作る技だ。それを再現しよう。そしてその技の名を口に出す。
深夜「最終演目。水・火・木・金・土!」
五芒星を指で作り、それを八岐大蛇の下に展開する。すると、
八岐大蛇「グ、ガァアアアア!?」
結界が生まれ、吐いた炎が自身に跳ね返り自滅をする八岐大蛇。しかしこれは・・・
深夜「くっ、さすがにこの能力は、反動が・・・」
ーパリン
結界が割れてしまった。幸い、相手は炎を吐くのをやめたようだが、今度は水を吐く攻撃をしてきた。
龍時「無茶をしやがって・・・月命斬!」
月夜見さんが月命斬で僕の方を向いている首を切り落とした・・・だが
龍時「ぐはっ!」
別の頭の攻撃を受けた。月夜見さんは最初はすべての首を尾のときと同じように同時に全部切り落とそうとしていたようだが、攻撃が激しくなったせいもあってか、それができず、最低限、僕を助けられるようにしたのだろう。やはり月夜見さんは優しい人だ。そして、僕はそんな彼が作った隙を見逃さない。
深夜「合わせ鏡の夜!」
僕はセフィラム能力を発動する。僕の能力は見たことのある技をコピーするというものだが、技というより、動きをまねるのに近い。炎を出したりする妖術の場合はセフィラムエネルギーで妖力を再現、行使する。動きをまねるには相手の動きを知る必要がある。その知った動きを応用することで相手の行動を予測する『心眼』となる。まずは相手の一手目、首の数、今までの動き方を含めて64パターン。二手目、それに沿って僕が行動したときの相手の行動パターンを加えて121パターン。ここからの計算はめんどくさい。三手目で勝利までもっていこう。
三手目、209パターン。普段はこれを十手目くらいまで計算して技のコピーをしたりするのだが、今はさっきの一兎の技をコピーした反動のせいで頭がこれ以上回らない。三手目で勝利まで持っていくのに最も確率が高いのは・・・42%か・・・図体がでかいおかげか三手でも、かなり高い確率だ。
深夜「妖術、第肆幕、悲雷槍!」
一手目、雷の槍を七本生成。それぞれの首が次に動くであろう場所へめがけて攻撃 命中。水を放射していたため、感電反応が起きる。これが命中、そして感電したことにより、残りの成功率上昇。51%
深夜「妖術、第参幕、凍幻華」
二手目、感電している隙を狙い凍結 失敗。八岐大蛇は凍結しなかった。しかし、ひるんでおり、すぐには動けないと予測。それも考慮して残りの成功率上昇。67%
深夜「妖術、幕引き、深淵絶望」
すべての首の上に一つずつ裂け目を作り、その裂け目一つ一つから巨大な斧を降らせる闇属性妖術を発動。これですべての首を切り落とす。斧が落下 命中。八岐大蛇、討伐完了。
幸「お、おお!すげぇ!深夜のやつ、マジで倒しやがった!」
龍時「あ、ああ、最後の攻撃は相手の動きを完全に予測しているかのような動きだった」
と、二人が僕を称賛してくれる。とはいえ、久しぶりに能力を酷使した。今日はもう休んでしまいたい。
深夜「すみません。僕、もうそろそろ限界なので、戻らせてもらってもいいですか?」
と僕が言うと、月夜見さんはこう言ってくれた。
龍時「あ、ああ、すまないな、ほとんど任せっきりで」
深夜「いえいえ、月夜見さんが尾と首一つを切り落としてくれなかったら成功率が18%程度だったので、助かりました。それでは、僕はこれで」
僕は園上さんの能力を使い、『白鷺』の本部へ戻った。
・・・戻ったのだが、そこで僕が見たものは予想外の、それでいて、僕が望んでいた光景だった。