あれから数日が経った。悪魔たちが暴れまわっているせいで、世界は日常を失いつつあった。
一兎「ひどいもんだな。ここまでくると、セフィラム能力の規制が目的というより、世界を破壊することを目的にしてるとしか思えないな」
照「まあ実際、世界が終わってしまう危険があるからあなたや、私たちがここにいるんですが」
連中が引き起こしたことは日本だけに止まらず、世界中に広まっていた。だが、『銀狼
』の支部や、似たような組織は世界各地にあるため、被害はまだ小さいほうだ。俺たちも悪魔と戦いながら、人命を最優先に活動している。
歌恋「うわ~廃墟みたいなビルだ。これも悪魔たちがやったのかな?」
歌恋が見ているビルは窓は割れ、外壁はボロボロ。炎で焼けたのか黒い焦げのようなものが目立っている。
一兎「だろうな。こんな建物なんて、今じゃどこにでもあるがな」
世界はこのようなありさまだ。学校なんてやってないし、どの店も開いていない。避難所に避難して、備蓄食料を頼りに生きている人々がたくさんいる。
照「そろそろ、次の避難場所に着きますよ・・・ッ!この音は!」
一兎「ああ!襲われてる!」
歌恋「早く行かないと!」
聞こえた音というのはかなり小さく、遠くで起きた爆発音だった。人間の耳では聞き取れないレベルの大きさだったが、俺たち三人にはしっかりと聞こえた。
一兎「妖術、第捌幕、炎狼の爪痕
!」
歌恋「終焉機構!」
照「圧縮・・・!」
俺たち三人はほぼ同時に超高速になる。音のする方へ全速力で走ると、10秒もしないうちに目的地へとたどり着く。そこは、どこにでもあるようなごくごく普通の学校で、避難所に指定されている場所だった。
照「けが人がたくさんいますね。二人はあの悪魔の相手を頼めますか?私はけが人の救助をします!」
一兎・歌恋「了解!」
照の提案に俺たち二人は返事をし、悪魔のもとへと向かった。その悪魔の姿は、渦巻き状の楕円形の頭にはアンテナのような突起物が幾つか生えていて、蝙蝠のような羽とかぎ爪のついた手足を複数持った、薄赤色の甲殻類のような姿だった。俺は興味本位で様々な神話を読んでいたこともあったので、そいつの正体がわかった。
一兎「まさか・・・クトゥルフ神話のミ=ゴか!」
ミ=ゴは正確には悪魔ではなく、エイリアンの一種だ。それも、かなり高い知能を持っている。
ミ=ゴ「ブーンブーン」
奴がブザー音のような鳴き声を発すると、複数のミ=ゴがこちらに向かっていているのが分かった。
霊『一兎、今回ばかりは私にやらせて。さすがにあいつら全員は厳しいでしょ?』
多恵『歌恋、僕たちも交代しよう。妖術の扱いは、僕のほうがよくわかってるしね。』
こうして、死に遅れた二人が共闘することとなった。
-REI`SVIEW-
私と多恵ちゃんが表面に出るのとほぼ同時にミ=ゴたちが襲ってくる。
霊「手荒い歓迎ね。来なさい!エラーブレード!」
エラーブレードを構え、迎撃の体制をとる。ミ=ゴの武器は鋏のようなかぎ爪だ。あれで切られればどんなものでも切れてしまう。しかし、先ほどのけが人たちはみんな五体満足だった。
霊(多分、ミ=ゴを見て正気を失った結果・・・みたいなかんじだろうね・・・)
などと考えているとかぎ爪は眼前にまで迫っていた。私はそれをエラーブレードで防ぐ。
霊「残念だったね、エラーブラ―ドはあなたの薄汚い鋏じゃ切れないの」
そう煽りながらミ=ゴを弾き飛ばす。
ミ=ゴ「キ・・・サ・・・マ」
多恵「おやおや、日本語がしゃべれるなら最初からそうしてくれよ。ブンブンブンブンうるさくてたまらないんだ。妖術、第捌幕
、白蛇の戯れ!」
多恵ちゃんが煽りながら無数の白蛇を以てミ=ゴたちを蹂躙する。
霊「多恵ちゃん・・・私の分も残しておいてくれないかな?バニシュメント・ラスト!」
多恵ちゃんの攻撃によって打ち上げられたミ=ゴたちめがけてエラーブレードの白い波動を放つ。
多恵「そういって僕の手柄を横取りするのもどうかと思うけどね。っと、なかなかに硬い甲羅を持ってるみたいだね、このゴ=ミとやらは」
私の一撃を受けてもミ=ゴたちはまだ生きていた。
霊「多恵ちゃん?こいつらのことをゴミ扱いしたら、ゴミに失礼でしょ?ゴミ未満の存在として、ミ=ゴっていう名前があるんだから、ちゃんとそうやって呼んであげないと」
私がそうやって言うと、多恵ちゃんは少し考えるそぶりをして、攻撃を仕掛けながらこう言った。
多恵「それもそうだね。妖術、第拾幕、最後の審判!」
多恵ちゃんの手には巨大な光の剣が握られていて、それをミ=ゴたちに向かって横へと薙ぐと、まばゆい光がミ=ゴたちを包み、消滅させた。
霊「うわぁ、すごいなぁ。でも殺し損ねたのがいるね。殺し損ねること自体は識っていたんだけどさ」
ミ=ゴたちも命がある以上、魂というものを持っている。つまり、私の能力は通用する。
霊「秘守術、虚無破滅ノ影。終焉回路・・・
魂喰い!」
黒い影でできた巨大な爪がミ=ゴたちを捕まえ、その体を離した時にはミ=ゴたちは動かなくなっていた。
終焉回路は私の能力。その一部を今まで一兎に貸していたので、今までは表面に出てもすべての力を使うことはできなかったが、一兎の記憶が戻った以上、貸し出す理由もなくなり、今は私がすべての力を持っている。そのおかげでできたのがこの魂喰い
。触れた者の魂を破壊する技。虚無破滅ノ影を一緒に使うことで、距離や数を気にしなくても魂を破壊できる。
霊「それじゃあ、ついでに体も破壊しておきますかね。影よ!すべてを切り伏せよ!」
巨大な真っ黒な剣を生成し、ミ=ゴたちの体を真っ二つにする。魂を破壊しても、体は死なない。ミ=ゴはその特性上、死んでから数時間が経過して体が消滅する。死ななければ永遠にそのままだ。一般人がその姿を見るだけでも正気を失うというのに、そんなものを残しておくわけにもいかなかったので、確実に殺しておいた。
多恵「いやぁ、その技は怖すぎじゃない?僕だけを殺して歌恋を生かすのも簡単じゃないか」
そんなことを言われるとちょっといじめたくなっちゃうのがアラサーの性。なので私は手をワキワキさせながら
霊「試してみる~?ほら~ほらほら~」
その様子を見た多恵ちゃんは
多恵「ちょ、ほんとにやらないでおくれ!いくら死に遅れとはいえまだやらなきゃいけないことが残ってるんだから!」
とかなりビビった様子を見せてくれた。
霊「まあ、そんな冗談は置いておいて、そろそろもとに戻りましょうか・・・にしても、ここに来てクトゥルフ神話の生物まで召喚したとはね。今までギリシャ神話だったり、北欧神話だったり、そこらへんの悪魔とかを召喚してたのに、急に方向性を変えてきたね」
と私が言うと、脳内でこんな声がした。
一兎『多分、今までのだと、行動が目立ちすぎるからじゃないか?目立ちすぎると、それだけこちらの対応が早くなる。実際、今までは人的被害があまり出なかったからな。クトゥルフ神話の生物は、目立ちにくくも見ただけで正気を失うなど、大きな影響を及ぼす。つまり、これからは目立ちにくい悪魔やら神話生物を呼び出してくる可能性があるんじゃないか?』
一兎の推測はおそらく正しい。私ももう少し未来を識っておく必要がありそうだ。
多恵「考え込むのは後でもいいと思うよ。とりあえず僕はもう戻ってるから。またね」
そう言って多恵ちゃんは歌恋ちゃんと意識を交代した。
霊「そうだね、私も戻らないと・・・」
そして私は一兎と人格を交代した。
ここにきて私が識らない未来が訪れるなんて、もしかしたら、アレを使う時が来るのかもしれない・・・
すべては、一兎の幸せのために・・・