第一話 次の演目へ

ゆう「はあ、よくわからなかった。一度状況を整理しよう。」
幽さんが俺たちにめんどくさそうに言った。
ここは『白鷺しらさぎ』の本部。『銀狼ぎんろう 』の本部である園上邸は消滅したので、ここにきている。ベリアルとの戦いからまだ一時間しか経過していない。
幽「えっと?まず、一兎いちとの兄、零司れいじ が率いる『ロイヤル・カーズ』は一兎や『銀狼』を強くするために存在していて、人間を滅ぼす気はなかった。」
俺がうなずく・・・うなずいただけで何も言っていない。
幽「そして、一兎の能力が設定する能力じゃなくて、自然を操る能力で、使える妖術の属性も氷だった。なお、今まで炎属性を使っていたから、その経験のおかげで炎属性も使える。」
俺と月夜見つくよみさんがうなずく・・・うなずいただけで何も言ってない。
幽「で、零司いわく、種族戦争はもう始まってしまって、悪魔とかを敵は使役している。」
みんながうなずく・・・もちろん何も言ってない。
幽「おまえらさぁ、その犬みたいな感じで正座しながらうなずき続けるのやめてくれないか?とてもやりづらい。」
幽さんに文句を言われてしまった俺たちは、ちょっとシュンとする。そんな中、俺が口を開いた。
一兎「まぁ、そんなことは置いといて、まず一番に解決すべき謎があるんじゃないか?」
そう言って俺はとある女性の方を向いた。それに合わせてみんなの視線も彼女のほうへ向く。
歌恋かれん?「僕のことだね。いいよ、別に話してあげても。」
歌恋の姿をしたこいつは、百鬼ひゃっき勾玉まがたま を宙に浮かせてみたり、そこから消して、また取り出したり勾玉で遊んでいる。この行動だけで、こいつが百鬼の勾玉を操ることができるのは明白だろう。
一兎「じゃあ、お前のことは何て呼べばいい?」
多恵「うーん、多恵たえでいいよ。多いに恵みで多恵。」
たえ、その名を聞いた時、俺はなんか気になったので聞いてみた。
一兎「ちなみにその名前の由来は?」
多恵「ひらがなで逆さから読むと『えた』だから。感じは適当に当ててみた。」
予想的中。それを聞いた深夜しんやが、こう聞いた。
深夜「つまり、君は昔奴隷だったということかい?」
多恵「そういうことだよ。」
それを聞いた深夜は、少し考えるような素振りを見せた後、
深夜「君はもしかして、百鬼の勾玉を作るために生贄にされた人・・・なのか?」
そう聞いた。すると多恵は、
多恵「大正解。僕はかつて人柱になった人間だよ。勾玉が祠の倒壊によってたまたま欠けたんだけど、その部分には僕の魂があったんだよ、そして僕は勾玉から解放されて、たまたまいたこの歌恋の体に取り憑いたってわけだよ。ついでに言っておくと、そこで気を失って寝てるアリサちゃん?だったかな?その子の失われた記憶は僕の魂の代わりに勾玉に吸収されたんだね。でも、僕が吸収したから、記憶が戻ってるはずだよ。今はその反動で寝てるんだろうね。」
多恵の説明を聞いた俺たちは、しばらく何も言えそうになかった。しかし、そこでてるが質問をした。
照「自身の魂が吸収されたのになぜあなたはこうして表に出てこれるんですか?」
多恵はふっと笑い、
多恵「簡単な話だよ。歌恋と僕が百鬼の勾玉に交割万古で魂をささげてるんだ。勾玉は欠けてるからね、その部分でなら入ったり出たりできるんだ。ま、長年勾玉に封印されてた僕だからできることだけどね。」
多恵は、ここまで説明し、幽さんの方を見て話し始めた。
多恵「園上幽そのがみゆう 。次は君のことについて聞いてもいいかい?君はまだ、隠していることがたくさんあるだろう?歌恋の中から観察してたけど、何かを隠しているような素振りをよく見せていたよね。僕の目はごまかせないよ。」
多恵がドヤ顔をして、某名探偵のように幽さんを指さした。それを聞いたみんなは、一斉に幽さんを見た。
ゆき「幽さん、どういうことっすか?」
幸や俺が幽さんに畳みかけるように聞きに行く。
幽「うーん、話すしかないか・・・」
幽さんはあきらめてすべてを話すことにしたようだ。
幽「そうだな、まず、私は、一兎の中に一兎の母親、れいがいるのは知っている。そもそもそれを知っていて一兎に声をかけたんだからな。」
一兎「なん、だと・・・?」
俺はそれを聞いて、開いた口がどうにもならなかった。閉じるとか、そういう問題ではなかった。
幽「そして、私は魅守霊みかみれいの腹違いの弟だ。私たちの詳しい家庭環境については、私も霊・・・姉さんも知らないから、そこには触れないでほしい。」
絶賛俺は体の動きがフリーズしております。話を聞くことができてるだけマシですね。
幽「あともう一つ、俺が『銀狼』を発足したとき、龍時りゅうじ が来た。彼の目的の一兎を強くするということ、そして、龍時が神の使いであるというのも、その時から知っていた。姉さんに子供がいるというのはその時に龍時から教えてもらった。姉さんが一兎の中にいるのを知ったのは、一兎と初めて会った時だ。姉さんの方から声をかけてもらったよ。その時は本当に驚きでしかなかったが。」
こちらのほうが驚いてますよ。もうすぐ石化しそうなんですけど、俺氏。
幽「私が今まで隠していたのはこれくらいだな。」
幽さんの話が終わっても俺はしばらく硬化したままだった。
多恵「さすがに驚くことが多すぎて一兎が石みたいになっているけど・・・まあいいかな。」
多恵が俺を見捨てた。
照「ええっと、魅守一兎?大丈夫ですか?」
照が優しい。初めて会った時とは大違いだ。昔は俺を殺そうとする猪突猛進な脳筋イノシシだったのに・・・
照「今、失礼なことを考えましたね?」
一兎「ナンニモカンガエテナイヨ。」
心が読めるなんて聞いてないんですけど。
深夜「まあ、茶番はこのくらいにしておいて、これからの話をしないか?」
深夜の言葉にみんなが気持ちを切り替えた。深夜の言う通り、今は隠していたことだとかそんなのよりもこの種族戦争をどうするかの話し合いがしたい。
幽「そうだな。では、この戦いの根本的なところ、黒幕が何者かについて考えようと思ったが、これに関しては私はおおよその見当がついているし、みんなも予想はできていると思う。」
幽さんの言葉にみんながうなずいた。そして俺がこう言った。
一兎「セフィラム能力規制派のリーダー、佐々木盗真ささきとうま。ですよね?」
俺の言ったことに幽さんはうなずきながら、
幽「ああ、そうだ。そして、これはあくまで予想だが、奴らはセフィラム能力の規制が目的というわけではないかもしれない。『ロイヤル・カーズ』の連中がそうだったように。」
と言った。その通りだ。セフィラム能力の規制が目的なら、わざわざ悪魔の力を使う必要はない。あいつらの目的がわからず、みんなして黙り込んだ。そこに割って入ったのが多恵だった。
多恵「これからどうするかを話し合っているのにどうして謎解きが始まってるの?目的なんてそのうち分かるんだし、今は対策を練るべきでしょ。」
幽「あ、ああ。そうだな。」
多恵の意見に、幽さんをはじめとしたみんなが首肯した。
幽「では、これからどうするかだが、チームに分けていきたいと思う。だが、多恵。君はどうなるんだい?歌恋はもう表に出てこないのか?」
幽さんの疑問に、多恵は
多恵「ん?大丈夫だよ。僕と歌恋は一兎と霊と似たような感じだし、変わらない。あと、歌恋も一応この話を聞いてるからね?まあ、状況に応じて交代するよ。」
と説明した。その説明を聞いた幽さんは、右手を顎に当て、少し考えると、
幽「よし、三人一組でチームを組もう。まず、一兎、歌恋&多恵、そして照。この三人で一組。次に龍時、深夜、そして幸。この三人で一組といった感じで組もう。この組み合わせ方が戦闘ではやりやすいと思うのだが。」
幽さんの考えでは、照の弱点を補うのが俺とお母さんで、その俺とほぼ同じような感じで戦える歌恋、または多恵。そして、能力で月夜見さんの速度についていける深夜とその二人のカバーができる幸。この組み合わせがベストだと思ったのだろう。その考えに納得した俺たちは、そのチームに分かれて行動することにした。