第二十話 最終演目へ

-YU`SVIEW-
ゆう「ふう、いろいろあったが、なんとか『白鷺しらさぎ』の本部についたな」
ここでは今日、異能犯罪対策局いのうはんざいたいさくきょく のこれからの方針を話し合う。アリサを連れてきたのは、アリサの身元が判明したらしいので、ついでに連れて行こうということになったからだ。
幽「じゃあ、アリサ、行こうか・・・?」
私はアリサに声をかけようとしたが、彼女はどこにもいなかった。

-ICHITO`SVIEW-
俺は、全速力でみんなのもとへ向かっている。ベリアルの力は強大だ。だが、今の俺なら、どうにかできる。
一兎いちと「見えた・・・!」
ベリアルの巨体が見える。そして俺は、右手で握っている赫飛車かくびしゃに妖力を込め、巨大な怪物めがけて跳躍した。
一兎「妖術ようじゅつ第伍幕だいごまく氷道臨月ひょうどうりんげつ!」
俺が勢いよく赫飛車を振ると、そこから氷の斬撃がベリアルめがけて飛んで行った。
ベリアル「グオオオオ!」
ベリアルが苦しむ。
歌恋かれん「イチ兄!」
龍時りゅうじ「お、やっと十分か、時間を引き延ばしてると時間が無駄に長く感じるんだよなぁ」
てる「そうですか、私は時間の圧縮なので、短く感じますが」
ゆき「もお!二人とも余裕過ぎない?絶対三十分くらい経ってるよ!」
深夜しんや「幸はもうちょっと根性を見せてくれたらいいんだけどね」
と、俺の姿を確認した五人が、元気そうな声でそう言う。
歌恋「あれ?イチ兄、しん血気開放けっきかいほうを使ってない?それに秘守術ひかみじゅつ も変わってるし」
歌恋が俺の姿の変化に気づく。しかし俺は、
一兎「後で説明するから、今はこいつを倒そう」
と、話を終わらせた。正直、のんきに話をしている場合じゃない。
一兎「最終演目ラストステージ
俺は能力を発動する。
一兎「ベリアル、お前が今から挑むのこの世界の自然の力だ。さあ、お前にとっての最終演目を始めよう!」
俺の周りから大量のツタが生え、ベリアルを拘束する。すると、ベリアルの足元に地割れができて、そこにベリアルの足が落ちると、その地割れは閉じて、ベリアルは燃える。ベリアルには俺の能力による攻撃のフルコースを堪能してもらった。
ベリアル「グアアアアア、アアアアアア!」
ベリアルがまたもや苦しそうな声を上げる。
照「そ、その能力は・・・」
龍時「まさか、自力で覚醒させたというのか?」
照と月夜見さんは、俺の今の能力が何なのか、気づいたようだ。ほかの三人は、何が起きたのかわからず、唖然としている。
一兎「続けてもう一発!妖術ようじゅつ第壱幕だいいちまく氷華ひょうか妖術 ようじゅつ第参幕だいさんまく凍幻華とうげんか
ベリアルの足元を凍らせた後で、俺の周りを凍らせた。ベリアルは力ずくで凍った足を抜こうとする。すると、足を凍らせていた氷は砕け、ベリアルは巨大な羽で空を飛んだ。
一兎「空に逃げても無駄だぞ。妖術ようじゅつ第捌幕だいはちまく結露氷明けつろひょうめい
この妖術を使うと、自分の好きなように氷の足場を空中に作ることができ、空で戦える。足場を作るというより、自分の足を空中に凍らせるというほうのが正しいが。
一兎「さて、その羽、邪魔だよね、砕いてあげよう。妖術ようじゅつ第陸幕だいろくまく氷柱吹雪ひょうりゅうふぶき
そして、上空から巨大な氷柱が落ちてくる。仲間には当てないように、それでもできるだけ無差別に。
ベリアル「グ、グ、グアアアア」
ベリアルは羽を失った。俺はそのまま上空から攻撃を仕掛ける。
一兎「バニッシュメント・ラスト」
ずっと左手に握っていたエラーブレードで最大の一撃を叩き込む。できるだけ、ベリアルにだけ攻撃が当たるように、周りにある氷を砕かないように。
ベリアル「ウアアアアアアアアア、ガオアアア!」
ベリアルがさらに苦しむ。そしてベリアルは、巨大なまがまがしい球体を生み出す。これは悪魔の持つエネルギーで生成されたものだろう。こんなものを使われたら、街が丸ごと吹っ飛ぶ。
一兎「仕方がない。妖術ようじゅつ第漆幕だいしまく常世とこよ氷雨ひさめ
俺が大量の氷の針を相手の目に向けて放つ。すると、ベリアルの目はつぶれた。どうやら痛すぎたらしく、ベリアルは思わず攻撃をやめたようだ。
一兎「さあ、もうそろそろ終演と行こうか。妖術ようじゅつ幕引まくびき、氷雪月花ひょうせつげっか
周りにあった氷がすべて宙に浮く。氷雪月花は、一定範囲内にある氷を自由自在に操る技だ。さっきまで、適当に氷柱を落としたり、氷が砕けないよう気を使っていたのはこのためだ。そして、その氷は、ベリアルにすべてくっつき、ベリアルを完全に凍らせる。
一兎「最終演目ラストステージ五芒星ごぼうせいすい もくきん妖術ようじゅつ 幕引まくびき、」
俺は、ベリアルにゼロ距離で五芒星の波動を放つ。氷ごと砕いたその時には、ベリアル周りに、黒薔薇の花びらが大量に舞っていた。
一兎「黒薔薇ノ舞くろばらのまい、」
ベリアルは一瞬のうちに真っ黒なミイラとなり、その生命力が吸い取られていく。
一兎「~狂咲くるいざき~」
開花。ベリアルの命が黒いバラの花を咲かせた。
一兎「お前の負けだ。ベリアル」
俺は、黒薔薇を背に、みんなのもとへ歩いて行った。
深夜「あれ?アリサ・・・?」
深夜が指をさしてそう言った。その言葉に反応して、俺は、深夜の指の方を見た。そこには、ベリアルのもとへ歩くアリサがいた。アリサがベリアルに近づくと、ベリアルが動き出す。
一兎「馬鹿な!黒薔薇が咲いてもなお生きていられるだと!」
俺は動揺した。正直、真・血気開放をもう解除したい。体がもう限界だ。俺の能力で自然回復の速度を速めることもできるが、まだこの能力に慣れてない分、能力を使うだけでだいぶつらい。
照「あの光は、まさか!百鬼ひゃっき勾玉まがたま!?」
照のその言葉に、俺と深夜はハッとする。確かに、アリサから謎の光が発生している。そして、
深夜「百鬼の勾玉が出てきた。まずい、ベリアルが百鬼の勾玉を取ろうとしている!」
アリサの体から百鬼の勾玉が姿を現し、宙に浮いている。
一兎「くっ、妖術ようじゅつ第捌幕だいはちまく炎狼えんろうの・・・!」
俺が炎狼の爪痕で走り出した瞬間、俺の横を何者かが横切った。見たことのある顔だ。よく見た顔だ。俺にとって、大切な存在だ。その少女は、
一兎「歌恋・・・?」
常陸歌恋ひたちかれん。彼女が、俺よりも早いスピードで百鬼の勾玉を奪った。すると、百鬼の勾玉は歌恋の中に消えていった。それを見たベリアルが歌恋に襲い掛かるが、
歌恋?「これは僕の物だ。君のような危険な存在には渡せない。全妖術ぜんようじゅつ発動はつどう
ベリアルは歌恋?の攻撃により、完全に消滅した。
一兎「お前は、誰なんだ・・・?」
俺の疑問に、歌恋?は、
歌恋?「僕は、常陸歌恋の守護霊みたいなものだよ」
これが、種族戦争の始まりであり、最終演目の始まりだった。