一兎「くっ、うう・・・」
頭痛がする。たくさんの記憶が流れ込んでくる。俺が教えてもらった妖術は氷属性。そして俺の能力は・・・
零司「早くその記憶を完全に思い出さないと、俺に殺されるぞ。妖術、」
俺の能力は・・・設定する能力でも、虚像を操る能力でもなく・・・
零司「幕引き、」
兄さんの周りから黒い花びらが大量に舞う。
それでも俺は思い出せないし、記憶に翻弄される。
零司「黒薔薇ノ舞、」
その時にはもう、俺は黒い花びらに完全に包まれていた。
・・・終わった。すべてが終わったと思ったその時、
記憶の中の霊『一兎、よく聞いて、あなたの能力は・・・』
俺の中でずっと流れている記憶の中のお母さんが、俺の能力を口にした。
一兎「最終演目」
その瞬間、黒い花びらはすべて枯れ果てた。
零司「ついに取り戻したか。本当の記憶を」
兄さんが俺にそう言う。
一兎「ああ。すべての真実に、たどり着いたよ」
俺が取り戻した記憶、それは、俺の本当の能力と、妖術。そして、俺の記憶がお母さんの能力、終焉回路
によって認識を設定したということまで。そこから推測するに、あの薬を飲んだことによって俺の本当の能力が強制的に解放され、その過程で終焉回路が使えなくなったのだろう。それにより、能力で変えられていた記憶も元に戻った。それがこの一件の真実。兄さんたちは最初から敵ではなかったし、敵だと思わせることによって俺たち『銀狼
』のレベルアップを促していた。そのことも、正しいといえる。そして俺の能力は・・・
『自然を操る能力』
これこそが、俺の能力だ。これは余談だが、この能力は、かの有名な平安時代最強の陰陽師、安倍晴明
の能力と同じ能力だ。数々の妖怪たちを退けてきた力を、俺はミカエルからもらったのだ。さっき、Kを倒しに行く前、月夜見
さんが俺に話そうとしたのはこのことだろう。
一兎「さて、兄さん、続けよう。俺は早くみんなのもとへ戻らないといけないんだ」
俺は兄さんにエラーブレードを向ける。
零司「いいだろう。妖術、第弐幕、瞬殺の爪
!」
兄さんが両手に巨大な爪を生成し、高速で突撃してくる。
一兎「妖術、第弐幕、氷地槍剣!」
兄さんの進行方向の地面から、巨大な氷の剣が現れる。その急な攻撃に対応できずに、兄さんは攻撃を受けた。
零司「ぐはっ!くそ、やるな」
俺から距離をとった兄さんに対し、俺は追撃を仕掛ける。
一兎「最終演目」
周囲のツタや木がありえない形で成長し、兄さんを捕まえる。そして俺は、
一兎「妖術、第伍幕、氷道臨月」
右手の赫飛車を振り、そこから氷の斬撃を飛ばす。
零司「くっ!俺の言うことを聞け、影!」
兄さんが影を使ってどうにかしようとするが、何も起こらない。それはなぜか。俺の能力で、影を自然の形に固定したからだ。だから、影がありえない動きをすることはない。それに、この記憶に適応するとき、決意正義ノ魂の効果で、能力が成長している。俺が生まれてからお母さんたちが死ぬまでを頭の中で追体験していたので、その時の分の成長が加算されている。
一兎「兄さん、これで終わりだよ。最終演目、五芒星、水・火・木・金・土」
俺は水火金木土と言いながら空中に五芒星を描く。それを描き終えると、その星が赤や黄や緑や青などの色を発し、そのまま波動となり兄さんに向かって発射される。これは本来、能力で操れる自然の力を利用した結界を作るものだが、それを応用して攻撃技にしたのだ。
零司「しまっ・・・ぐああああああああああああ!」
先ほどの攻撃でひるんでいた兄さんは、それを避けることができずに、真正面から受けた。
・・・
零司「俺の負けだ。聞きたいことはなんだ?あるんだろ、まあ、こんなことが起きれば、誰でも混乱するだろう」
兄さんが俺にそう言ったので、
一兎「幽さんもグルなのか?」
と聞いた。先ほどの空間移動、幽さん以外に思い当たらない。
零司「いいや、あいつなら関係ないよ。多分、空間移動のことを言っているんだろうが、ここは樹海に見えるが、樹海じゃない。お母さんの能力で、さっきの場所に結界を作っただけだ。だから、お母さんが能力を解除すれば、元に戻る」
なるほど、そういうことだったか。
一兎「じゃあ、ついでにもう一つ。どうして、炎の妖術に認識変更できたんだ?俺の力を抑えるために、俺の本当の能力と、その能力に最も相性のいい氷妖術を隠したのはわかるが。どうやって炎の妖術に変更したのかがわからない」
俺がそう聞くと、兄さんは困ったような顔をして、
零司「いや、俺に聞くなよそれ。お母さんに聞け・・・ッ!まずい!一兎、お前は速くベリアルを倒しに行け!」
兄さんが俺にそう言った。すると、結界が解除され、再び俺の部屋に戻った。
一兎「はぁ?どうゆうことだよ!」
俺がそう言うと、
零司「おそらく、規制派の連中だ。この『銀狼』を建物から壊そうという魂胆だ!奴らは俺がどうにかする。お前は速く行け!」
そう言いながら、俺の肩を掴み、
零司「お母さん、俺の妖術の幕引きを一兎に渡してくれ。俺の魂の一部にある記憶から」
と言った。すると、俺の中に黒薔薇ノ舞~狂咲~を使用するときの記憶と、兄さんの妖力が流れ込んでくる。
一兎「兄さん、これって」
零司「俺からのプレゼントだ。いままで、お前と、お前の仲間を騙していて、すまなかった。それに、関係ない人たちも巻き込んだ。だからこれは俺のせめてもの償いだ。さあ、速く行け。俺のことは気にするな」
そう言って、兄さんは俺を影の中に送った。俺を外へ脱出させるために。多分、兄さんは死ぬ気だ。俺はこの時、俺が死のうとしていた時の歌恋
の気持ちがよく分かった。俺は目から零れ落ちようとする涙をぬぐった。
-REIJI`SVIEW-
零司「妖術、第肆幕、黒雷!妖術
、第参幕、絶望。妖術、第弐幕、瞬殺の爪、妖術、第壱幕
、死滅刀」
俺は大量の妖術を発動させ、たくさんの人間を倒す。こいつらがつけている装備からは、妖力や、悪魔のような力が感じ取れる。そして俺は、先ほどの一兎との戦闘での消耗により、体力的にきつい。しかも、ここにいる奴らは、この屋敷を燃やしているようだ。炎も迫ってきているだろう。おそらく、俺と戦っているのは、逃走のための時間稼ぎだ。
零司「はあ、はあ、お前ら全員、道連れだぁあああああ!妖術、第陸幕、月下
」
妖力を強化し、
零司「妖術、第漆幕、虚無絶零!」
この屋敷ごと凍りつくし、
零司「妖術、第捌幕、三連続発動!黒天昇・参!」
三つのブラックホールを生成。そして、爆発。
零司「これで、ロイヤル・カーズは全滅か。ごめん。お父さん、多分俺、そっちには逝けないや。俺は悪いことばかりしてきたから、地獄行きだよ」
俺は壊れ行く建物の柱に寄りかかりながら目を閉じる。
零司「俺は、魅守一兎という、戦争を止める調停者をこの世に残すことができた。これ以上にない上出来すぎる成果だ。それだけで俺は満足だ・・・」
俺の生命力が小さくなるのがわかる。
零司「はは、人生、棒に振っちまったなぁ・・・」
そして、魅守零司は、その人生に、幕を下ろした。