第十八話 壊れた回路に血を流す

零司れいじ妖術ようじゅつ第壱幕だいいちまく死滅刀しめつとう
兄さんが急に現れた刀で俺に斬りかかる。これには猛毒が仕込まれているので、触れたら即死。俺はそれをギリギリで避ける。
一兎「くっ、妖術ようじゅつ第参幕だいさんまく業火ノ一太刀ごうかのひとたち!」
俺が炎をまとった神剣赫飛車しんけんかくびしゃで兄さんを斬ろうとするが、
零司「ふっ、甘いな、妖術ようじゅつ第伍幕だいごまく獄界ごっかい !」
バックステップで避けたついでに黒い矢を俺に向かって放つ。俺はその攻撃に対応できなかったため、その矢を受けてしまった。
一兎「なるほど、身体能力の低下か・・・」
その矢の効果は、被弾者の身体能力を下げるものだった。普段の俺なら終焉回路ラストプログラムで元に戻すところだが、なぜか今の俺は能力が使えなかった。
零司「どうした?そんなものか?確かに俺は人間を滅ぼすのも嘘だといったし、目的はお前に王の座を譲るとも言った。だが、手を抜くなんて一言も言ってないぞ。俺は最初からお前を殺すつもりで戦っている」
そう言って、兄さんは次の技を繰り出す。
零司「妖術ようじゅつ第拾幕だいじゅうまく鮮血せんけつつばさ !」
赤黒い波動を俺に向かって放つ。俺はそれをなんとか避けた。すると。俺の後ろで木が倒れる音がした。その木をちょっと見てみると、枯れているようだった。おそらく、当たったものの生命力を吸収する効果があるのだろう。俺はその技に少し恐怖感を覚えたが、両手の剣をもう一度強く握りしめ、
一兎「妖術ようじゅつ第漆幕だいしちまく爆炎大噴火ばくえんだいふんか!」
剣を持った両手を前に伸ばし、そのままヘッドスライディングするように兄さんに向かって飛び込んだ。この爆炎大噴火は俺の頭上から火の玉を大量に出すので、今回は火の玉が俺の進行方向に向かって発射される。
零司「なるほど、考えたな、だが、妖術ようじゅつ第捌幕だいはちまく黒天昇こくてんしょう!」
兄さんは、俺がいるところの少し上にブラックホールのようなものを生み出した。火の玉と、俺はそのブラックホールに吸い込まれてしまい、そのブラックホールは俺を吸い込むと同時に爆発した。
一兎「ぐあああああああああ!」
これには俺も声を上げずにはいられないくらいのダメージが入り、地面に膝をついた。
零司「さて、千変万化ノ結せんぺんばんかのむすびはもうそろそろ反動が来るんじゃないか?」
兄さんの言う通り、千変万化ノ結はベリアルとの戦いのときからずっと発動していたため、もう限界がきている。
一兎「くっ、こんなところで負けていられない。秘守術ひかみじゅつ人ノ道じんのみち、決意正義ノ魂」
俺は秘守術を変えた。急な成長に追いつくためにさらに成長する。それは、逆効果かもしれないが、やってみるしかない。
零司「じゃあ、そろそろ俺も本気を出そう。妖力全開放ようりょくぜんかいほう秘守術ひかみじゅつ地ノ道ちのみち 虚無破滅ノ影きょむはめつんかげ
兄さんの背中から左右三本ずつ、計六本の大きくて黒い爪のようなものが出現する。兄さんの本気、それは虚無破滅ノ影だ。扱いは、俺よりも上で、俺ではできないようなこともできる。
零司「くらえ!インフィニットシャドウ!」
兄さんは、俺に向かって無数の黒いとげのようなものを放つ。それは、兄さんの思うように動く。そのため、俺はそれをかわせない。
一兎「くっそ!妖術ようじゅつ第玖幕だいにまく火具土命ノ憤怒かぐづちのふんど!」
炎の壁を自分の周りに生成し、黒いとげをすべて防ぐ。この黒いとげは、兄さんが虚無破滅ノ影を使用したときに使える技だ。俺にはできない。
零司「さてと、妖術ようじゅつ、第陸幕、月下」
攻撃が来るわけではないようだ。しかし、兄さんの妖力の質がかなり上がってる。つまり、次以降の技は威力がめちゃくちゃなことになる。正直やばい。
一兎「はあ、はあ、妖術ようじゅつ幕引まくびき、二連続発動にれんぞくはつどう終炎ノ一太刀 しゅうえんのひとたち
俺は、ここでまた終炎ノ一太刀を二回同時に発動させる。だけではなく、
一兎「乱世らんせ無影虚像ラストフィクサー!」
なぜかこちらは使えたので、発動する。終炎ノ一太刀・弐を簡単にかわした兄さんに無数の斬撃が時間差で襲い掛かる。その攻撃に対し、兄さんは、
零司「一兎、背中ががら空きだぞ」
影の中を移動して俺の後ろに回り込んできた。でも、それは想定内だ。無影虚像は自由に虚像を放てる。そして今使ったのは時間差で斬撃が飛んでくるものだ。なので、俺の後ろに回り込んできた兄さんに再び無数の斬撃が襲い掛かる・・・!
零司「くっ!やるな」
これには兄さんも攻撃を受けるしかなかったようで、少しだけ、傷をつけることができた。が、少しだけだ。
零司「だが、こんな技で俺に勝てると思うなよ。妖術ようじゅつ第漆幕だいしちまく虚無絶零きょむぜつれい !言っておくが、この妖術は今のお前みたいに妖力が少ないと、消滅するぞ」
一兎「・・・!」
その言葉を聞いた俺だったが、うまく体を動かせない。さっきのが俺の切り札だった。いや、切り札ならまだある。あれならどうにかできる!
一兎「しん血気開放けっきかいほう!」
血液を五割消費する。幸い、今まで流した血は一割には遠く及ばないほどだったため、この能力を発動できる。
一兎「ついでにバーンフェーズ!」
真・血気開放のおかげで妖力はさらに手に入れることができたので、バーンフェーズを発動させる。いや、させたはずだった。
一兎「え?炎じゃない?氷?」
そう、いつもなら炎を身にまとっていたはずが、なぜか氷を身にまとっていたのだ。そして、その戸惑いが俺の反応を遅らせ、虚無絶零による、氷の攻撃を受けた。
一兎「しまっ・・・」
と思ったら、その氷は俺の体に吸収された。
零司「ほう。氷妖術を覚醒させたか」
一兎「え?」
兄さんの言葉に、俺が聞き返す。
零司「まあいい。ならばこれをくらえ!妖術ようじゅつ第玖幕だいきゅうまくやみ双剣技 そうけんぎ !」
その攻撃が来る瞬間、俺の頭の中にとある記憶が流れてくる。走馬灯とかいうやつか。その記憶は、俺がお父さんに氷妖術を教わっている様子だ。いや、待てよ。俺が教わったのは火属性だったはず。ありえない光景なのに、これは本当の記憶だと頭が理解し始めている。しかも、俺の能力が違う?俺が終焉回路でもなく、無影虚像でもない能力を使っている。その記憶も、本物だと脳が言っている。そして俺は、その記憶に従うように、本当なら放つことのできない、発動方法がわからないはずの妖術を放つ。
一兎「妖術ようじゅつ第肆幕だいしまく氷柱華ひょうちゅうか
氷の盾が、兄さんの闇に包まれた二振りの剣による攻撃を防いだ。
零司「ふっ、ようやくか」
兄さんは何か知っているような感じだった。確か、お母さんと最初から組んでいたと言っていたはず。
一兎「・・・兄さん。この記憶について、何を知ってるんだ?」
俺がそう問うと、
零司「詳しいことはお母さんに聞け。俺から言えるのは、お前が最終演目に到達したということだけだ」
兄さんの言っていることがまるで分らない。謎の記憶に困惑している俺を見て、兄さんはふっと笑い、
零司「さあ、早く目覚めろ。そして、俺を超えて見せろ。その、『最終演目』で!」