深夜「あいつの弱点は妖力だ!妖力を通さないと攻撃が通らない!」
深夜に言われて気づく。俺と照は、神の武器と炎属性による攻撃、という共通点があったが、俺は妖力を使用しているが照は使用していないという相違点があった。
龍時「なら、一兎と歌恋
は攻撃に集中!それ以外は、二人のサポートをするぞ!」
そう言って、月夜見さんは、ベリアルの攻撃を俺の代わりに受け止める。
龍時「くっ、さすがに重い・・・」
月夜見さんはきつそうだが、そのおかげでベリアルに隙ができた。
一兎「歌恋!俺に合わせろ!妖術、第拾幕、炎龍乱舞!」
歌恋「わかった!妖術、第捌幕、白蛇の戯
れ!」
炎の龍と白い蛇が大量に出現し、ベリアルに襲い掛かる。
ベリアル「グァアアアアア、アアア!」
ベリアルがひるむ。しかし決定打にはならない。そして、攻撃後の隙ができた俺たちにベリアルが次の行動をしようとする。おそらく攻撃をしてくるだろう。その予想は、能力がなくても簡単にできる。
幸「持ってきてよかった煙幕!」
幸が何かを投げると、それは俺たちの足元で破裂し、煙が俺たちの姿を隠す。
一兎「ありがとな、幸!妖術、第伍幕、燐神の瞳!」
俺の視界が上空から見下ろしたような感じになる。さすがに煙の中では動きづらいので、これで様子を見ることにした。すると、ベリアルは、巨大な翼を生やし、それまで巨人だったそいつは、その翼を以て煙を消そうとしている。
一兎「やばいな、無影虚像!」
俺はできる限りたくさんの斬撃を飛ばした。煙ごと斬ってしまったが、いい不意打ちになっただろう。一応、妖力は込めておいた。すると、
ベリアル「コノチカラ、シッテイルゾ」
ベリアルは俺の斬撃を吸収した。
歌恋「え?どういうこと?」
照「・・・まさか」
深夜「二人とも、危ない!」
ベリアルの胸部から、俺の放った斬撃が返ってくる。
深夜「ちっ、妖術、第捌幕、海蛇ノ舞!」
深夜が水の蛇を大量に出現させ、その斬撃を跳ね返す。跳ね返したといっても、攻撃を防ぐのに精いっぱいだったせいで、ベリアルには当たっていない。どのみち、当たっていたとしても同じことの繰り返しだっただろう。
一兎「なんだよ、こいつ、強すぎじゃねぇか?」
バニッシュメント・ラストを撃つタイミングを考えているが、このままでは、打つ前にこちらが負けてしまう。
一兎「あ、れ?」
その時、俺は何かを思い出した。
一兎「みんな、十分だけ、時間を稼いでくれないか?勝算が見えたけど、その準備に時間が欲しい」
俺はみんなにそう提案した。すると、
照「十分ですか、短いですね。わかりました。任せてください」
龍時「ああ、たった十分だろ?余裕だ」
と、頼もしい神の使い二人。
深夜「友達の頼みなら、断れないよね」
歌恋「イチ兄を信じるよ!」
深夜と歌恋も俺にそう言ってくれた。一人だけ、いやそうな顔をしているが。
幸「はあ、十分かぁ、長いけど、やるしかないんだよね・・・」
まあ、一応、幸も承諾してくれているみたいなので、良しとしよう。
一兎「ありがとう!じゃ、任せた!妖術、第捌幕、炎狼の爪痕
!」
そして、俺は高速で街の中を走り抜ける。右曲がったり、左に曲がったり、そして、いつも見ている建物を見つける。そこは、園上邸
だ。俺は、園上邸の俺の部屋へ向かった。何をしに来たのかというと、
一兎「確かここに・・・あった。水無月透の遺産」
俺は机の引き出しの中から、一本の小さなビンを見つけた。そのビンにはラベルがあって、そこに書かれていたのは、
一兎「セフィラム能力覚醒剤、Awakening、か。名前的に大丈夫かな・・・?」
違法ドラッグのような名前のそれは中に血のような、でも透き通った鮮やかな赤い液体が入っていた。その薬物は能力を強くする薬だというのは、なんとなく予想していた。もしかしたら、危険ドラッグのように、やばい症状が出るかもしれないが、名前のAwakeningというのは、覚醒、目覚めるという意味があるので、セフィラム能力を覚醒させるのだろうと予想していた。どうしてこんなものがあるのかというと、それは、水無月透を倒した時、奴の研究室でこれを見つけた。なんとなく、これは持っておいたほうがいいと思い、そこから奪っていた。このことは、その場にいた歌恋以外は知らないし、歌恋にも口止めをしてある。この危険そうな液体を見ていると、突然声が聞こえる。
霊(一兎、それは飲んだら、後戻りはできないよ。)
お母さんが俺にそう言う。
一兎「その言い方だと、止めているわけではないんだな」
俺がそう問うと、お母さんは反応を示さなくなった。
一兎「まあ、飲むつもりでここまで来たんだ。もう覚悟は決めてる」
そして俺は、そのビンの蓋を開けて、中に入っている液体を一気に飲んだ。すると、
一兎「ウガァ、ァァ、アア、ウアアアアアアアアアアアア!」
激しい頭痛が俺を襲った。頭が割れるような、そんな感覚。視界もぼやけてきて、何も見えなくなった。
その時、とある声がした。聞いたことのある声だ。お母さんか?いや、頭に響くような声じゃない。幽さんかアリサが帰ってきたのか?いや、二人の声でもない。その声の主は、
零司「一兎、お前はすべての真実を知る必要がある」
兄さんの声だった。俺はぼやけたままの目で、声のするほうを見る。
零司「その薬を作るよう命じたのは、俺だ。そして、一兎が気付くように研究室に置けと命じたのも、俺だ」
だんだんと痛みがおさまってきた頭で、その話の内容を理解する。
零司「そして、人間でセフィラム能力を持っていた水無月透を妖怪にして、俺たちの両親を殺させるという作戦を考えたのは、お母さんだ」
その言葉を聞いた時には、頭痛は完全にしなくなっていた。いや、驚きのあまり、痛覚を感じることができなかっただけかもしれないが、痛みはなかった。
零司「すべては、お前をこの世界で最も強い存在にするという作戦のもとで動いていた。お母さんの作った、物語で、お母さんにとっての最終演目だ」
真実が明らかになる。すべては、俺を中心に回っていた物語だったということだ。
一兎「どう、して」
俺はやっとの思いでその声を出すことができた。
零司「理由は簡単だ。種族戦争を終わらせるためだ。種族戦争は、もう始まってしまった。だから、それをお前が止めるんだ」
種族戦争とはいったい何だろうか。その疑問を察したのか、兄さんは、
零司「種族戦争というのは、神、天使、悪魔、堕天使、妖怪、そして人間。この六つの種族の力がぶつかり合う戦争だ。神と天使は人間に力を与え、悪魔と堕天使は、また別の人間とともに世界を滅ぼす。この中で最も重要なのは、妖怪だ。今、妖怪はどちら側にもいない第三勢力だ。妖怪たちのユートピア、それは、一人の妖怪の王が、妖怪たちの平和を守ることで初めて実現する。人間を滅ぼすなんていうのは、嘘だ。そして今、妖怪の王とは、俺のことだ。だが、俺は王の座をお前に託す」
兄さんの言っていることがわからなかった。王の座?つまり、ロイヤル・カーズのジョーカーになるということか。だが、なぜそんなことをする必要が。
零司「これは大事なことだ。今、お前は能力が目覚めようとしてる。その力を以て、兄である俺を超えて、妖怪も、人間も、みんなを守るという決意を、想いを、俺に見せつけて見せろ!」
その瞬間、場所が俺たちのもともとの家があった樹海に変わった。これは、幽さんの能力?
と、その時にはもう、俺はいつも通り体を動かせるようになっていた。そして、俺は覚悟を決めた。みんなを守れるなら、その方法に縋りたい。だから俺は兄さんを見て、それに呼応すように兄さんもこちらを見た。
戦いの合図、それは、俺たちが同時に同じ言葉を口にすることだ。
一兎・零司「さあ、次の演目を始めようか!」