第十六話 敵対者

てる「戦争・・・?」
私は首をかしげながら聞き返した。
れい「うん、戦争。私はその未来を予知した」
魅守霊みかみれいからは嘘をついている様子もない。
照「それで、私は何をすればいいんですか?」
霊「そうだね、照ちゃんには一兎いちとを守ってほしいかな。私はそのうち消滅するから、そのあとのことはあなたに一任する。一兎を一人にしないでね」
そう言う彼女の表情は、少し悲しいような表情をした。消滅する・・・というのは、魂だけを現世に留まらせる限界でもあるのだろう。そのせいで自身の息子を一人にしてしまうのが申し訳ないのか、それとも別の悲劇が彼を襲うのか、まだ分からない。でも、私は協力する姿勢を彼女に見せた。
照「わかりました。あなたの言うことに従います。では、こちらからも一点。世界の破滅には、百鬼ひゃっき勾玉まがたま と、『悪魔サタン』が関係しています」
霊「また新しいのが出てきたね、正直ややこしくなってきたよ。サタンってあれでしょ?地獄の長だとか、神の敵対者、もしくは人間の敵対者とかいう、あれでしょ?」
私が伝えた新事実に動揺してるようだった。まあ、本当ならこのことはもう少し後に言うつもりだったが、協力するなら知っておいたほうがいいので、伝えておいた。
照「はい、それです。キリスト教では神の敵対者、イスラム教では人間の敵対者と呼ばれていますね。どちらもあっているんですが。そいつの存在が関係していることは覚えておいてください」
私がそこまで言い終えると、魅守霊は、ため息をついて、
霊「そんな情報を渡されたら、こっちも出さないといけなくなるじゃん。今から、一兎の本当の能力を教えるよ」
と言った。正直、悪魔サタンよりもそっちの情報のほうが大事だと思うけれど。そのため私は、
照「・・・か、彼の能力は、なんですか?」
といった感じで恐る恐る聞いた。
霊「一兎の能力、それは・・・」
ごくり、つばを飲み込む音が聞こえるくらいの静けさが漂う。
霊「        」
その言葉を発した魅守霊は魅守一兎の中へ戻っていった。

-ICHITO`SVIEW-
俺の意識が戻る。すると目の前には天野照あまのてるがいた。
一兎「なにを話してたんだ?今回はなんか意識共有されなかったんだけど・・・」
と俺が照に問うと、照はあきれたように、
照「なんで意識共有しなかったか、それくらいわかりますよね、どうして聞いてきたんですか?」
照の言う通りだった。よくよく考えてみれば、会話の内容を俺に聞かせたくないから意識共有をしなかったんだろう。俺がそんな風に考えていると、どこからか声がした。
歌恋かれん「イチ兄!無事!?」
龍時りゅうじ「あ、照!?お前、また一兎を殺しに来たのか!」
銀狼ぎんろう』のみんなが来た。と言っても、幽さんとアリサがいないので、いつものメンバーが全員集合したというわけではないが。みんなが来たところで俺と照は月夜見つくよみ さんが行った後のことを話した。それと同時に照は俺を殺す命令は取り消されたということを話したうえで、俺たちに協力をすると言ってくれた。それに対し、月夜見さんは少し不満そうだったが、照が俺のピンチを救ったことも考えて、しぶしぶ了承した。美人相手ならすごいへらへらしそうなゆき も、目の前の女性が神の使いだということを理解しているので、真面目な顔をして話を聞いていた。これには少し笑いがこみ上げてきそうだった。
そんなことをしていると、深夜しんやが、
深夜「みんな、なんか嫌な感じがしないか?」
と言った。深夜には、魂を視る力があるので、何かを感じたのか。魂関連なら、専門家が俺の中にいるので、聞いてみることにした。
一兎(お母さん、何かあるの?)
霊(めんどくさいことが起きそうだよ。零司れいじは関係ないけどね)
お母さんは反応してくれた。兄さんは関係ないらしい。となると規制派か・・・
俺がそう考えていると、またお母さんの声がした。
霊(正直まだ早い気もするけど・・・仕方ない、やろう。神剣赫飛車しんけんかくびしゃ、強制開放!)
そして俺の目の前に刀身が真っ赤な刀が現れた。三振り目の神剣だ。俺はそれだけヤバイことが起きるのを察して、その柄を右手で握った。というか、今まで神剣を覚醒させていたのはお母さんだったのか。
幸「え、何それ、めっちゃかっこいいじゃん!」
幸が少し興奮しているが、この刀、神力がやばい。正直、強すぎてその力に振り回されそうだ。
照「確かに、やばそうなのが来ますね、その刀が解放されたのも納得です」
龍時「ああ、この感じ、堕天使か悪魔か?」
堕天使、悪魔、気になる単語が出てきた。まあ、神とか天使とか妖怪が存在してたり、神話などの生物が存在しているということを知っているので、そいつらがいるのも納得だが。
歌恋「えー、悪魔とかも実在してるんですか?ちょっと怖いな・・・」
歌恋が不安そうな顔をする。俺も正直不安だ。照は炎の槍を手に持ち、月夜見さんは『妖刀ようとう 月光げっこう 』ともう一本の無銘の刀を抜き、二刀流の構えをする。深夜は、俺のバーンアップをコピーして発動。幸はいつもの鉄の塊ではなく、投げナイフを装備、そして歌恋は、
歌恋「妖術ようじゅつ第漆幕だいしちまく光刻こうこく聖剣せいけん
光り輝く剣を装備。そして俺は、
一兎「秘守術ひかみじゅつ天地人ノ道てんのみち千変万化ノ結せんぺんばんかのむすび
赤いマントを顕現させる。すると、頭の中でまたもやお母さんの声がする。
霊(来なさい、エラーブレード!一兎、一回だけバニッシュメント・ラストを最大火力を使えるようにしておいたから。)
お母さんがエラーブレードを呼びよせた。バニッシュメント・ラスト、照とお母さんが対峙したときに使っていたあの技か。あの時が最大火力ではないとすると、おそらくヤバイくらいの火力なんだろう。そう思いながら俺は左手でエラーブレードの柄を握った。
全員が戦う準備を終えた。このメンバーなら、堕天使だろうが悪魔だろうが、負ける気はしない。
龍時「来るぞ!」
月夜見さんのその声と同時に、おぞましい姿をした存在が現れる。
照「あなたは、悪魔、ベリアル」
ベリアルと呼ばれたそいつは、うめき声をあげながら、
ベリアル「百鬼ひゃっき巫女みこ、ドコダ、ソノチカラ、マモル」
と不気味な声で言ってきた。百鬼の巫女?百鬼ひゃっき勾玉まがたまと何か関係が・・・まさか、アリサのことか?
しかし、そんなことを考える余裕はなかった。ベリアルが歌恋に攻撃をする。その攻撃は歌恋も知っていた。おそらく、妖術ようじゅつ第肆幕だいしまく 神楽かぐらを使ったのだろう。それを軽々と避けて見せた。
幸「な、なあ、あいつ、守るとか言ってなかったか?いいやつなんじゃ・・・」
と、幸が馬鹿なことを言ってきた。
一兎「ならどうして襲ってきてるんだ?それに、ベリアルって言ったら、召喚しても嘘しか言わないとか言われてなかったか?」
照「その通りです。召喚者が嘘をつかないよう命令していれば別ですが、今回の場合は嘘でしょう。守るのではなく、奪うとか、壊すとか、そういう感じだと思いますよ!」
照はそう言いながら、ベリアルに突撃する。しかしベリアルはひるむ様子もなく、攻撃を仕掛ける。歌恋に。
一兎「いや、さすがにやばいだろ。妖術ようじゅつ幕引まくびき、二連続発動、終炎ノ一太刀しゅうえんのひとたち !」
俺は両方の剣に巨大な炎をまとわせ、ベリアルに攻撃をする。
ベリアル「グアア、ア、ナゼ、神ト天使ノチカラヲ、モッテイル・・・」
その攻撃にはひるんだようだ。赫飛車かくびしゃ と、エラーブレードが有効だったらしい。だとしたらなぜ神の力を使っている照の攻撃にはひるまなかったのだろう。そこに勝利のカギがあるはずだ。すると、
深夜「なるほど、そういうことか」
深夜がそうつぶやいた。
深夜「みんな、そいつの弱点が分かったよ!」