第十二話 眠る羊と迫る虚像

一兎いちと花倉有栖はなくらありす、それが、アリサの本当の名前か」
俺がかがみにそう聞く。
深夜しんや「そうだよ。彼女は僕の親戚でね。幼いうちに家族を亡くしている。そして、その家族からお役目を引き継いだ。その当時は僕も家族を失っていて、同じお役目を行っていたんだけどね」
と鏡が言ったところで、俺が、
一兎「そのお役目っていうのは、百鬼ひゃっき勾玉まがたまの監視か?」
そう聞いた。すると鏡は苦笑して、
深夜「監視っていうのはちょっと違うかな。勾玉を守護するっていうのが正しいね。まあ、その役目を僕らは一緒にしていた。有栖は正直な子だから、よくめんどくさいとか言ってたけどね」
そこまで聞いて、俺はさらに質問をする。
一兎「守護をするっていうのは、具体的には何をするんだ?」
俺は、正直な話アリサだとか有栖とかの話には興味がない。記憶を失うのに何があったのか、そして、当時の勾玉の状態が知りたい。
深夜「守護をするって言っても、ただ見張ってるだけだよ。本当にそれだけ。それである日、台風のせいで祠が壊れて、様子を見に行って、壊れていたから、とりあえず勾玉だけ回収しようと有栖が勾玉に触れた瞬間、勾玉は有栖の体に吸収された。そんな感じさ」
それだけの説明をして、もう話すことはないと思ったのか、鏡は戸棚からスナック菓子を取り出した。
でも、まだ説明されてないことがある。
一兎「もう一つ聞いていいか?その祠の場所はどこにあったんだ?あと、祠の大きさは?」
俺がそう聞くと、鏡はあきれたような顔をして、
深夜「一つじゃなくて二つ聞いてるじゃん」
と言った。でも鏡は教えてくれるようだった。
深夜「祠はここの近くの樹海にあって、大きさは大体、お地蔵さんが入るくらいの大きさだよ。お寺みたいな立派なものがあったわけではないね」
ここの近くの樹海・・・俺の実家もその樹海にある。その当時鏡と出会わなかったのが奇跡のようだが、俺はそれをあえて言わなかった。実際は言うのがめんどくさかっただけだが。そして俺は、
一兎「もしかしてさ、お前と有栖ってなんか、霊的な力を持ってたりする?」
と聞いた。すると鏡は驚いたような顔をして、
深夜「どうしてそう思ったんだい?僕はともかく、有栖がそんな力を持ってるなんて、それを匂わせるような発言をした覚えはないんだけど・・・」
その反応だけで俺の予想が当たっているのだと確信した。なので俺は、そう思った理由を言った。
一兎「お前と親戚だから・・・かな?」
自分も疑問形になってしまった。それに鏡は、
深夜「なんで疑問形なんだよ・・・まあ、合ってるんだけど。僕ら一族は魂を視る力があるんだ。だから、君の体にもう一つ魂があるというのが分かった。ちなみに、セフィラム能力とは違うよ、あくまで特異体質」
その感じだと、魂自体に干渉することはできないらしい。そして俺は最後に聞いた。
一兎「鏡、お前の目的は、アリサ・・・いや、花倉有栖を死なせないこと・・・そうだろ?しかし、アリサの持っている百鬼の勾玉が世界を滅ぼすかもしれないと思ったお前は、有栖にも危険が及ぶと思い、彼女を守るための協力者を探している。そうだろ?」
俺の話に鏡はうなずき、
深夜「その通りだよ、一兎。それこそが僕の【秘密】だよ」
鏡深夜かがみしんやの【秘密】
彼は花倉有栖を大切に想っている。彼女が所持している【魔道具】百鬼の勾玉が世界の破滅の原因かもしれないと考えている。彼の目的は、花倉有栖を守ること。
深夜「それで?一兎はもし、有栖が世界の破滅の原因なら、殺すかい?」
鏡が聞いてきた。いや、深夜がそう聞いてきた。
一兎「何いってんだ?俺が罪なき人を殺すような奴に見えるのか?それに、鏡、いや、深夜、お前と俺は、友達だろ?友達なら、お願いの一つや二つくらいは聞くっての」
俺は、笑顔を見せた。すると、深夜も笑い、
深夜「そうだね、僕たち、友達だもんね。じゃあ、僕と一緒に、有栖を守ってくれ。そしていつか有栖の記憶が目を覚ますのを待ってくれないか?あいつが目を覚ましたら、改めて一兎を紹介したい。僕の最高の友達だってね。いいだろ?」
深夜は俺に手を差し出した。俺はその手を取り、握手をする。
一兎「ああ、約束するよ。絶対に最善の方法で世界を救うと」
この日、俺たちは強い絆で結ばれた。

-TERU`SVIEW-
私は、天野照あまのてる天照大神あまてらすおおみのかみ様の使いだ。今、私はとあることを調べている。妖怪、魅守零司みかみれいじ のことだ。彼の目的は恐ろしい。それこそ、世界の破滅を起こしかねないことだ。だが、世界の破滅の原因ではない。そして、もう一つ気になること、それは、
照「やっぱり、魅守一狼みかみいちろうは炎の妖怪じゃなかったんですね」
そう、魅守一兎みかみいちと と魅守零司の父親、魅守一狼のことだ。彼と私は以前戦ったが、その時は炎属性の妖術を使っていた覚えがない。それが気になった私は、天照大神様に魅守一狼の使える妖術を聞いた。するとやはり、炎ではなく、氷属性だった。ならばどうやって炎属性を教えたのか。そして、どうして氷属性を教えなかったのか。
照「何か裏がある?もしかすると、世界の破滅のことを知っていた魅守霊みかみれいが何かをしたんでしょうか?」
私は思わず口に出してしまった。魅守霊は、その能力のおかげで、世界の破滅を予知していた。だが、魅守霊は死んだ。その死すらも想定内だったとすれば?
私がなぜあの時、魅守一兎を素直に見逃したのか、魅守霊に負けたというのも一つの要因だが、一番の理由は、殺してはいけないような気がしたからだ。魅守霊の能力は未来を視ることができるが、本命はそれではないはず。そのため、純粋な未来予知より精度が低い。そんな遠くの未来は視えない。なのになぜ世界の破滅を知っている?
照「魂を司る能力・・・司るの意味は、『支配する。管理下に置く。』か」
私は国語辞典を引き、それっぽい意味を調べた。魂を支配したりする。管理下に置く。時の概念がない魂を従えるのが彼女の能力だろう。そしてその魂を利用して身体能力とか、様々なものを設定していた。
照「ん?設定する?似たような能力があったような・・・・・・まさか!」
『自身と自身の触れている物の設定をいじる能力』
これは魅守一兎の能力だ。そしてこの能力には裏の顔がある。
『虚像を生み出し、操る能力』
私は、虚像の意味を国語辞典で調べた。
照「えっと、『物体から出た光線が鏡・レンズなどによって発散させられるとき、その発散光線によって、実際に物体があるように結ばれる像。』実体があるわけじゃない。ならなぜそれで攻撃が・・・?あれ?もう一つ意味がありますね。えっと、『実際とは異なる、作られたイメージ。』ですか」
これを踏まえて、もう一度彼の能力を考えてみる。
彼はこの能力を使って斬撃を飛ばしている。その斬撃は数も自由に増やすことができ、大きさも変えられる。
そして、虚像には『実際とは異なる、作られたイメージ。』という意味もある。それを生み出し、操っていると考えると・・・
照「虚像の虚像を生み出している。ということになりますね。そしてそれができるのは、魅守一兎と、その体に宿っている魅守霊の二人」
実際とは異なる、作られたイメージの虚像を生み出す能力。確か能力の名前は、『無影虚像ラストフィクサー』だったはず。
無影は、影のないこと。光のないこと。を意味する。そしてフィクサーは、仲介者や調停者という意味がある。類義語として、黒幕という言葉もあるが。そこまで考えて、一つの結論にたどり着く。
照「終焉回路ラストシステム は魅守霊の能力だと仮定して、無影虚像は反転した能力ではなく、魅守霊の能力を仲介するために作られたイメージ。本来は存在しない能力とする。能力を能力が仲介しているのですが、何を仲介しているのでしょう。もしかすると、あの二つとはまた別の能力を仲介しているのでは?」