第十一話 生贄が創った架空の平和

一兎いちと「ふわぁあ。あ、やべ、居眠りしてた」
俺としたことが授業中に寝ていたようだ。おそらく今は昼休み・・・のはず。すると横から
深夜しんや「まったく。授業中に寝るとは、感心したよ」
かがみが話しかけてきた。
一兎「俺が居眠りしていたことに関してどこに感心できるところがあったのか十五文字以内でまとめてくれ。あ、漢字は使ってくれていいから」
深夜「授業中に堂々と寝る大胆なところ、だね」
しっかり十五文字でまとめやがった。これだから学年主席は。
一兎「んで?なんの用だ?今は昼休みだろ?・・・多分」
深夜「うん、昼休み終了まであと少しだね。予鈴が鳴るまであと一分といったところかな」
終わった。俺は昼休み前の授業からずっと寝ていたので、昼食をとっていない。
一兎「まあ、たまには一日二食でも大丈夫だろ・・・多分」
俺がそんなことをつぶやくと、鏡は、
深夜「やっぱり、昨日のことが気になって授業をまともに受ける気がなかったのかい?いや、それなら寝ることもできなさそうなものだけど・・・」
と言われたので、俺は、
一兎「俺は三大欲求のうちで睡眠欲が人よりも強いんだ。仕方ないだろ」
冗談を言うようにそう言ってやったが、鏡は真剣な顔を崩すこともなく。
深夜「三大欲求のことはどうでもいいんだけどね。一兎はあの後どんなことを考えたのか、教えてくれないか?」
と、マジトーンで返された。ちなみになぜ鏡が昨日のことを知っているような口ぶりでいるのかは簡単な話で、あの後でなぜかてる に見逃された俺たちは屋敷に帰って、あの時起こったことをみんなに報告したからだ。ついでに言っておくと、歌恋かれん は帰った後で身体検査を受け、体に異常がないか調べた。まあ、当然、異常しかなかったわけだが。そして歌恋は家には帰らず。しばらく園上邸そのがみてい に泊まることとなった。これは本人の希望だ。
一兎「そんなマジトーンで返すなよ。反応に困るだろ。・・・まあ、昨日考えた結果としては死にたくないってのが正直な気持ちかな。だって、俺は何にも悪いことしてないじゃん。勝手に力を与えられただけだし、勝手に捨て駒にされただけだし、俺に自己決定権はないのかって話だよ。憲法が俺を守ってくれないのはおかしいと思わないか?」
深夜「神様相手に憲法が通じるわけないじゃん・・・」
鏡がそう言った後で俺は重大なことに気づく。周りに人が誰もいないということに・・・
一兎「え?誰もいなくね?え?神隠し?俺がいない間にそんなオカルトじみたことが起きてんの?」
俺がゆきですら驚くような絶対命中のブーメランを投げると、鏡はあきれたような顔をして、
深夜「今更気づいたのか・・・昼休みって言ったのは嘘だよ。もう下校時間」
終わった。いや、もはやそれを通り越して死んだ。
一兎「嘘だろ・・・誰か起こしてくれてもよかったじゃん!ひっど!俺ってそんなに嫌われてんの?」
俺がギャーギャー騒いでいると、
深夜「まあ、一兎が嫌われているのかどうかは置いといて」
一兎「いや置いておくなよ」
深夜「一兎にちょっと話しておきたいことがあるんだ。今から僕の家に来てくれるかい?」
俺のツッコミをスルーしてそう言ってきた。その顔を見るにだいぶまじめな話のようだ。

・・・そして鏡の家に着いた。
外観はシンプルな見た目の一軒家で、園上邸のように大きいわけでもないが、小さいとも言いづらい。
一兎「鏡って一人暮らしだっけ?」
深夜「そうだけど?」
一人暮らしで一軒家は広すぎないか?と考えながらその家へ入った。
深夜「まあ、適当な感じでくつろいでいてくれていいよ」
そういわれたので遠慮なく座らせてもらった。
一兎「で?話ってなんだ?」
俺が早速本題に入ろうとすると、鏡は、
深夜「僕が話しておきたいのは、この世界の破滅のことだ。正直に言えば、僕は心当たりがある」
こう考えるのは失礼かもしれないが、思っていたより重大な話だった。もちろん俺はその話題に食いつく。
一兎「なんなんだ?それは」
深夜「最悪最強の【魔道具プライズ百鬼ひゃっき勾玉まがたま 。そいつが原因だと僕は考察している」
百鬼の勾玉、初めて聞く名前だった。【魔道具】ということは、俺のエラーブレードと同等以上の力を持つということになるが、世界を破滅させるほどとなるとエラーブレードよりも凶悪そうだ。俺がそんなことを考えている間にも鏡は話を続けた。
深夜「百鬼の勾玉というのは、大昔、陰陽師と呼ばれる人たちが大量の妖怪を封じ込めたものだ。百鬼というくらいだから百体の妖怪だと勘違いしてしまうかもしれないが、封じられている妖怪は五万といる。名前の由来は別のところにあって、百人もの人を人柱にして生み出したといわれているからだ」
人柱、ということは百人の命を使って大量の妖怪を封じたということか・・・
一兎「で、でもなんでそんなものが世界の破滅と関係あると断言できるんだ?」
俺が鏡にそうやって聞くと、
深夜「一兎、なんで昨日その、照さん、だったっけ?その人がわざわざ最初の世界破滅の予言とそれを回避したということを話したんだと思う?まあ、僕はその時その場にいなかったからその照さんとかいう人の話を直接は聞いてないわけだけど、一兎が捨て駒として強くされているっていうのを説明するのに必要なことだったの?」
言われてみればそうだ。俺が世界の破滅を回避するための捨て駒だということを説明するだけなら、その前にあった世界破滅の予言と回避。もっと言えば妖怪とセフィラム能力のルーツを話す必要はないはずだ。それでも話したということは、そこに答えが。たしか、一回目の破滅の原因は妖怪だったはず。ここまで考察したところで、俺は一つの結論を導き出す。
一兎「一回目の世界の破滅の回避のために、百鬼の勾玉が創られ、それが今回の世界の破滅の原因になっている・・・ということか?」
俺がそう聞くと、鏡は軽くうなずき、こう言った。
深夜「その通りだよ。百鬼の勾玉には無数の妖怪の魂と、百人の人間の魂が宿っている。人柱にされた人の中には、嫌がる人もいたそうだ。その結果、強すぎる力が宿ってしまった。その勾玉はとある祠に祀られていたんだが、その祠が昨年、台風のせいで倒れた木によって壊れた」
ん?待てよ。こいつなんでそんなこと知ってんの?
一兎「鏡、お前、なんでそんなに百鬼の勾玉について詳しいの?」
俺がそうやって聞くと、鏡は顔色一つ変えずに、
深夜「僕は、百鬼の勾玉を祀った一族の子孫だからね。今も百鬼の勾玉を守る役目を担っている。ちなみに、それはアリサも同じだった」
意外な事実。だが、これで俺が今まで抱いていた謎が解けた。
一兎「なあ、鏡。その祠が壊れた後で様子を見に行ったんじゃないか?記憶を失う前のアリサと一緒に」
俺がそう問うと、鏡は黙り込んだ。どうやら図星だったようだ。俺はそれでも話を続ける。
一兎「そして、壊れた祠の中にあった百鬼の勾玉にアリサが触れた。違うか?そしてそれがアリサの体の中に取り込まれた。そうだろ?アリサは誘拐のショックが理由で記憶を失ったんじゃない。百鬼の勾玉の中にある無数の魂に触れ、その奔流の中に飲まれ、記憶を失った。これが真実だ」
俺はここまで探偵のようにかっこよく言ったが、お母さんにちょっと教えてもらった部分がある。聞いたのは、無数の魂、それも残骸じゃなくちゃんとした魂に触れたらどうなるのかを聞いただけだ。その結果はさっき言ったとおりだ。そこまで言うと、鏡は、ようやく口を開き、
深夜「よくそこまで考察したね。でも一人で考察したわけじゃないんだろ?君の体の中にいる人の助言のおかげかい?」
俺は、歌恋と月夜見つくよみ さんにはお母さんのことを口止めしている。あの二人が俺の約束を破るはずがない。なのにあいつは俺の中にあるもう一つの魂の存在に気付いている。無駄かもしれないが、スルーしておこう。
一兎「アリサの能力は、百鬼の勾玉による力・・・だろ?以前、お前が『アレ』と言っていたのは百鬼の勾玉のことだろ。あと、今気づいたんだが、アリサの名前、花咲はなさき アリサっていうのは正しい名前じゃないよな。それなら戸籍上に名前がないのも納得できる。多分、百鬼の勾玉に宿っていた人の名前が混じったんだろうな」
俺が考察したことを鏡に言う。すると、
深夜「はあ、僕が説明する前に全部言われちゃったな。さすが魅守みかみ親子。これ以上は教えるつもりはなかったけど、いいよ。教えてあげる。花咲アリサの・・・いや、花倉有栖 はなくらありすの真実を」