第十話 霊鳥と猪

私、魅守霊みかみれいは、目の前にいる女性、天野照あまのてる と対峙していた。私たちは一度、戦ったことがある。もちろん、私の勝利だったけど。そうしてにらみ合っていると、彼女が、
照「まさか、まだ現世にしがみついているとは思いませんでしたが、貴女に返さないといけない借りがあったので、今ここで返させていただきます。はああああああ!」
彼女が私に槍で突進してくる。恐ろしいほど速い・・・が
霊「その攻撃をしてくることくらい、識ってるんだけどね。もちろん、次の攻撃も」
私は能力で未来を見た。次の攻撃は空から炎の雨を降らせる攻撃だ。どこに落ちてくるかも識っている。
照「くっ、ふざけるな!これでもくらえ!」
やはり未来予知に狂いはなかった。炎の雨が降ってきたが、それはもう識っていたので私は軽々とそれをかわす。
霊「今回も、私の勝ちだね。あなたの攻撃は私には届かない。そもそも、自分の能力をうまく扱えてない時点で私に勝つことなんて無理だったんだよ。あと、一兎の体だからって私が体をうまく扱えないとか思ってたかもしれないけど、私の能力を見くびらないでほしいな」
私の能力で、今この体はここら辺を漂っていた魂の残骸をまとっている。そのおかげで重かった体は軽くなり、生前の私の身体能力が再現されている。正直、終焉回路ラストプログラム よりも精度がいい。魂を私の力に変換することこそが私の能力の真髄。魂を司る能力はすべての事象や理論、理などという概念はない。
霊「さてと、もう終わらせるよ。エラーブレード!」
エラーブレードの名前を叫ぶ。すると、私の手に握られていたエラーブレードが白い光を放つ。これは、魂と神力の奔流だ。生命の力をまとった剣は、ありとあらゆる理不尽を打ち砕く。
霊「正統なる所有者である我に力を与えよ!バニッシュメント・ラスト!」
そして、私が剣を振り下ろすと、光は大きな斬撃となり前方へ飛んで行った。
照「うわああああああああ!」
高速移動で逃げようとしていた照ちゃんだが、魂の前では時間などあってないようなもの。時間の操作ができずに直撃した。
照「私の、能力が・・・」
彼女の能力は、時間の圧縮。そのせいで直線的な攻撃しかできない。時間の圧縮は、自身にかけられているが、その脳までは圧縮できないらしい。なので、彼女だけは周りが遅くなっているように感じるなんてことはない。だから速すぎる体の動きに脳がついて行ってないということだろう。
霊「じゃあ、私は戻るから、またね」
そして私は一兎に体を返したのだった。

-ICHITO`SVIEW-
そして再び俺は目覚める。そしてすぐさま
一兎いちと「それで?天野照だったか?なんで俺を殺そうとした?」
お母さんが脳内でいろいろ説明してくれたので、こいつの正体は大体わかっている。お母さんいわく、この女は、天照大神あまてらすおおみのかみ の使いの者らしい。そもそも神が実在していること自体に驚きだが、一般的には伝承とされている妖怪がここに存在しているので、ありえない話ではない。
一兎「ある程度の情報はお母さんが教えてくれたが、俺を狙ったことに関しては一切教えてくれなかったから教えてくれないか?」
俺がそう聞くと、お母さんのせいでボロボロになった天野照は苦虫を噛み潰したような顔をして口を開いた。
照「私は、天照大神様に忠誠を誓った、いわば神の使者のような存在。そしてそれはそこにいる男も似たような存在です」
そう言って彼女は月夜見つくよみさんを指さす。
一兎「え・・・」
歌恋かれん「え・・・」
素直に話してくれたことにも驚きだが、月夜見さんが神の使者だということが一番の驚きだ。だが、それはそれで納得できることがある。
一兎「まさかとは思うけど、月夜見さんって月読尊つくよみのみことの使者?」
半分冗談で言った。つくよみっていう読み仮名の名前で神の使者だなんていわれたらなんとなくそう思えてしまうからだ。今気づいたけど、多分天野照って名前も天照大神を意識しているんじゃ・・・
龍時りゅうじ「一兎の言う通りだ。俺は月読尊様の使いだ」
俺の聞いたことを肯定した月夜見さんだった。そして照が、
照「この世界にある神話の神たちは実在します。もちろん、天使や悪魔も。そして大昔、世界中の神々や天使たちが集まりました。複数の未来予知ができる神々がこの世界の破滅を予知したのです。それは妖怪が世界を滅ぼすというものです。そもそも妖怪は、神が持つ強大な力があふれ出てそれが世界を漂う魂にたまたま触れることで生まれます。そうして生まれた妖怪はほかの生物と同じように、子孫を作る。まあ、作らない妖怪が大多数ですが。なので、基本的にはこの世界の妖怪は自然発生しています。ここまでは理解できましたか?そちらの女の半妖はもうすでに理解が追い付いていないようですが」
そう言われて歌恋のほうを見ると、照に指摘された通り追い付いていない様子だった。ていうか頭から湯気が出てそうなくらい難しい顔をしている。パンク寸前どころか爆発寸前のようだ。でも俺は、
一兎「続けてくれ」
この話の続きがめちゃくちゃ気になった。歌恋には悪いが、続けてもらおう。
照「なら続けますけど。妖怪が神々の排泄物のような存在である以上、その存在をなくすのは不可能。そもそも、神や天使は現世に直接干渉はできない。そこで、とある天使は一計を投じた。人間にもそれなりに力を与え、妖怪に対抗できる力を与えようと考えた。それが、天使たちに与えられた力、のちにセフィラム能力と呼ばれるようになった力です。その力を最初に手にしたのは、陰陽師と呼ばれる人々でした。その力を怯えた妖怪はこの時代以降はあまり姿を現さなくなりました。その時はそれでよかったのですが。また世界の破滅が予知されました。今度は、何者かが世界を破滅させるということだけがわかった。でも、世界を破滅させるだけの力を持つものにどう対抗すればいいのか、神々が相談を始めました。そして、天照大神様はとある一計を投じました」
歌恋はもう、死んでるような感じになっていたが、照はそれに構わず続けた。まあ、俺も気になるので止めないんだけど。
照「その一計とは、一人に強大な力を持たせる。でも、そんな力を持たせてしまえば、世界の均衡が崩れてしまいかねない。だから、捨て駒にするという形をとった。それに反対したのが月読尊とミカエルという天使だった。その二人のせいで捨て駒になるはずの少年は、想定よりも強い力を、早く手に入れてしまった。それが、魅守一兎 みかみいちと 、あなたです」
一兎「え・・・俺?」
思わず声が裏返ってしまった。すると月夜見さんが
龍時「俺は、一兎が死なないくらい強くなるまで一兎を鍛えろと命じられていたからな」
それはありがたいことだが、照のほうはそうは思わなかったみたいで、
照「想定より力をつけられては困るということで私があなたを殺すように言われました。まさかあなたの母親がまだ現世にしがみついているというのは想定外でしたが・・・」
こいつとお母さんの関係が気になる。なので俺は、
一兎「お前とお母さんはどんな関係なんだ?」
と聞いた。すると照は
照「私が昔とある妖怪を退治しようとしたときに止められた。それだけですよ。もっとも、その妖怪はあなたの父親ですが」
うわ、この人?は俺たち家族全員と対峙してたのか。いや、正確には今回俺が対峙したわけじゃないけど。
照「魅守一兎、あなたに一つ聞きたいことがあります」
照は俺に向かって聞いてきた。俺は首を軽くかしげながら、
一兎「なんだ?」
俺がそういうと照は、
照「あなたは、神に世界のために死ねと言われたら、死にますか?」