第八話 帰る場所

俺の背中に、赤いマントが現れる。そのマントは、高原を吹き抜ける風になびいて揺れている。
一兎いちと「さあ、次の演目を、始めようか・・・」
するとお母さんの声が聞こえる。
れい『一兎、今歌恋かれんちゃんは零司れいじ に洗脳されてる状態だよ。だから私の能力で洗脳されている部分を攻撃する。そのためにはまず歌恋ちゃんにダメージを与えて抵抗力を下げる必要がある。もしくは精神的な揺さぶりをかけて心に隙を作る。そしたら歌恋ちゃんにとびっきりの攻撃をして。タイミングは一兎に任せるから、頑張って!』
一兎『うん、分かった』
俺は心の中でお母さんに返事をした後で歌恋に向かって走り出す。その手には、神剣ではなくエラーブレードが握られていた。
歌恋「くっ、妖術ようじゅつ幕引まくびき、光臨希望こうりんきぼう!」
歌恋が複数の光の波動を俺に放つ、この攻撃を受けたら五体満足で帰ることは無理だろう。だが、
一兎「妖術ようじゅつ第弐幕だいにまく不知火しらぬい!」
俺の周りが燃え上がる。そんなもので歌恋の攻撃が防げるはずもなく、炎ごと破壊される。
歌恋「え?いない・・・」
そう、攻撃が当たった場所には俺の体の一部すらないのだ。不知火は自身の周りを燃やすだけの技だ。つまりあの炎はただのブラフで本命は他にある。
一兎「よそ見は禁物だぜ!妖術ようじゅつ第参幕だいさんまく業火ノ一太刀ごうかのひとたち!」
炎で自身の姿を一瞬隠し、攻撃を受ける前に歌恋の後ろへ回り込む。歌恋は炎の中に俺がいると思い込んでいるため、俺に回り込まれていることに気が付かない。そのため、攻撃を回避できない。
歌恋「うぐっ!ああああ、妖術ようじゅつ第伍幕だいごまく逆境超越ぎゃっきょうちょうえつ!」
そしてあの妖術を使った。逆境超越は消費が激しいが、全回復&能力強化がある。でも、今の俺には敵わない。
一兎「この秘守術の力を見せてやるよ!」
決意正義ノ魂けついせいぎのたましいは全能力の限界突破&成長速度二倍。無双神秘ノ華むそうしんぴのはな は宝石の花びらを生み出し、それを使って防御や攻撃をする。虚無破滅ノ影きょむはめつのかげ は影を自由に操り、影縫いや影の中を移動、影を生成し、実体のない物質を作るということができる。この三つが合わさった秘守術が千変万化ノ結せんぺんばんかのむすび だ。この能力はあの三つの特性を同時に使用することができる。だから、さっき不知火で姿を消した時も影の中を移動して歌恋の影から出てきたというわけだ。そして、
一兎「穿て!輝く花弁よ!」
そして宝石の花びらが歌恋へ向かって飛ぶ。そして俺は影の中に隠れる。
歌恋「え?どこに行ったの!?」
歌恋は宝石の花びらを退けることはできたが、俺の姿を見失う。
一兎「影縫い、次で決めさせてもらうぞ・・・」
歌恋「しまった・・・!」
歌恋の動きを封じる。だが、
?「そんなことを許すと思うか?」
何者かが現れる。そして、
一兎「くっ、防がれたか」
俺の攻撃を防がれた。そいつの正体は、
零司「まったく、こんな時に力を覚醒させるとは、面倒な弟だな」
兄さんだった。
一兎「相手が兄さんでも容赦しないぞ。妖術・・・」
俺は技を撃つ構えを取る。
零司「ほう、俺に勝てるとでも?妖術ようじゅつ第弐幕だいにまく・・・」
兄さんの両手に巨大な爪が現れる。
一兎「ぜん幕引きぜんまくびき一兎玖錬いちときゅうれん!」
零司「瞬殺の爪!」
兄さんの妖術は死属性。俺より妖怪としての遺伝子を多く受け継いだため、誰に教わるでもなく力を使えるようになった。死属性はその攻撃がどれも即死レベルの強さ。俺もまともに受けることはできないため、兄さんの攻撃全てを一兎玖錬で相殺しているのだ。しかし、
一兎「クッソ!」
俺はそのうちの一撃をくらってしまった。死ぬというほどの深い傷ではないが、少々厳しい。すると、
零司「なんだと!?」
龍時「一兎!俺が時間を稼ぐから、今のうちに歌恋を!」
月夜見さんがいつの間にか、兄さんに一撃を与えていた。そして、その隙を逃さないよう、エラーブレードをしっかりと握り、歌恋のもとへ向かった。俺は兄さんに集中していたため、影縫いを持続させることはできていなかった。なので、歌恋もこちらの攻撃を受けようとして光の剣を構える。
一兎「歌恋!」
歌恋「イチ兄!」
そして俺たちは真正面からぶつかり合い、鍔迫り合いになる。
一兎「どうして、どうしてお前がそんな風になったかなんて、俺には分からない。でも、どうして俺を頼らなかった!どうして一人で抱え込んだ!」
俺は、俺の気持ちを全力でぶつける。
歌恋「・・・」
一兎「ふざけんなよ!俺には散々死ぬなとか言ってたくせに、自分のことはどうでもいいってか?それは自分勝手が過ぎるってもんだろ!俺はそんなお前を認めない!」
ただ叫んでるだけのような気もするが、この言葉に嘘はない。
一兎「泣いたっていい。逃げたっていい。でも、一人で抱え込んで一人で消えるのはやめろ!俺は、俺たちは、お前の仲間で、家族だ!」
俺がそう言うと、
歌恋「ぅ・・・さい」
一兎「あ?」
歌恋「うるさいうるさいうるさい!何でも分かったようなことを言って!結局イチ兄だって私のことを理解してない!誰も私の味方になんてなってくれないんだ!」
歌恋が俺に向かって大声で叫ぶ。
一兎「か、歌恋・・・」
歌恋「うるさい!妖術ようじゅつ第拾幕だいじゅうまく最後さいご審判しんぱん !」
歌恋の持っている剣が巨大化し、俺を押しつぶす。しかし、
一兎「・・・バーンフェーズ」
歌恋「え?」
俺は歌恋の光の剣ごと吸収した。バーンフェーズ、今まであまり掘り下げてこなかったが、この技は妖力を体の周りに循環させ、そこに妖術を流し込むことで発動する。つまり、妖術を流すための回路を無理やり作っているのだ。俺が長い間修業をして身に着けた努力の結晶だ。今回は、炎をまとうことなく発動させ、歌恋の妖術を吸収した。今までなら他人の妖術なんて吸収しようとすると体がもたないが、俺が急速的に強くなったのと、歌恋がまだ妖怪の力を手に入れて間もないため、まだ妖術の出力が安定してないという奇跡が重なったおかげで、ギリギリ吸収することができた。
一兎「それでも俺は、お前を助ける。だって俺たちはお前の、歌恋の帰る場所だから」
俺は精一杯の笑顔を浮かべた。そして、
一兎『お母さん、次の攻撃で決める』
霊『わかった』
お母さんに合図をして
一兎「歌恋、一緒に帰ろう。妖術、無影虚像ラストフィクサー
歌恋から吸収した光属性の妖術を無影虚像に付与して歌恋に放つ。しかし、殺傷能力はない、攻撃するのは、歌恋の精神だ。精神を攻撃すると言っても、洗脳されて閉じられてしまった部分だけだ。お母さんの能力のおかげでそんなこともできた。そして、歌恋は力なく倒れた。