第六話 月

一兎「兄さん?」
俺は、歌恋かれんをかばった奴の顔を見ると、すぐにその正体に気づいた。
魅守零司みかみれいじ、俺の実の兄で、俺たちの両親が殺された日以降、その姿を俺の前に見せたことはない。
零司「一兎、久しぶりだな。あの頃よりは大人っぽくなったな。だが、まだ俺よりは子どもだな」
そうだ、兄さんは俺のことをよく子ども扱いにして馬鹿にしてきた。その様子はあの頃と全く変わっていない。
龍時りゅうじ「なんだよ、お前の兄貴。強すぎないか?」
すると月夜見つくよみさんが俺に話しかけてきた。おそらくあの一瞬である程度の力量は察したのだろう。だが、兄さんにはとっておきの力がある。こんなのはまだ序の口だ。
一兎「くそ、今回ばかりは撤退したほうがよさそうだ」
ゆき「そうだな、あんなのに勝てる自信がしないよ」
深夜しんや「うん、その意見には賛成だ」
龍時「俺も刀が折れたし、このまま戦闘続行は難しいだろう」
俺が提案をするとみんなはその意見に賛成してくれた。あとはどうやって逃げたらいいのか、そんなことを考えていると、兄さんが俺たちに話しかけてきた。
零司「お前たちが撤退をするというのなら止めないさ、こちらも、一兎のせいで歌恋も戦闘を続けるのは難しい。まだこいつには俺のもとで頑張ってもらわないといけないしな」
そう言うと、兄さんと歌恋の姿は空気のように消えていった。
ただ、それだけだった。

・・・次の日
俺と月夜見さんは、富山とやまさんのところへ向かった。新しい神剣が使えるようになったという報告と、月夜見さんの刀の製作依頼をするためだ。
一兎「すみません!富山さ~ん!」
俺がそう呼ぶと、富山さんが扉を開けてくれた。
草刃そうじん「ああ、一兎と、龍時か、まあ、入ってくれ」
いつもよりテンションが低い富山さんが俺たちを入れてくれた。
草刃「で?今日はどんな用できたんだ?」
一兎「ああ、実は・・・」
そして俺は二振り目の神剣しんけん遡月さかづき を使えるようになったこと、そして、月夜見さんの刀が折れたから新しい刀が欲しいということ、そして、月夜見さんの刀が折れるまでの経緯を事細かに説明した。
草刃「そうか、なるほどな。にしても歌恋の裏切りに一兎の兄か。本当に厄介なことになったな。俺はロイヤル・カーズの動きには全く注目していなかったからなぁ。知らない間にすごいことになってるんだな」
龍時「ロイヤル・カーズの動き『には』?ということは他の奴の動きには注目していたということですか?」
富山さんが俺の説明について感想を言うと月夜見さんが気になったことを富山さんに聞いた。
草刃「まあ、な。一言で言えば規制派の連中だ。もっとも、俺は佐々木盗真ささきとうまの事しか注目してないがな」
富山さんはそう言うと、立ち上がり、別の部屋へ行ってしまった。と思ったのも束の間、富山さんは細長い木の箱を持って戻ってきた。
草刃「龍時、この刀を使ってみろ。一兎の神剣や、エラーブレードほどではないが、かなり強力で、凶悪な刀だ。正直、この刀が完成した時、俺の才能が恐ろしく感じたからな」
富山さんは、おそらく、なんで佐々木盗真のことを探っていたのか、その理由を聞かれたくなかったから、刀を持ってきて、刀の話に変えたのだろう。なら、あまり追及することではないな。
龍時「その刀はどういった刀なんですか?」
と、月夜見さんがその話に食いつく。
草刃「ああ、この刀はな、絶対に折れない刀だ。刃こぼれすらできやしない。そして何より切れ味もいい。まあ、これは数々の妖刀と呼ばれた刀に関しての文書を読み漁り、自分で材料の調達もして、かれこれ三年間。本当に時間が掛かった。妖刀を作るとなると、玉鋼も通常のものでは作ることができない。そもそも、玉鋼が日本刀を作るうえで最も最適だと言われているが、もっと良質なものを発見することで普通の刀よりも恐ろしい力を発揮できるのではないかと考え、ついに最高の素材を見つけたんだよ。まあ、ここからは企業秘密ってことで、そんな刀につけた銘は『妖刀 月光』だ。こんな感じでこの刀の説明は終わりかな」
と、富山さんが説明を終えると、刀を月夜見さんに渡した。
草刃「俺の最高傑作だ。お前のような現代の剣豪に使ってほしい」
龍時「俺が使っていいんですか?だって、とても長い時間が掛かったのでしょう?そんなものを・・・」
月夜見さんが富山さんに聞くと富山さんは軽く笑って、
草刃「この刀を作ったのは、単純に暇だったからっていうのと、刀鍛冶としての探求心があったからだ。この刀をどこの馬の骨ともわからないやつに使わせるよりお前みたいに強くて、誰かのために世界のために正義を貫く剣士に使ってもらうほうのが、俺のような刀鍛冶としてはうれしい。だから、もらってくれ。それこそが俺の願いだ。それでも受け取ってくれないというならそこら辺の失敗作を持っていかせるぞ」
富山さんの熱い思いを聞いた月夜見さんは強く頷き、
龍時「はい。わかりました。ありがたく使わせてもらいます!」
そうして、『妖刀月光』は月夜見さんの手に渡った。
その後、園上邸そのがみてい に帰る道中で、その刀は猛威を振るうことになる。どういうことかというと、簡単に言えば奇襲だ。俺たちが大きな山の麓にある高原の近くを歩いていると、突然、光の波動が俺たちを襲った。

一兎「なんだ?急に!」
龍時「奇襲か?」
俺たちはその攻撃をほぼ感覚で避けた。今のは明らかに光属性の妖術だ。ということは・・・
歌恋「二人ともさすがだね。完全に不意を突いたと思ったんだけど・・・」
やはり歌恋が居た。その後ろには取り巻きのような連中が三十人ほどいる。数が多い。こうして二人対約三十人の戦いは大きな山の麓にある高原で幕を開けた。
一兎「歌恋、ここで決着をつける気なのか?」
龍時「さあな。だが、前回四人でやっとだったのに、二人でどうにかできるのか?応援を呼ぼうにもそんな余裕を与えてくれそうにないしなっ!」
俺たちは三十人もいる敵たちと戦う、横目で月夜見さんを見ると、先ほど手に入れた『妖刀 月光』が相手の武器を次々と破壊していくのが見えた。これが富山さんの最高傑作。その攻撃力は月夜見さんの速さでさらに上乗せされている。もともと使っていて折れていない刀と合わせて二刀流で戦っているが、高速移動の能力の恩恵と富山さんの想いが込められた刀が向かってくる敵を簡単に退ける。
龍時「一兎!お前は歌恋の方へ行け!こいつらは俺一人で十分だ!それに、あいつを止められるのは俺じゃない。一兎!お前だ!お前の『想い』をぶつけてこい!」
月夜見さんが俺にそう言った。だから俺は、
一兎「はい!わかりました!」
そして俺は二振りの神剣を呼び出し、俺も二刀流で歌恋のもとへ向かう!
歌恋「妖術ようじゅつ第漆幕だいしちまく光刻こうこく聖剣せいけん 。さあ、イチ兄、かかってきなよ」
歌恋はまばゆい光を放つ剣を構え、俺に攻撃を仕掛ける。
一兎「秘守術ひかみじゅつ人ノ道じんのみち決意正義ノ魂けついせいぎのたましい!」
俺は黄金の大量のひもでできたマントを顕現させ、能力もフルで使う。
一兎「終焉回路ラストシステム絶対的超越アンパッサン。俺はお前を、いつもの歌恋を取り戻す!」
俺がそのまま歌恋に攻撃をするとその攻撃をいとも簡単に避ける。そして歌恋は
歌恋「私はとっくの昔から『怪物』だった。そんな私は、人間と一緒に幸せに暮らすことなんてできないだから!私は、私のまま生きるために人間を滅ぼす。だから、イチ兄は別に倒す必要はない。だから私たちの邪魔はしないでよ。私の歯止めが効くうちに。妖術 ようじゅつ 第弐幕だいにまく白昼夢はくちゅうむ
その妖術が発動した瞬間、俺の視界は真っ白になり・・・
一兎「ん?どこだ?ここは」
視界がクリアになったとき、俺は別の場所にいた。さっきまでの高原の景色とは全く違い、そこは樹海のようだった。俺は光属性の妖術をすべて把握しているわけじゃない。だから、今の妖術がどういったものなのか分からない。転移系の技か?俺が考えていると、
一兎「うそ、だろ・・・・・・」
俺の目にありえないはずの光景が映った。