一兎「仮面を外したぞ。さて、その顔を拝ませてもらおうか・・・なっ!?」
俺は、その仮面の下にある顔を見て、驚いた。だってその顔は、
一兎「鏡、深夜」
そう、俺のクラスメイトの鏡深夜だったからだ。
深夜「さすがだね、一兎。そう、君のクラスメイトの鏡深夜だよ。驚いた?」
鏡は、ふざけたように言う。
一兎「お前、能力者だったか?ていうか、学園の能力者リストに載ってなかっただろ」
能力者リストというのは、『銀狼』の人間なら見ることができる、藤ノ宮
学園にいるセフィラム能力者の情報が載っているものだ。学園に入学すると、セフィラム能力者かどうかの検査があるのだが、それをどうやってごまかしたのだろうか。
深夜「一兎が疑問に思うのも納得できる。だって僕は、セフィラム反応を一時的になくすことができるからね」
セフィラム反応をなくす?どういうことだ?セフィラム反応は、その人の体から発生している。ゲームでいうところの魔力に近いものだ。それはどう頑張っても隠せるものではないが。
深夜「僕の能力は、セフィラム反応がない人の状態をコピーできるんだ。つまり、無能力という能力をコピーしたんだよ。それができるとわかったときは驚いたね」
なるほど、鏡の能力はかなり強いようだ。
一兎「はあ、その能力何でもありだな」
深夜「それは君の能力も同じだけどね。表裏一体の能力、名付けるとしたら反転能力といったところかな。まさか僕の予想が的中するとは」
鏡が予想を立てていた?
一兎「おい、予想ってどういうことだよ。俺の能力がその、反転能力っていうやつだってわかってたのか?」
俺がそうやって聞くと鏡は
深夜「まあね。君の能力だけはなぜか完璧にコピーすることはできなかった。できても、次に見た時には僕のコピーした時の精度をはるかに超えていた。そう、無影虚像も。半妖
であるということを隠している以上、そっちの能力はあまり使っていないはずなのに、終焉回路
と同じくらいの精度だった。もしかしたら裏で特訓してたのかもしれないが、実戦経験が少ない能力と多い能力とでは技の精度に差が出るはずだ。だが、その差は見られなかった。その時、僕は思ったんだよ。半妖は、人間と妖怪、二つの面を持っている、いわば、コインの表とうらなんじゃないかって。なら、表と裏が変わるのと同じく能力も変わるのだとすれば、その能力もコインの表と裏なのだと。それなら、僕が感じた違和感も納得がいく」
と、鏡は科学者のように、自身の考察を述べた。
一兎「なるほどな、表裏一体だとするなら表だけが大きくなることはなく、裏も表と同じ大きさになる、そう考えたのか。まあ、俺も半妖という存在が人間と妖怪の表と裏の面を持ち合わせてるって気づいたからさっきみたいなことができたんだけどな」
そこで、俺は一つ気になったことを聞いてみた。
一兎「だが、鏡、お前はなんでそんなに俺のことを見ていたんだ?」
そう、この考察は、俺のことをよく観察しないとできないようなことだ。
深夜「うーん、まあ、君になら僕の秘密を教えてもいいかな。僕は、記憶を失う前の花咲さん、いや、アリサを知っている。もっと言えば幼馴染だ。そして、記憶を失うまでの経緯も知っている」
一兎「は?」
今日は驚くことがいっぱいあったが、これが一番驚いたと思う。
一兎「幼馴染?」
深夜「そうだよ。だから、アリサを守るっていうのが一番の目的だね。そのために君たちを追い、『銀狼』という組織のことも知った。あ、今言ったことは、今のアリサには内緒だよ。変に刺激してアレが暴走しても困るし」
鏡が言う『アレ』とは何なんだろう。
深夜「そもそも、アリサは無能力者だったんだよ。それがとある事件をきっかけに能力者となり、記憶を失ってしまった。一兎も疑問に思わなかったのかい?能力が使えてなかったということが」
鏡が言っているのは、能力者なら、能力の使い方を誰かに教わらなくても使えるはずなのに、なぜか使えなかった。ということだろう。別に、科学的に証明されたわけではないので、能力の使い方がわからないということがあってもおかしいわけではないんじゃないかなとは思ったのだが、まあ、そこは能力者の感覚だろうな。
深夜「彼女の能力は、そもそも彼女のものじゃないんだ。とある【魔道具】の能力なんだよ」
【魔道具】とは、俺のエラーブレードとか、三振りの神剣のような、神や天使、悪魔などの存在が作ったとされる道具だ。実際、その力は絶大だ。
深夜「まあその存在だけ知っておくといいさ。正体はまだ明かさない。今の会話だけですごい情報量だからね。処理するのに時間が掛かるだろう。それよりも、僕が『銀狼』に入ることを許してくれるかい?」
鏡は俺にそう尋ねた。
一兎「まあ、この誘拐未遂をした野郎共を連れて行ってから、上に掛け合ってみるよ。てか、園上邸の場所わかる?わかるなら幽さんの能力で連れて行ってほしいんだけど」
俺がそういうと、鏡は指をパチンと鳴らした。その瞬間俺たちは園上邸の前にいた。
深夜「ここだろ?園上邸って」
やっぱり一番のチート能力って鏡の能力じゃないの?
一兎「まあ、とりあえず、幽さんのところに行こうか」
そして俺たちは、幽さんのところへ行き、誘拐未遂のことと一緒に鏡が『銀狼』に入ってもいいらしいということを話した後で、アリサを迎えに行った。まあ、幽さんもアリサもすごく驚いていたけど。
-KAREN’SVIEW-
歌恋「いただきます」
私は今、家族でハワイに来ている。家族でってことはもちろん光汰
兄さんも一緒だ。外国ではセフィラム能力者があまりいない、もしかしたら能力者であることを隠しているだけかもしれないけど、分かっている数で言えば日本ほどの数じゃない。だから海外マフィアとかが日本に来て能力者をさらうなんてことが起きてるんだけどね。家族で旅行するときは必ず海外に行く。これは、能力者が嫌いな光汰兄さんが望んでいるからだ。旅行の時ぐらいは能力者とかいうゴミな存在を忘れていたいからという理由だが。
正蔵「お、この料理、おいしいな」
お父さんが感想を述べる。
光汰「フン、能力者が居なければもっとおいしかっただろうな」
光汰兄さんが私をにらみながら言う。
栞奈「こら、光汰、能力者のことを悪く言うのやめなさいといつも言っているでしょう」
常陸栞奈、私のお母さんが光汰兄さんを怒るが、
光汰「別に、俺は正しいことを言っただけだ。能力者のことを忘れたくて海外に来てるのに、能力者を連れてきたら本末転倒だろうが」
食事の場が一瞬にして険悪な空気に変わる。それが、常陸家の日常。私なんていなければよかったんじゃないかって思ってしまう。
光汰「お前なんて、神に殺されるべき存在だ。呪われた存在なんだ。さっさと死ねよ」
その言葉を聞いて、私の心は砕かれそうになった。最近では能力者であることが誇りに思えるようになったのに、その誇りを砕かれたら、もう私は
正蔵「いい加減にしろ!人に向かって死ねなどという言葉を使うな!」
お父さんがとうとう怒った。私が望めば、この旅行自体をなくせたが、それはしなかった。それは、光汰兄さんとの距離を縮めたいという気持ちがあったからだろう。でも、もう、無駄だね。
光汰「人?こんなものが人?ハッ、ハハハッ。こんなの、人の形をした怪物じゃないか。父さんも母さんも、怪物に優しくするなんて、狂ってるよ」
そのあとのことはあまり覚えてない。たぶん、お父さんとお母さんが光汰兄さんに説教でもしていたのかもしれないが、私は、周りのことが見えなくなっていた。私は怪物なんだと。そう思ってしまった。
私は、常陸歌恋という女は、もう人間という種族ではない。