第二話 不完全な回路

一兎いちと「全員まとめてかかってくるといいさ」
俺は、男たちに挑発するように言った。
男「フン、ガキが調子に乗ってるとどうなるか思い知らせてやる」
そう言って、三人が銃の引き金を引くが、
一兎「遅いな。銃弾が」
その行動を予測していた俺に当たるはずもなく、俺は一人の男の脇腹めがけて拳を振るう。
男「ぐあぁ」
その男は一瞬で気絶した。まだ二人残っている。俺は、すぐさまその二人を狙う。
一兎「さっさと終わらせてやろう」
そしてもう一人倒した。残りは一人。ん?一人?さっき静原しずはらさんをさらった集団の人数は、四人じゃなかったか?
一兎「グ、ガァァ、ァ」
俺がそのことを思い出した時にはもう遅かった。後ろから何かが注入されるのを感じる。
他の男「油断したな。お前は確かに強いが、暴走には耐えられないだろう」
そうか、暴走する薬か。どうする?このままだとやばい。俺がそう思っていた時だった。
?「終焉回路ラストプログラム
何者かが俺の体に触れる。いや、そんなことより、終焉回路!?
?「自分の能力を有効活用しなきゃダメでしょ」
一兎「誰だ?お前」
俺に声をかけてきた。俺と同じ能力を使った奴に聞いてみる。ちなみに、俺の体は元通り暴走する前の状態になっている。おそらく、こいつが設定してくれたのだろう。
?「そうだね、僕は君の敵ではないことは確かだよ」
そいつは、仮面をつけていて、顔は分からなかったが、俺は多分こいつのことを知っている。
?「まあ、本当は君に用事があったんだけどね、面白そうなことをしてるみたいだし、僕も参加しちゃおうかな。って思ってね」
そいつはふざけた感じで言った。
一兎「まあいい。手伝ってくれるというのなら、その好意に甘えせてもらおう」
俺たちは相手を倒し、全員捕まえた。相手はただの人間で、妖怪じゃない。そもそも能力者でもなかった。そんな奴が、半妖と能力者の二人を倒せるとは思えない。当然の結果だった。
一兎「協力してくれてありがとう。油断していたとはいえ、お前が居なかったら危なかったかもしれないな」
俺が感謝の言葉を伝えると、
?「礼にはおよばないさ、それよりも、僕の目的を話そうか」
一兎「目的?そういえばなんか言ってたな。で、なんなんだ?その目的とやらは」
こいつの目的、俺のピンチを救うことに何か意味があるのか?俺がそう考えながらそいつを見ると、
?「君たちは今、人員が欲しいんだよね。僕が君の組織に入りたいと言ったら、どうする?」
驚くことを言ってきた。俺たちの組織が今人手不足だということを知っているのか?
一兎「その申し出はありがたいが、その仮面を取ってくれるか?お前が何者か、そこはとても重要なところだからな」
俺がそう言うと、
?「そうか、なら、僕と戦って、この仮面を外せばいいじゃないか」
何言ってんだこいつ
一兎「いや、戦うってどういうことだ?なぜわざわざ戦う必要がある?」
俺がそうやって問うと、
?「今の君は自分のセフィラム能力を使いこなせていない、おそらく、妖術と秘守術ひかみじゅつ に依存した戦い方をしているんだろう。実際に、セフィラム能力だけで戦った結果、無能力者にも負けそうになっていた。それは、自身の能力を完全に使いこなしていないという証拠だ。正直な話、セフィラム能力だけで戦うなら、僕は君よりも強いという自信がある。だから、セフィラム能力だけで戦ってみないか?」
こいつ、俺のことをほとんど知っている?だが、こいつの言うとおりだ。先日の水無月透みなづきとおるとの戦いでも、俺は妖術と秘守術に依存して戦っていた。しん 血気開放けっきかいほうも妖術を応用した力だし、終焉回路、絶対的超越アンパッサン も、秘守術の力で覚醒させ、制御していた。一兎玖錬いちときゅうれん も、秘守術が無ければ誕生してなかっただろう。つまり俺は、セフィラム能力単体で戦い、強敵に勝つことはできないということだ。
一兎「そうだな、なら、その申し出を受け入れるとしよう」
?「そう来なくっちゃ。そうそう、言い忘れてたけど、妖力全開放ようりょくぜんかいほうもやったらだめだよ」
それもだめか。まあ、分かってはいたが。となると無影虚像ラストフィクサーも使えなくなるということか。
?「じゃあ、始めるよ」
あいつがそう言った瞬間に、俺は能力を発動する。すると、
?「妖術ようじゅつ第拾幕だいじゅうまく炎龍乱舞えんりゅうらんぶ!」
妖術を打ってきた。
一兎「は?セフィラム能力だけって言ったよな!」
俺がそう抗議すると、
?「ごめんね、僕の能力、『合わせ鏡の夜ミッドナイトミラー 』は自分が見たことのある技をまねできるんだ、だから、見稽古でもしておけば僕は強くなれるんだよね。だって、セフィラム能力がそういうやつだから」
なんというチート能力。
一兎「くそ、てことは秘守術も再現できるのか?」
?「いや?あれは魅守みかみ以外の人間は何をしても使えないようになっているみたいでね。僕は使えないよ」
まあ、それでも強いことに変わりないんだけどな。
一兎「まあいい、今度こそ、絶対的超越!」
セフィラム能力を極限まで引き出す。そして、演算を繰り返し、相手の行動を予測する。しかし、
?「予測される前に倒せばいいだけの話だよね」
背後から声がした。ゆうさんの能力か。
一兎「グハッ」
思いっきり殴られる。おそらく、俺の能力か、身体強化の能力者を真似たのか、だが今はそんなことを気にしている場合ではない。
?「どうしたんだい?君のセフィラム能力はそれだけじゃないだろう?」
一兎「は?」
こいつは、無影虚像のことを言っているのか?でもあれは妖怪の状態じゃないと使えない・・・はず。
いや、待てよ、妖怪の状態は、自身が人間であるという性質をひっくり返した状態のことだ。そのとき俺の能力ももちろんひっくり返る。『設定』から『生成』へ変わる。まさか、俺の能力は本来一つだったということか?
?「さて、もうそろそろ終わらせてもいいかな?」
俺の能力は、表裏一体の能力、二つ能力があるんじゃない、一つの能力を裏返しにしただけ。なら、
一兎「無影虚像」
その瞬間、俺の体は仮面のあいつに攻撃された、はずだった。
?「なに?残像・・・だと!?」
そう、攻撃が当たった俺は消えた、なぜならそれは俺の虚像だからだ。これを利用すれば相手をだますことができる。そして、また能力を裏返し、
一兎「これで終わりだ、チャージ・キック!」
チャージ・キックは、終焉回路で右足の重さと筋力を極限まであげて回し蹴りをする技だ。その瞬間動きが遅くなってしまうが、相手が隙を見せていれば使うのには問題ない。そして俺は、あいつの仮面を思いっきり蹴っ飛ばした。