第二十話 人として、妖怪として

一兎いちと「はあ、はあ、はあ。」
バタン
俺はその場に倒れこんでしまった。無理もない。ブラッティ・キックのせいでしん血気開放けっきかいほう が解除され、今の俺は、体内の血液が少なくとも半分は無い状態だ。もう、動けない。
歌恋かれん「え?うそ、でしょ。」
すると、歌恋が驚いたような声を出した。その視線は、俺ではなく
とおる「一兎君、痛いじゃないか。僕の能力が発動条件を指定できるもので助かったよ。」
そこには、俺が倒したはずの水無月透みなづきとおるが居た。
一兎「そんな、ばか、な。」
俺はもう動けない。どうにかして、歌恋を守らないと。でも、もう力が出ない。誰も助けに来てくれない。
透「ふふ、今度こそ僕の勝ちだ。死んでもらうよ。」
守らなきゃ。
透「妖術ようじゅつ
これからも守らなきゃ。
透「幕引きまくびき
俺は、もう、何も失わないって、決めたんだ。こんなところで、
透「湧天乱水ゆうてんらんすい
一兎「こんなところで、死ぬわけには、いかないんだよ!!」
俺が死を覚悟した、その時。
?「その想い、聞き遂げた。そなたに力を授けよう。その力で、すべてを超えるのだ。」
謎の声が聞こえた。いつも聞いているような、聞いていないような、そんな声が。でも、俺の想いが具現化する。
一兎「秘守術ひかみじゅつ人ノ道じんのみち決意正義ノ魂けついせいぎのたましい!」
三つ目の秘守術が、その姿を現す。しかし、今回は状況が状況だ。三分しかこの姿を維持できそうにない。だが、三分もあれば十分だ。
透「この土壇場で新しい能力が開花したか!だが、無意味だ!この蛇のように荒れ狂う水の攻撃をかわすことができるかな?はあああああ!」
あいつの妖術が止まって見える。それに、今なら終焉回路ラストプログラムの力を極限まで引き出すことができそうだ。
一兎「絶対的超越アンパッサン
相手の動きをほぼ完全に予測。計算速度も尋常じゃない速さだ。自分でも驚いてる。この状態なら、アレを完成させることができるかもしれない!
透「クッソ!なんで当たらない!どうして。」
一兎「お前がそうやって行動することは、もう知ってるんだよ。」
俺は完全にあいつの隙をつき、自分の間合いに持ち込んだ。
透「しまっ・・・」
一兎「これで、この演目を終わらせよう。」
俺は、妖力を体に巡らせる。
一兎「妖術ようじゅつぜん幕引きまくびき。『一兎玖錬いちときゅうれん 』!!」
九つある妖術をすべて完璧な順番で練り上げる。【炎、雷、水、風、氷、闇、土、光、死】この順番が最も隙が無く、最も火力が高くなる。
一兎「うおおおおおおおおおおお!」
一発目を炎属性で思いっきり殴り、その一発で相手がひるんだところで、俺はひたすら殴り続ける。連続で、何度も。相手が能力によって復活するなら、何回も倒せばいい。この技は、そういう技だから。
透「ぐあっ。」
一兎「水無月透みなづきとおる。お前は今、四百二十七回死んだよ。この数字がお前にとって、アンラッキーナンバーだ。」
そう言っておれ俺は、最後の死属性による渾身の一発を放った。その一撃を放ったところで俺は意識を失った。
・・・・・・・・・
一兎「う、うーん。」
俺は目を覚ました。いったいどれほど眠っていただろう。すると、頭に何やら柔らかい感触が・・・
一兎「ッ!!は?歌恋?お前いったい何を!?」
なんと、歌恋が俺に膝枕をしていたのだ。しかもよく見るとこの場所は、さっき水無月と戦った場所だ。
歌恋「いや、イチ兄が喜ぶかなって。いやだった?」
一兎「嫌じゃないけど、子供みたいで恥ずかしい。」
そうやって俺が言うと、お互いに笑いあった。こんな何気ない会話をこれからも・・・

ーエピローグー
水無月透を倒した後は、奴の研究所に『ロイヤル・カーズ』に関する情報がないか探したりした。
だが、あんまり収穫は無かったそうだ。
俺はしばらくベットで寝ていた。さすがに無茶をしすぎたようだ。ゆうさんと月夜見つくよみ さんには、こっぴどく叱られた。心配をかけすぎたらしい。まあ、最初は死ぬつもりだったしな。
そういえば、規制派の動きもおとなしくなったらしい。水無月透が開発した能力を封じる薬の存在を百瀬さんが公表したため、能力者の暴走の対策がとれているということになったため、規制派の目論見はつぶれたらしい。次はどんなことをしてくるのか。
そうそう、規制派といえば、海外にいる、能力者を捕獲し、違法な実験をする組織とのつながりがあるかもしれないということで、今調査中だ。海外では、あまりセフィラム能力者が発見されていないため、何とかして、実験をたくさん行いたいのだろう。アリサを誘拐した連中も、そういった組織の手下として働いていたみたいだし。
とまあ、水無月透を倒した後の様子はこんな感じだ。そういえば、歌恋が水無月の最後の言葉を聞いたって言ってたな。その内容はたしか、
透『ああ、この能力者たちがはびこる世界の主人公は、君だったんだね。』
だとさ。主人公になんて、俺はなりたくないけどな。
にしても、あの時俺に話しかけてきたやつは誰だったんだろう。まあ、今はそんなことどうでもいいがな。
俺はこれからも戦う、俺の望む未来のために、俺は人間として、妖怪として、これからもずっと、生き続ける!

-ANOTHERVIEW-
?「はあ、ジャックがやられたか。仕方ないと言えばそれまでだが、すこし厳しいな。」
俺は正直Jが勝つと思っていた。一兎は確かに強い。だが、それ以上にJの方が強いと、組織の妖怪全員が信じていた。
?「おい、お前ら、次の作戦を伝える。早く来い。」
こうなったら仕方がない。力技でねじ伏せる。
?「次の作戦は、」
一兎は確かに成長している。このままでは俺を超すかもしれない。あいつはきっと気づいている。あいつの両親を殺すようにJこと水無月透に命令したのは俺だということに。ならば、俺たちが次に目標にすることといえば一つしかない。
?「次の目標は、魅守一兎みかみいちとの殺害だ。」