第十六話 鼠は姑息な手を使う

ゆう「大丈夫か!」
水無月透みなづきとおるが姿を消した後、幽さんが俺たちのもとへ駆け寄ってくる。ちなみに幽さんには水無月の正体を教えてあるため、今回のことは把握している。
一兎いちと「は、はい。奴がどこかへ行ったおかげで無事だった。そう言うのが正しいんでしょうかね。」
俺は苦笑しながら幽さんにそう言った。
幽「だが、なぜ急に姿を消したんだ?お前たち三人に対して有利な状況なら、そのまま戦えば『銀狼ぎんろう 』の戦力を減らすことができたはず。なんなら『銀狼』そのものを壊滅できたはずなのに、どうして?」
幽さんが眉間にしわを寄せながら考える。すると、
幸「おーい!みんな!どうしたんだ?すっごい大きな音が鳴ったけど。」
アリサ「なんかよくないことが起きたみたいですけど、皆さん大丈夫ですか?」
騒ぎに気付いた幸とアリサがこちらの方へ走ってくる。
一兎「ああ、実は・・・・・・」
何も知らない二人に俺が今まであったことを説明した。
幸「まじか、水無月先生が・・・」
アリサ「敵のスパイだったってことだよね?」
俺の説明を聞いた二人はとても驚いていた。まあ、水無月先生はかなり信頼されていたからな。
幸「そんなことより、一兎と歌恋ちゃんと月夜見さんの三人でも歯が立たなかったの?」
龍時「ああ、俺は戦う前に動きを封じられたんだけどな。」
月夜見さんはとても悔しそうな表情を浮かべた。
歌恋「どうにかして作戦を練らないと。」
歌恋が皆に提案をする。
幽「なら、皆でブリーフィングルームに行って作戦会議だ!」
そう言って幽さんが能力を使って全員を移動させる。本当に便利な能力だ。
幽「それでは、これより対・水無月透の作戦会議を始める。何か意見のある者は?」
こうして、俺たちの作戦会議が始まった。
-ANOTHERVIEW-
?「奴ら、例の『ロイヤル・カーズ』のメンバーを倒すための作戦会議をしていますよ。今が私たちの作戦を遂行するチャンスですよ。どうします?佐々木盗真ささきとうまさん。」
私は佐々木盗真。政治家だ。同じ政治家でも百瀬仁ももせひとし のようにセフィラム能力を肯定していない。むしろ否定している。今、政治は、与党と野党に分かれているが、あまりそれは機能していない。なぜなら、セフィラム能力を肯定しようとしている肯定派と逆に否定し、規制をしようとする規制派の二つの勢力に分かれているため、与党と野党の壁がなくなっている。肯定派は、百瀬派ともいわれていて、百瀬仁が肯定派を引っ張っている。規制派の方はこの私、佐々木盗真が引っ張っているため、佐々木派とも言われている。今行っているのは、百瀬と園上幽とか言うやつが創った『銀狼 ぎんろう 』という組織の盗聴だ。以前まではできなかったが、『銀狼』と敵対する組織が現れたため、盗聴器がバレてもそいつらが仕組んだということにできるので、こうして盗聴をしている。
盗真「ああ、例の作戦を始めよう。『セフィラム完全規制作戦』を。」
『セフィラム完全規制作戦』それは、セフィラム能力が危険であるということを証明し、セフィラム能力者の取り締まりを最大まで強化しようというものだ。そのためには、セフィラム能力が危険だということを世間に証明しなければならない。ならばどうするか、それは決まっている。能力者を暴走させればいい。

-ICHITO’SVIEW-
一兎いちと「本当に、それでいいんですか?」
ゆう「ああ、頼むぞ。」
今、会議が終わった。結果的には、俺と歌恋かれんが二人でリベンジをするというものだった。
龍時りゅうじ「これから一兎の修業はいつもよりハードなものにしてやる。お前が前に言ってた理論上最強の妖術ようじゅつを完成させるぞ。」
一兎「まじですか?」
理論上最強の妖術。それは、全属性を練り上げて放つ奥義。俺は、技が使えないっていうだけで、全属性の妖術の適性はある。技が使えないのは、使い方を知らないということだ。純粋な妖怪なら、適性さえあれば使えるが、俺は人間の血が混じっているため、人間の遺伝子が習わないと使えないようにしているのだ。まあ、攻撃にならない程度でなら、水を出したり、風を発生させたりできる。その出力の調整ができないから、理論上の話になっているのだが。
幽「まあ、こちらの能力を知られている以上、新たな戦術を手に入れておいた方がいいだろう。頑張ってくれ。」
一兎「そうだな、能力がいつ使えるようになるか分からないし、やるしかないか。」
俺は腹をくくった。すると、
ゆき「ん?なんだ?これ。え?いや、デマじゃ・・・ないよね?」
幸が何かに反応した。
歌恋「星宮ほしみや先輩?どうかしたんですか?」
幸「うん。これを見て。」
そういって幸がスマホの画面を見せる。そこには、能力者が暴走しているような映像が流れていた。
龍時「なんだこれ。合成か?」
一兎「合成にしてはリアルすぎるような・・・」
俺たちがそれぞれ考えていると、
幸「もしかしたら」
そう言って幸がスマホの画面をテレビに変える。
幸「やっぱり。ニュースになってる。しかも、説明してる人が佐々木じゃねーか。」
幸の言う通り、ニュースには、『セフィラム能力、暴走の危険!?』というキャッチコピーで話が進められている。そして、この事件の説明をしているのが、セフィラム能力規制派の佐々木盗真だ。
幽「規制派が動き出したか。」
アリサ「にしてもタイミングが良すぎないですか?」
一同「!?」
俺たちはアリサの言葉に目を見開いた。そう、タイミングが良すぎるのだ。
アリサ「まるで、私たちが今、『ロイヤル・カーズ』への、厳密にいえば水無月先生を倒すことに集中しているということを知っているかのような動きを見せているのは、どうして?」
アリサの疑問を全員で考える。確かに、今は夕方だ。それも、もうほぼ日が沈んでいるような微妙な時間帯だ。能力者の暴走なんて、昼間にやったほうのがもっと注目される。なのになぜ今なのか。
一兎「俺たちが確実に動けないということに気づけたというのなら、スパイがいるのか?いや、スパイがいることよりも確実なことがある。それは、この部屋に盗聴器が仕掛けられているということだ。」
俺がそう言うと、皆が一斉に盗聴器を探す。
アリサ「うーん。なかなか見つからないなぁ。」
歌恋「花咲はなさき先輩。全能増幅アップグレードでイチ兄を強化してくれませんか?」
歌恋がそう提案する。
歌恋「イチ兄って全属性の妖術が使えるんだよね。なら、雷属性でなんかうまいこと探せないかなって。」
歌恋がそう言った後、俺が何かを言う前にアリサの手が俺の背中に触れる。
一兎「俺は何も言ってないんだがな。雷か。うまいこと電波を脳から発生できるように・・・マジか、終焉回路ラストプログラム。」
アリサの能力の恩恵は恐ろしいということが分かった。能力が復活していた。一時的なものだとしてもありがたい。これには幽さんも
幽「アリサの能力、恐ろしいな。」
そう言うしかなった。
一兎「ん?頭にノイズが・・・そこか!」
俺は能力と妖力を駆使して、盗聴器を見つけた。そして、俺はとあることを思い出した。なので、あえて盗聴している奴に聞こえるように、こう言った。
一兎「暴走を止める方法をが一つあったね。俺の復讐は後回しだ。この方法を世間に出してしまえば、お前たちの目論見は失敗に終わる。さて、次の演目を始めようか。セフィラム能力規制派、いや、佐々木派のみなさん?」