第五話 絶望を断つ大きな黒い影

主犯「何っ!聞こえているのか?しかし、どうやって?」
一兎いちと 「簡単な話だよ、気圧には押す力がある。この世界の生物は自分たちの住む場所の気圧に対応して体の内側から外からかかる力と等しい力で押し返す。つまり、お前が俺の耳にかかる気圧を操作したのならその気圧と同じ力になるよう『設定』すればいいだけの話だ。」
主犯「な、なんだよ、そのチート能力!で、でもこの俺の能力をお前はなめてるんじゃないか?」
一兎「何?まだ隠し玉がーー」
ーーーーパンッ!!
俺の耳に聞こえた音は、これが最後だった。
一兎(鼓膜が破れた!気圧操作による爆発か?クソッ!眩暈がする。体もふらふらするし、このままだと)
主犯「まだまだ、圧縮した空気による高気圧爆弾をくらいやがれ!」
ーーパンッ!!ーーーーパンッ!!ーーーパンッ!!
一兎(終焉回路ラストプログラムの超感覚でなんとかよけることができているが、このままだと確実にやられる。正直勝てる気がしない。もうだめだ。俺はもう勝てない・・・)
ーー本当にそう?本気でそう思ってる?まだ終わってないよ、まだ生きてる。ーー
何度も聞いたことのある声が俺の耳に響くーー
一兎(俺にまだ勝機があると思ってるのか?妖術だとこの子も傷つけてしまう可能性がーー)
――あなたが継承したのは妖術だけじゃないはず。ーー一兎(妖術だけじゃ、ない?まさかあの力か?あの力は結局使えなかった俺にはーー)
ーー大丈夫、あなたの『想い』が強ければきっと使える。だから、諦めないで!一兎!ーー
一兎「ふう、また助けられちゃったな、ありがとう。お母さん
一兎『秘守術ひかみじゅつ地ノ道ちのみち虚無破滅ノ影きょむはめつのかげ
俺の背中から左右に三本ずつ、計六本の大きな黒い爪が生える。破れた鼓膜も一瞬で治った。
一兎「さあ、次の演目を始めようか!」
主犯「な、なんじゃそりゃぁああ!」
『秘守術』は俺たち魅守家にのみ許された唯一無二の奥義。その中でも力を求めるものに呼応すると言われているのが、『地ノ道、虚無破滅ノ影』だ。影を操り、その影は実物に影が動きを合わせるのではなく、実物が影に合わせる。そして影の中を移動することもできる。
主犯「何?消えた、だと?ーーッ!」
ーーーパンッ‼
主犯「は、はは、何とか対応できたぜ、お、剣を落としたな?こいつを奪ってしまえばこっちのもんさ!」
一兎「本当にそうか?『終焉回路』!」
主犯「何?」
相手が持っていた剣が勝手に動き、相手の腹を貫く。もちろん急所は外しておいた。
主犯「なんで?剣が勝手に?」
一兎「そりゃあ、俺の所有物だからに決まってんだろ?お前の言うことを聞かなくて当然だ。」
秘守術はさすがに疲れた。帰ったらすぐに寝よう。
主犯「クソッ、俺の能力が負けるなんて・・・」
一兎「俺が強すぎたんだよ。ま、命は取らないから、安心しな。」
そういって苦笑する俺の影は、何も触ってない俺の実物とは違い、体から伸びている手のようなものが相手の腹に刺さっている剣に触れていた。