第十九話 華の咲き方

一兎いちと「よし、入るぞ」
そう言って、俺は扉を開ける。アリサはもちろん、ゆうさんの能力で離脱だ。
とおる「やあ、一兎くん。歓迎するよ。ここは僕の研究室さ」
扉を開けた瞬間。そんな声が響く。そして、俺たちがその部屋に入ると、
バタン!
扉が勝手にしまった。
透「妖術ようじゅつ幕開けまくあけ明鏡めいきょう止水しすい
一兎「なに!?」
水無月透みなづきとおるが、何らかの妖術を使う。幕開け?なんだそれ?
透「この妖術は僕のオリジナル妖術でね、術者を倒さない限り、何をしてもここから出ることはできない」
なるほど、つまり幽さんの能力で離脱をするのは不可能というわけか。
一兎「まあ、なんでもいいよ。神剣しんけんたちばな!そして、 守術かみじゅつ地ノ道ちのみち虚無きょむ破滅はめつ かげ!」
俺は現時点で最強の戦法を使う。
歌恋かれん「イチ兄、私は援護をするから、思いっきりやってきて!」
そして、俺たちの最後の戦いが始まった。
透「妖術、第伍幕だいごまくどく
一兎「歌恋!この水は猛毒だ!触れるな!」
毒河。その名の通り毒の水が流れる。まあ、数秒したら消えるけど。
一兎「次はこっちの番だ!妖術、幕引きまくひき終焉しゅうえんいち 太刀たち!」
巨大な炎の刀で斬りつける、だが
透「妖術、だい捌幕はちまく海蛇かいじゃまい
その炎が跳ね返ってきた。
一兎「ぐぁあああああ!」
俺はそれをもろに受けててしまう。もう、アレを使うしかないのか・・・
一兎「もういいよ。しん血気けっき開放かいほう!」
歌恋「まさか、イチ兄。死ぬ気なの?」
歌恋が何か言っているが、俺には聞こえなかったことにしておこう。だって俺は、初めから死ぬつもりでここに来たんだから。真・血気開放は、自身の血液の五割を消費して、恐ろしいほどの力を引き出すというものだ。
透「へえ、とうとう本気か。いいよ、かかってきなよ」
俺は全力で走り出す。そして、
一兎「うおおおおおおおおおお!妖術、第拾幕だいじゅうまくえんりゅう乱舞らんぶ !」
無数の炎の龍とともに水無月へ攻撃を仕掛ける。
透「うーん。妖術、第拾幕だいじゅうまくすいりゅう乱舞らんぶ
俺の攻撃がまた砕かれた。
歌恋「イチ兄!」
歌恋が倒れた俺のもとへ来る。『ダメだ、来るな』俺はそう思った。
歌恋「イチ兄は、私が守る」
歌恋は、そう言った。
透「はあ、無駄なんだよ。その行為も、まとめて殺してあげるよ」
水無月はとどめをさすつもりだ。『逃げろ、歌恋』そんなことを言おうとしたが、口が開かなかった。
歌恋「イチ兄には、絶対に死んでほしくない。イチ兄は、まだ死んだらダメなの!」
そう叫ぶ歌恋の目から水のようなものが落ちる。
歌恋「イチ兄は、まだ幸せになってない。もしかしたら昔は幸せだったかもしれないけど、今は違う。両親を殺されて、修行に明け暮れ、友達と遊んだりすることもなく、ただ憎しみを糧に生きてきた。そんな人生、悲しすぎるよ。正直、私は復讐なんてしてほしくない。それでイチ兄が生きててくれるなら、私は、満足なんだよ」
歌恋の目から、涙が流れ続ける。
歌恋「イチ兄を死なせないことが、私の今までの目的だった。その目的を達成するために今まで頑張ってきたんだよ。だから、死なないで。イチ兄」

【常陸歌恋の秘密】
彼女は、一兎を死なせないことが目的だ。そのためには復讐を止めてしまってもいいと思っている。

一兎「それがお前の、【秘密】か」
俺は歌恋の秘密を聞いて初めて自分がどれだけ馬鹿なことに時間を費やしていたのか、自覚する。
俺のことをここまで思ってくれている人を死なせたくない。
そうだ、俺は、水無月透を殺したいんじゃない。歌恋を、『守りたいんだ。』
一兎「秘守術、天ノ道てんのみち無双むそう神秘しんぴ はな
前回と同様の六枚の宝石の花弁が俺の背中に現れる。
あの時この技が急に消えた理由がわかった。この技は『守りたい』という想いに呼応するから、殺意がわいてしまったら使えなくなるんだ。
透「ほう、またそれか、でも、それはもう見切ったよ・・・!」
一兎「貫け!輝ける花びらたち!」
六枚の花弁が水無月の方へ飛んでいく。この秘守術は、六枚の花弁が攻防一体となり戦う。誰かを守るために戦う、そのための力だ。
透「クッ、妖術、」
一兎「させるか!断華!」
俺は断華を投げる。終焉回路を使って、思い通りに動かし、攻撃する。
透「クソ!うっとうしい!」
水無月が刀から逃れようと姿勢を崩した瞬間、
透「しまった!」
一兎「妖術、第玖幕だいくまく具土グヅ 憤怒ふんど!」
水無月の足元から炎が噴き出す。
透「ぐぁあああああ!」
ここがチャンスだ。正真正銘最後の攻撃を放つタイミングは、ここしかない。今から繰り出す攻撃は、真・血気開放を解除する代わりに、攻撃が当たった者の血液をすべて消滅させるというものだ。回避されたら俺の負けになる。諸刃の剣だ。
一兎「うおおおおおおおおおお!『ブラッティ・キック!』」
俺は、高く飛び、ジェットコースターのように前方へキックをする。
透「残念だけど、それはよけさせてもらうよ」
そう言って水無月は俺の攻撃をかわす。もう俺のキックは当たらない。『誰かに動かしてもらわない限り』
歌恋「終焉機構ラストシステム!」
俺の体が勝手に動き、キックが見事に水無月の体に当たる。
透「そんな、ばかなあああああああああああ!」