第十七話 三つ巴

-RYUJI'SVIEW-
龍時りゅうじ一兎いちとの考えが正しければ、暴走は止められるのだが、どうだ?」
あの作戦会議から一晩経った。今回は一兎たちが学校に行っている時間帯に暴走者が出た。しかし、こちらには一兎が考えてくれた秘策がある。
暴走者「アアアアア、アアア、アアアアアアアアアアア!」
暴走してしまった人が、苦しそうに叫ぶ。
龍時「今助けてやるからな、物質超加速マテリアル・ブースト!」
俺はそう言って能力を発動し、とあるものを取り出す。注射器のようなものだ。
龍時「止まってくれよ」
俺はその注射器のようなものを暴走した人に刺す。すると、暴走が止まり、その人は倒れてしまった。
龍時「成功、したのか?」
どうやら一兎の考えは正しかったようだ。今この人に刺したのは、とある薬が入ったものだ。その薬は、水無月透みなづきとうる が以前、一兎に投与した能力を封じる薬だ。水無月透の部屋を捜索したら、十本ほどあり、そして作り方をまとめた紙もあった。そこには効果は四日でなくなる、と書いてあったため、能力がなくなるわけではないということがわかったのでしかたなく使用することにした。
龍時「司令官、一兎の言っていたことは正しかった。暴走した人の能力が封じられたぞ」
ゆう「そうか、すでに救急車は手配しているから、戻っていいぞ」
司令官がそう言ったので、帰ろうとすると、あの忌々しい声が聞こえた。
透「まさか、僕が作った薬をつかうなんてね。どうだい、僕に助けられた気分は」
龍時「水無月透・・・」
そう、水無月透が居た。
龍時「勘違いをするな、俺たちはお前を利用しただけだ。助けられただなんて思って無いさ」
俺はそう言いながら刀を抜こうとする。
透「ちょっと待ってくれよ。僕を倒すのは、一兎君じゃないのかい?両親の仇を討つのは子供の役目だろ?それに、今日僕が君の前に現れたのは他の理由があるからだよ」
奴は戦う意思がないそぶりを見せた。
龍時「ほう、いいだろう。その話を聞こうか。だが、俺は心配性なのでな、武装をしたまま話を聞かせてもらおう」
透「ま、別にいいんだけどね」
奴はそう言うと、どこか不気味な笑みを浮かべ、話を続けた。
透「僕が今日来たのは他でもない。一兎君と決着をつけようと思ってね。僕の研究所への招待状をわたしに来たんだよ。これが僕の研究所の場所だよ。それじゃあ、僕はこれで」
水無月は紙を一枚落として消えてしまった。
龍時「一兎の復讐、か」

-ICHITO'SVIEW-
一兎「これも違うな。いや、これでもないな」
俺はずっと考えていた。最強の妖術を。九つの属性、『炎、水、雷、風、氷、土、闇、光、死』をどう組み合わせれば最強の妖術が完成するのか。すべての属性を同時に放ってもいいのだが、それではどうしても威力が落ちる。ならば、高出力の妖力を組み合わせ、連続技にすればいい。だが、最も強く、最も隙がない組み合わせが見つからない。最初を最も得意な炎妖術にし、最後を最も威力の高い死属性にするのは決まった。ここからが難しい。
歌恋かれん「イチ兄?大丈夫?」
すると歌恋が声をかけてきた。
一兎「あ、ああ。正直に言えば疲れた」
それも当然。組み合わせを決めるために、学校から帰ってすぐに妖術を使っているんだ。すでに二百通りはやっている。計算がめんどくさいが、何万通りをも超える数の組み合わせを決めるのだ。これくらいはやらないと。
歌恋「もう休んだら?決戦はもうすぐなんだよ」
そう、奴との決戦はもうすぐ。あと二日後に迫っている。規制派の連中の動きも気になるが、俺たちは水無月透を倒すことに専念しなくてはいけない。
一兎「そうだな、実はもう妖力がなくなりそうだったんだよ」
俺はそのまま部屋に戻った。
-KAREN'SVIEW-
イチ兄が部屋に戻った後、私も自分の家に帰ることにした。正直帰りたくないけど。
歌恋「ただいまー」
私が家のドアを開けると、そこには、
光汰こうた「ふん、帰ってきたのか。別にそこら辺のドブで死んでてくれても良かったんだがな」
常陸光汰ひたちこうた 。私の本物の兄がいた。私を、能力者を嫌っている男だ。イチ兄を本物の兄のように慕っているのは、ただ現実逃避がしたかっただけ。私のお兄ちゃんは優しい人なんだって思いたかっただけ。
歌恋「・・・・・・」
光汰「ハンッ。能力者なんて危険なやつが、この家に来るんじゃねえよ」
ああ、本当につらい。お父さん、常陸正蔵ひたちしょうぞうは政治家で、能力には肯定的だ。その理由は、私のため。能力者になった私を支援するためだ。だから私はお父さんに『銀狼 ぎんろう』に入りたいということを話した。お父さんは百瀬ももせ さんと仲がいいので『銀狼』の存在はお父さんが教えてくれた。まさか、存在を教えただけでこんなことになるなんて考えもしなかったんだろう。だから最初は嫌そうな顔をしていた。でも、光汰兄さんの考えを変えたい。そう言ったら、渋々了承してくれて、百瀬さんに相談してくれた。でも、今日はお父さんはいない。規制派の連中のせいでお父さんは今忙しい。
歌恋「ああ、早く明日になって、イチ兄にあいたいなぁ」
こんなことも、ほぼ毎日つぶやいてる。今日はお母さんも帰ってくるのが遅い。私の本物の兄があんなのだから、ついつい優しいイチ兄にすがってしまう。『銀狼』に入ってよかったのは、光汰兄さんから逃げられるということだけじゃない。私が望んでいた理想のお兄ちゃん像。私が考えていた人がそのまま現実に現れ、出会うことができたということだが一番大きい。イチ兄みたいに優しいお兄ちゃんがずっとほしかった。でも、イチ兄は優しすぎる。だから、彼の中にある大好きな両親を殺されたという怒りや憎悪を私に隠していたのだ。
私の考えでは魅守一兎みかみいちとという青年はおそらく、復讐を終えたとき、命を落とす。