第十五話 藪の中の蛇

俺とれん水無月透みなづきとおるの部屋の前にいる。
一兎いちと「ふう、少しばかり緊張するな。歌恋、いつでも能力を使えるようにしとけよ」
歌恋「うん。わかってる」
今から俺たちがするのは、水無月透への尋問だ。俺の予想が正しければ、奴は間違いなくジャックだ。
一兎「さすがに、能力が使えない状態でJと戦うのはさすがに怖いからな、月夜見つくよみさんにフォローは任せてるし、大丈夫だよ」
俺はそう言って、歌恋を安心させようとする。しかし
歌恋「うん・・・」
歌恋は俺の言葉を聞き流しているようだった。
一兎「開けるぞ」
コンコン
透「どうしたんだい?入ってきていいよ」
一兎「邪魔するぞ」
俺は少し威圧するように入る。
透「なんだ、一兎くんと歌恋ちゃんかぁ~。どうしたの?そんな怖い顔をして」
水無月透は、いつものようにへらへらしている。今日はそれがいつもより腹立たしい。
一兎「俺は回りくどいマネはしたくないんでな、本題から切り込ませてもらうぞ」
俺はさっそく聞くことにした。相手に主導権を握らせないように。
一兎「単刀直入に聞く。お前はロイヤル・カーズのメンバーの一人。Jだろ?」
その言葉を聞いた水無月透は、少し動揺したのちに
透「何を言ってるんだい?僕は人間だよ?妖怪の組織に入れるわけがないじゃないか」
その言葉を聞いた時、少々不安になったが、
一兎「能力が存在する世界だからな。妖怪であることを隠すことが可能な能力だってあるかもしれないだろ?」
俺がそう言うと、水無月透は、黙り込んだ。
一兎「それに、明確な根拠があるからこんなことを話してるんだ」
透「なら、その根拠というものを聞かせてもらおうか」
なんとなくだが、水無月透の方に余裕がなくなってきた気がする。ならばここで畳みかけるしかない。
一兎「一つ目、非公開の組織のはずなのに、外部からのリーク情報が来たこと。これは、俺たちの組織を知っている、もしくは組織の人間であることが証明される。二つ目、昨日のJとの交戦時、お前は用事があると言ってここを外出していた。これでお前にあの時間帯のアリバイがなかったことが証明される。まあ、その時一緒にいた奴がいるなら、そいつを呼んでこればいいが、次の根拠が、お前を追い詰める」
透「な、何を言ってるんだい?でたらめじゃないのか?」
話を断ち切ろうと水無月透が横から入ってくるが、俺はもちろん構うことはなく。
一兎「三つ目の根拠だ。Jはあの時、俺にこう言ったんだ。『君の能力は薬によって封印した。』ってね。この言い方だと、J自身が俺に薬を投与したって言ってるようなもんだろ?だが、俺に薬を投与できるタイミングなんて、なかったんだよ。俺はここに住んでいる。しかし、園上 そのがみ てい の防犯システムは、妖怪であったとしてもそう簡単に超えられるものではない。ならば、いつ薬を投与したのか。それは、俺が貧血を起こして気絶した時だ。そして、その時俺に血液を投与した。水無月透、お前以外俺に薬を投与できる奴はいない!」
俺は水無月透をにらみつける。すると、奴は笑い出して、
透「ハハハハハハハ、見事な推理だよ。一兎くん。探偵顔負けだね」
歌恋「じゃあ、まさか、本当に水無月先生が」
歌恋が焦ったように聞く。
透「そうだよ。僕がJだよ。まさか、こんなに早くばれるなんてね、予想外だよ」
俺は一つ聞きたいことがあったため、それを聞くことにした。
一兎「一つだけわからなかったことがある。お前の能力はなんだ?」
透「うーん。本来なら、敵にわざわざ能力を教えるなんてバカな真似をしたくないんだけど、まあ、頑張ったご褒美として教えてあげよう。僕の能力は、『自身の体を自由自在に操る能力』だよ。文字通り、体を蛇のようにしたり、体の材質を変えたりできる。そして、この能力を応用することで、妖力を感知されなくすることができるんだよ。これを使って妖怪であることを隠してたんだよ。にしても、本当に便利だよね、セフィラム能力って。だって、妖怪も人間も含めて能力をもつことができるんだから。まあ、無能力者じゃなかったのは単純に運が良かっただけかな」
水無月透がそこまで話しているときには、もう俺は臨戦態勢になっていた。
一兎「バーンフェーズ」
俺が炎の妖力を循環させる。終焉回路ラストプログラムが使えない今、これを使うしかない。
透「な、ぐあああああ!」
俺が強烈な一撃をやつに与えた。そのせいで、奴の体はやけどだらけだ。しかし、
透「これが僕の能力だよ。体をちぎられても、燃やされても、体を自在に操れるから元に戻すことができる」
やけどは、最初からなかったかのように完全に治っていた。
一兎「くそ、妖力ようりょく全開ぜんかい・・・」
透「させないよ。妖力ようりょく全開放ぜんかいほう
一兎「がはっ!」
俺が妖力全開放をする前に、奴が妖力全開放し、俺を攻撃した。そして俺は扉を壊しながら吹っ飛ぶ。
歌恋「イチ兄!終焉機構ラストシステム!」
歌恋が能力で吹っ飛んだ俺を復帰させる。これは前もって決めていたことだ。水無月透に歌恋の能力は通用しない。それはすでに分かっていたことだ。ならば、別のことに使えば、奴の意表をつけるのではないか、そう思った作戦だった。
透「妖術ようじゅつ第肆幕だいよんまくかいろう
龍時「なん、だと・・・」
隠れてスタンバイしていた月夜見さんに気づいていた水無月は、月夜見さんを水の檻に閉じ込めた。
透「さすがにそんなにこそこそしてたら気づいちゃうよ。龍時りゅうじくん。まあ、少しばかり足止めをさせてもらうよ」
これには俺も驚いた。三人がかりでも苦戦するのか。でも俺にはまだ能力がある。
一兎「守術かみじゅつ地ノ道ちのみち虚無きょむ 破滅はめつかげ
秘守術ならどうにかできると思った。この状態なら無影虚像ラストフィクサーを再現できる。
一兎「神剣、たちはな。我を邪魔するものを断ち切れ!」
俺は断華を呼び出し、影の中を移動しながら水無月を斬りつけようとするが、
透「妖術、第参幕だいさんまくきょうすいらん
水の攻撃が無差別に行われたため、予測できずに攻撃をくらってしまった。
一兎「くそ、強すぎる・・・」
透「まあ、今日はこれくらいにしよう。また遊ぼうね。一兎くん」
そう言って余裕の笑みを浮かべた水無月が姿を消した。
一兎「水無月透。お前だけはこの命に代えてでも殺してやる」