主犯「何っ!確かに俺は気圧を急激に下げたぞ?どうやって防いだ?」
相手が困惑しているようなので、優しい俺が丁寧に説明してやった。
一兎
「簡単な話だよ、気圧が急激に変化すれば、その変化に体はついていけず、体の内と外の圧力バランスが崩れてしまう。そして、急激に気圧が低下すれば、気圧を感知する内耳が膨張して、体調を整える自律神経が乱れる原因になる。だが、圧力バランスを元に戻し、内耳の膨張を抑えるよう『設定』すればいいだけの話だ」
俺の説明を人とおり聞いた男は、俺を鬼の形相でにらむ。
主犯「な、なんだよ、そのチート能力!で、でもこの俺の能力をお前はなめてるんじゃないか?」
一兎「何?まだ隠し玉がーー」
ーーーーパンッ!!
俺の耳に聞こえた音は、これが最後だった。どうやら、いろんな器官が傷つけられたようだ。
一兎(鼓膜が破れた!気圧操作による爆発か?クソッ!眩暈がする。体もふらふらするし、このままだと)
主犯「まだまだ、圧縮した空気による高気圧爆弾をくらいやがれ!」
ひるむ俺に対し男は攻撃を続ける。
ーーパンッ!!ーーーーパンッ!!ーーーパンッ!!
避けれないこともないが俺は被弾し続けている。急所には当たっていないのでまだいいほうだ。
一兎(終焉回路の超感覚でなんとかよけることができているが、このままだと確実にやられる。正直勝てる気がしない。もうだめだ。俺はもう勝てない・・・)
俺は絶望したとまでは言わないが、混乱をしていた。活路が見えない。月夜見さんが来るのを待っている余裕もない。そして、次の攻撃が俺にあたるとき、視界が暗転し、声がした。
ーー本当にそう?本気でそう思ってる?まだ終わってないよ、まだ生きてる。ーー
何度も聞いたことのある声が俺の耳に響く。俺はその声に反応する。
一兎(俺にまだ勝機があると思ってるのか?妖術だとこの子も傷つけてしまう可能性がーー)
――あなたが継承したのは妖術だけじゃないはず。ーー
一兎(妖術だけじゃ、ない?まさかあの力か?あの力は結局使えなかった俺にはーー)
ーー大丈夫、あなたの『想い』が強ければきっと使える。だから、諦めないで!一兎!ーー
その言葉を聞いた時、俺の視界は元に戻る。この声の主が誰か分かっていた俺はこう言った。
一兎「ふう、また助けられちゃったな、ありがとう。お母さん」
そして俺はあの力を使う。
一兎『秘守術、地ノ道、虚無破滅ノ影』
俺の背中から左右に三本ずつ、計六本の大きな黒い爪が生える。破れた鼓膜も一瞬で治った。
一兎「さあ、次の演目を始めようか!」
主犯「な、なんじゃそりゃぁああ!」
『秘守術』は俺たち魅守家にのみ許された唯一無二の奥義。その中でも力を求めるものに呼応すると言われているのが、『地ノ道、虚無破滅ノ影』だ。影を操り、その影は実物に影が動きを合わせるのではなく、実物が影に合わせる。そして影の中を移動することもできる。
主犯「何?消えた、だと?ーーッ!」
俺が後ろを取り、腰に携帯していた剣で攻撃を仕掛ける。すると、
ーーーパンッ‼
俺の剣は男の攻撃によってはじかれ、男のほうへ落としてしまった。
主犯「は、はは、何とか対応できたぜ、お、剣を落としたな?こいつを奪ってしまえばこっちのもんさ!」
男は俺が落とした剣を拾う。俺にとってそれは想定内だが。
一兎「本当にそうか?『終焉回路』!」
能力を解放する・・・というのはただのブラフだ。相手は完全に俺の動きに集中している。そのせいで手の力が弱まったはずだ。俺はそこを狙って、とあることをした。
主犯「何?」
相手が持っていた剣が勝手に動き、相手の腹を貫く。もちろん急所は外しておいた。
主犯「なんで?剣が勝手に?」
その疑問に俺は、
一兎「そりゃあ、俺の所有物だからに決まってんだろ?お前の言うことを聞かなくて当然だ」
秘守術はさすがに疲れた。帰ったらすぐに寝よう。
主犯「クソッ、俺の能力が負けるなんて・・・」
一兎「俺が強すぎたんだよ。ま、命は取らないから、安心しな」
そういって苦笑する俺の影は、何も触ってない俺の実物とは違い、体から伸びている手のようなものが相手の腹に刺さっている剣に触れていた。