一兎「妖怪たちのユートピア?」
俺がその男にもう一度問うが、
テロリストB「私が話せるのはここまでですね。それでは、人間の貴族を・・・・・・・・・ッ!」
やつが驚くのも無理はない。なぜなら彼らの姿がもうないからだ。
一兎「悪いな、こっちにも優秀な司令官がいるもんでね」
周囲にいる一般人たちがパニックを起こしている状態では、国王たちを逃がすことは難しい。だが、幽さんの能力であれば、移動させられる。幽さんの能力は、一度行ったことのある場所であれば極端に遠くない限り、干渉できる。なので、こういった護衛任務のとき、幽さんは事前に目的地を自分の足で歩く。とても大変そうだが、幽さんはまだ若いので、大丈夫だ。
テロリストB「クッ!皆さん、あの半妖をやってしまいなさい!」
テロリスト共「うおおおおおおおおおお!」
じいさん妖怪が声をかけると、そのお仲間さんたちは雄たけびをあげた。でも俺は余裕だと思っていたので、
一兎「俺に挑むのは構わないが、後悔するなよ?終焉回路!」
その場で能力を発動した。俺はその場から動こうとしない。
テロリストA「相手は一人だ!数的有利の状況下で負けるわけがねえ!妖術、第壱幕、水蘭
!」
チャラい男が俺に水の球体を勢いよく放つ。この威力ならコンクリートを粉々にするのもたやすいだろう。ちなみに、妖術というのは、妖怪が使える技で、火属性、水属性、雷属性、土属性、風属性、氷属性、闇属性、光属性、そして死属性。この九つある。妖怪によって使える属性は異なり、俺は火属性が使える。正確に言えば火属性だけではないが・・・俺のように、人間の遺伝子が強い半妖は、誰かに技を教わらないと妖術が使えない。普通の妖怪や、妖怪の遺伝子が強い半妖は、誰かに教わらなくても使える。
そして俺は、火属性、最弱の妖術を放つ。
一兎「妖術、第壱幕、鬼火」
俺が手を銃の形にして水の球体を狙うと、炎の球体が俺の指先に現れる。そして指で作った銃で敵を撃つようなしぐさをすると、その炎の球体は水の球体と、それを放ったチャラ男めがけて飛んで行った。
テロリストA「炎の妖術で俺の水の妖術に勝てるわけが・・・・・・ってぐぁあ!!」
炎の球体が水の球体にぶつかった瞬間、水は瞬間的に蒸発し、炎の球体は勢いを落とすことなくチャラ男に被弾した。それを見ていた敵たちは、何が起こったのかわからない様子だった。そして俺は、そいつら全員を挑発するようにこう言ってやった。
一兎「さてと、全員まとめてかかってきてもいいぜ?二人対十数人でも負けないからな」
二対十数人。その言葉の意味がよくわからなかったのか、じいさん妖怪が俺に聞いてきた。
テロリストB「二人?いや、あなた一人だけじゃ・・・・・・ッ!」
俺一人だと思っていたそいつは、味方の異変に気付いたらしい。
幸「絶対投擲!!」
テロリスト数人「ぎゃああああああ!」「ぐほぉ!」「ぐはっ!」
幸の投げた鉄の塊が何人かの頭にヒットする。ちなみに鉄の塊は、幸がいつも任務の時に大量に持ってきているものだ。中には投げナイフなどもあるが、それは今は関係のない話だった。
俺が時間を稼いでる間に、幽さんが王族の人を安全な場所に移動させ、幸が目覚めるのを待つという俺の即興で作った作戦とも言えない作戦に相手はまんまと引っかかっただけだ。
一兎「さて、ちょっと本気を出そうか、バーンフェーズ!」
そうして、俺は体に炎の妖力をまとった。そのせいで周囲の気温が上昇する。
テロリストC「あっあちぃ、なんだあいつ、まるで炎の魔人じゃないか、いや、灼熱の半妖か?」
この瞬間、さっきまで何もしゃべってなかった奴に灼熱の妖怪とかいう二つ名をつけられた。
一兎「そんな無駄口をたたいてる暇があったら戦うか、逃げるかしたらどうだ?ま、逃がさないんだけどね」
なんか勝手に二つ名をつけられたのがなんかむかついたので、ちょっと本気を出すことにした。敵さんはみんな逃げようとしない。死にたいだけなのか、潔いだけなのか。すると横で幸が、
幸「俺にもかっこつけさせろって!おい、一兎?聞いてるか?おーい!」
なぜか目立とうとしていた。別に幸が目立つ必要はなかったので、その発言を聞き流し、妖術を発動させた。
一兎『妖術、第捌幕、炎狼の爪痕!』
炎狼の爪痕は、歩数を重ねるたび加速する妖術だ。さすがに長時間は使用できないが、およそ三十歩ほどでその速さは音速に到達する。そしてこの妖術の使用中は、全身が炎に包まれる。そしてこの技と相性がいいのが、
一兎『妖術、第参幕、業火の一太刀
!』
一筋の炎が相手を包む。そして、相手は全員倒れていた。業火の一太刀は、炎をまとった剣で一閃する技だ。炎狼の爪痕で走りながら使うことで、炎による一閃は、敵全員を薙ぎ払う炎の剣舞に変化した。
敵が全員倒れたことを確認すると俺は、
一兎「テロリストの制圧完了」
そう、幽さんに報告したのだった。
・・・・・・翌日
幽
「今回の襲撃の一部始終を見ていた一般人が妖怪の存在をSNSにアップした。一兎との戦いの様子もだ。一兎はサングラスで認識阻害をしていたから問題ないが、世間は妖怪の存在に関して否定的だ。一兎の正体は組織の人間全員に説明する。いいな?」
一兎「はい」
あの事件の翌日、テレビでは妖怪の存在が取り上げられていた。まったく生きづらくなったもんだぜ。能力者の存在を肯定する人がいても、妖怪の存在を肯定してくれるような一般人なんてこの世にはいないのだと。誰もがそう思っていた。特に俺が、俺の正体を知っても仲良くしてくれる人なんて組織の人以外にはいないのだとそう思っていた、そんなことを考えながら五日の時がたった。
幽「任務だ!連続誘拐事件の犯人の潜伏場所がわかった!奴らは能力者を誘拐したあとで海外のマフィアに売りさばくつもりだ!一兎!龍時!お前たちで救出してくれ!今すぐにだ!」
一兎、龍時「了解!」
そして次の任務が世界を巻き込む演目の始まりとなるのだった。