幽「この任務は、一兎、幸、君たちに任せようと思う」
一兎、幸「了解」
こいつは星宮幸、俺の仲間だ。『銀狼
』に入ったのは、俺より、二週間後だが、同期みたいな感じだからとても親しみやすい。こいつは、「投げた物を狙ったところに確実に当てる能力」を持っている。この能力は、動いている物には効果がないけど、使い方次第では、とても強い能力になる。
そんなこいつと一緒に取り掛かるのが、護衛任務。護衛対象は、ルナポロネーゼ王国の王族の方だ。ルナポロネーゼ王国というのは、今、日本とかなり仲のいい国で、セフィラム能力の研究にも協力をしてくれたり、何かと日本に協力的な国だ。そんな国の国王と、王妃、第一、第二王女の四人が護衛対象だ。どうやら、来日に合わせてテロリスト集団が殺害予告をしたらしい。王族の人間には、ちゃんと専属の護衛がついているが、その中に能力者は一人もいない。というか、そもそも日本以外の国では能力者の数が少ない。しかし、彼らにも予定があるため、来日スケジュールの変更などができない。そこで俺たちに依頼してきたというわけだ。非公開政府組織とはいえ、国賓にはその存在が明かされるため、こういった護衛任務はよくあることだ。しかしこの事件が後に大きな影響をもたらすということをこの時の俺はまだ知らなかった。
国王「今日は一日よろしくたのむよ」
一兎、幸「はい!」
顔を隠すためのサングラスをした俺たちが国王に返事をした。このサングラスは少し特殊で、顔の認識を阻害するセフィラム能力がエンチャントされている。能力のコピーは『白鷺』のほうですでに開発されていた。彼らの中には研究者もいるので、そういった開発もしている。透明になる能力でもあれば、それを利用して、透明になれそうではあるが、残念ながら、透明になる能力を持っている人間が、『銀狼』にも『白鷺』にもいない。だが、
一兎「ほんとに便利だよなぁ、このサングラス」
写真に写っても能力が働くので、絶対に身バレしない。なので、本当に便利なのである。
そんなことを考えているうちに護衛任務がスタートした。ルナポロネーゼ王国の王族が様々な観光スポットを巡る。その際中、俺たちは警戒を緩めなかった。
一兎「幸、ここまで何も不審なものはなかったな?」
幸「ああ。何にもなかったよ。あったとしてもかわいい女の子がいたくらい」
俺がまじめに報告しようとしているのに、すぐ女の子の話になる。こいつは極度の女たらしだ。女の子が大好きで変態発言も日常茶飯事。顔はいいんだが、そのグイグイ行き過ぎる性格のせいで彼が望んだように女の子にモテモテなんてことはない。でも、こいつは俺と同じで、仕事だけはちゃんとこなす男なので、そこは心配をしていない。あんな発言をしているが、その間も幸は周囲の警戒を緩めようとはしない。だが、事件は起きてしまった。
突然、幸のほうで爆発するような音がした。
テロリストA「護衛が一人ダウン!いやあ、ちょろいね」
さっきまであんなに警戒していた幸が不意打ちでやられた。死んではいないが、少なくとも三分程度は動けないだろう。そして俺たちの周りには、幸を攻撃した、チャラそうな男を含めたたくさんのテロリストがいる。ざっと数えて十五人くらいだろう。そして、護衛対象である国賓の四人と、周囲にいた一般人はパニックを起こしている。この状態では、国王を逃がすことは難しい。とある方法を除いて。
そんなことを考えていた時だった、あの気配を感じたのは、俺と同じ、妖怪の気配を感じたのは。
一兎「まさか、お前たちは妖怪なのか!?」
俺が彼らにそう聞いた。すると少しやせた白髪を生やしたアニメとかでよくいる執事のじいさんみたいな顔の多分妖怪の人が俺の問いに答えた。
テロリストB「よくわかりましたね、我々は、妖怪の集まりですよ。あなたと半分同族ですよ。半人半妖のお坊ちゃん」
少し馬鹿にされたような感じがしないでもないが、それ以前に聞くべきことがあった。
一兎「俺のこと正体を見破っただと!?お前、上位妖怪か!」
上位妖怪。それは妖怪の中でも上質な妖力を持った存在。妖怪は、オカルトで扱われるような存在だ。伝承に存在している妖怪のうち、大半が事実のことだ。河童とか天狗とか、そういったものも実際にいる。今では、普通の人間に擬態できたり、そもそも人間の姿だったりする妖怪がたくさんいるのだが、上位妖怪は、その中でもとても強く、相手がどのような妖怪なのか、見抜くことができる。
テロリストB「まあ、そう呼ばれていた時期もありましたねぇ」
さっきのじいさん妖怪は、隠すことなく、そう言った。
一兎「上位妖怪・・・か。で?どうして殺害予告をしたのは、お前たちで間違いないんだな?」
俺は、そう尋ねた。すると、チャラいほうの男が、
テロリストA「逆に俺たちじゃなかったら誰が殺害予告をしたんだよ。俺たちがここにいるのが動かぬ証拠だろ」
隠さず言ってくれた。こいつら、意外と素直なんだな。なので、ついでにもっと重要なことを聞いてみた。
一兎「お前たちの目的はなんなんだ!こたえろ!!」
ちょっと威嚇するように言ったら、今度はじいさんのほうが、口を開いた。その男の顔は少し笑っていて、不気味だった。やっぱり妖怪って不気味な存在なんだと思った。・・・俺も妖怪の端くれだった。
テロリストB「そうですねぇ、冥土の土産に教えてあげましょう。我々の目的は、」
その続きが重要だ。妖怪がこんな風に表立って騒動を起こすなんて、ただ事じゃない。妖怪の力も、普通の人間から見たら『異能』と言ってもいいので、この任務は『銀狼』が護衛をしに来て正解だった。俺は覚悟して、奴らの目的を聞こうとする。
『妖怪たちのユートピアを作ることですよ。』