第十八話:―一章―隠者・欲望の果て

―SOUMA`S VIEW―
「…銀髪は加賀から報告を受けてはいたが…その赤髪…なるほど、【NT-02】か。お前もここにいたとはな…」
気持ち悪い形をした怪物が懐かしむようにそう言ってくる。表情は目しかないからわからん。というか、何処でしゃべってんだよ。
「だが、いくら貴様でもこの状況はどうする?どうしようもないだろ。」
というふうに余裕ぶっているようなので、現実を突きつけてやることにした。
「いいか?雑魚は何体集まっても、雑魚なんだよ。ダイヤモンド・ノーフェイス!」
巨大なダイヤモンドが怪物立ちの頭上で爆発する。すると…
「な…全滅…だと…?」
「あんちゃんすげえな!」
「ほう…あの数を一瞬で…」
「これが…最強…」
「さすが颯真様です。」
俺はそんな周りからの声を浴びながら、敵を睨みつける。
「さて…そろそろカオスな貌を見せる時間だ。お前ら、やれるか?」
後ろにいる奴らに声をかける。
「はい、もちろんです!」
「妾も暴れ足りんからな。やってやろうではないか。」
「よおし、今度こそ心置きなくぶっ飛ばせるぜ!」
三人が返事をする。槐は、
「俺はレノーアさんを安全なところへ連れていく。あとは頼んだぞ。」
と言って、レノーアを立たせてその場から離れていく。
「あー…ついでにこいつも連れて行ってくれ。」
俺はそう言って、腕を触手に変化させて金平の体を槐の方へ運んだ。
「了解。」
槐は金平を抱え、レノーアと共に立ち去った。
「貴様らは生きて帰さん。死ね。」
次の瞬間、敵がその触手を使い、俺たちをとんでもない勢いで貫こうとする。
「鳴颯・雷承…!」
大剣に雷を纏い、振り回す。
「エッジ・オブ・アイオライト!」
メリッサは虚空から紺色の剣を取り出し、紺色の結晶の斬撃を飛ばす。
「妖術、第伍幕、風刃!」
宮瑞は風の刃を先方に飛ばす。
「妖術、第玖幕、闇の双剣技!」
秋月は黒い剣を二振り生成し、両方振り下ろす。
各々の方法で、向かってきた触手をそれぞれ切り落とす。
「くっ…貴様らァ!」
叫んで、大量の魔法陣を作り出す。
「ここは私にお任せを。」
メリッサがそんなことを言う。
「それは…?」
メリッサが持っていたのは、剣でもナイフでもなく、六面のサイコロだった。
「これは結構前に翼様が開発した、サイコロのマジックアイテムです。」
そう言ってサイコロを振る。
…出た目は『6』だった。
「よし、これで!」
その瞬間、敵の魔術が一気に飛んでくる。しかし、それよりも多い、いろんな色の魔力でできた球がそれを全て相殺した。
「は?」
「なん…だと…」
その光景に、敵も俺も困惑していた。
「これは、出た目によって効果が変わるものです。目が多ければ多いほど発動する魔力球の数が増える、目が小さければその分火力が上がる。まあ、使用者の魔力に依存するので、どのみち火力は高いですよ。」
自慢げに俺に説明してくれるメリッサ。その顔で気づいた。
「お前…まさかそれを有効活用するためにカプリス様の信者に?」
「さて?なんのことでしょう?」
メリッサは小悪魔のような笑みを浮かべた。可愛い。
「散々私をコケにしてくれたなぁ!」
敵はもう数本しか残っていない触手をバタつかせ、ホールを破壊していく。
「さすがに鬱陶しいな。さて、どうするか。」
「一撃で葬ることはできますけど、あそこまで動かれると…」
俺たちが軽く回避しつつそんなことを言っていると、
「ならば妾達があやつの動きを止めてやろう。鬼娘、天井を開けてくれ!」
「おうよ!」
宮瑞と秋月がそう言う。秋月は高く飛んだ。それも天井スレスレまで。
「いっけぇ!妖術、第拾幕、鮮血の翼!」
赤黒い光線がその上の階すらも貫通させ、天井に穴をあける。すると、そこから太陽の光が差し込んできた。
「よっしゃ!宮瑞!あとは頼んだぞ!」
光の差し込む先には、桜宮瑞。
「さて、餞別だ。妾の奥義を貴様に見せようぞ。」
すると、どこからか風が流れ込んでくる。その風は宮瑞の下へ集っているのが体感で分かる。彼女の方を見れば、その体の周りを桜の花びらと、水色に光るの蝶が舞っていた。
「これは妾が妖力全開放をしているときにしかできない。それも、大地に足をつけるか、太陽の光を浴びているときでなければ安定して使うこともできないようなじゃじゃ馬だ。その貧相な翼と触手が耐えられるとは思わぬ。」
「なにをバカなことを!」
吠える怪物、その体ごと宮瑞へ突撃させる。
「貴様のような下衆では、妾に触れることもできぬよ。妖術、幕引き・華。」
風が吹き荒れる。桜の花びらがこの空間を支配する。蝶たちもその動きに合わせて飛び回る。
「【ちょう風月ふうげつ】…!」
そして、その風の、桜の、蝶の奔流が、敵の巨体を壁まで吹き飛ばした。その威力は絶大で、奴の体にあった触手と翼を破壊した。
「ぐはっ…」
「なるほど、上出来だ。行けるな?メリッサ。」
「はい、颯真様。」
風により体を壁に押し付けられた敵の方へ、俺たちは駆けだす。
「カプリス様、1の目を…!」
メリッサが先程のサイコロを前方に投げる。すると…
「信仰しただけでこれかよ。あいつ、初めての信者だからって浮かれてるな。」
『1』 の目が出ていた。
「それでは、これで一気に決めましょう!不完全魔術回路構築…レベルⅪ」
「ああ…無貌結晶…」
サイコロによって生み出された巨大な魔力の塊に、メリッサが更に魔術を重ねる。
「ロストオーダー…!」
ロストオーダー。俺の記憶が正しければ状態異常魔術を改良したものだったはずだ。最も、対象をとんでもないレベルまで強化させる…最も、制御できないレベルまで行くそうだが。
「今です!」
「任せろ、これでチェックメイトだ。吹き飛べ…!」
結晶化させた足でその強化された魔力球を蹴る。だが、制御不能の威力のせいで、こちらの足が破壊されそうだ。これだけでは足りないか。
「…どうなっても知らねえぞ。カラミティ・エメラルド!」
足の赤い結晶が緑色の結晶に変わる。この技はエメラルドを纏った部分で攻撃をするという単純なものだ。一回攻撃すればそれは割れるが、瞬間的な火力で言えば俺の技の中で最強格を誇る。
「今度こそ、チェックメイトだ!」
俺の爆発的な蹴りで、魔力球は勢いよく吹き飛ぶ。さながら、一流のサッカー選手から繰り出されるシュートのように。
「こんな…ところで…!」
そんな無様な声を発した後に、圧倒的な火力に飲み込まれ、ついには壁ごと消滅した。

「おーい、宮瑞!水神さん!サランさん!秋月さん!」
俺たちが崩壊し行く豪華客船、シルバートワイライトから脱出すると、槐が出迎えてくれた。
ちなみに、爆発した段階で、船は船着き場に到着していたようで、脱出はスムーズに行えた。
「おお!槐も無事であったか!」
宮瑞が槐の下へ駆け出す。
「てか、そういえば俺らって水神とサランってことになってたな。」
「そういえば本名名乗っていませんでしたね。」
俺たちがそんなことを話していると、槐が
「え?偽名だったのか?」
と尋ねてきた。なので、改めて名乗ることにした。一応、同じ組織に属する者として、ちゃんと名乗っておく必要があると思ったからだ。
「ああ、改めて名乗ろう。俺の本当の名前は鳴神颯真だ。」
「私はメリッサ・スチュアートです。以後、お見知りおきを。」
「颯真さんに…メリッサさん…」
槐は俺たちの顔を見た。すると、何かを思い出したように目を見開いた。
「あ、そういえば、なんでレノーアさんが金平さんに想いを寄せてることとか、バーでメリッサさんがいじられてたこととか知ってたんだ!」
「……!」
槐の言葉で思い出したのか、メリッサが赤面する。可愛い。
「ああ…というか、気づいてないのか?」
「え?」
気づいていないようだったので、俺は槐の肩に手を伸ばし、『それ』を取る。
「これがついてることにも気づかないとは……」
俺は取ったものを槐に見せた。
「それは…まさか…!」
「盗聴器だ。最初にお前が俺に接触してきたときに付けさせてもらった。」
槐は「マジか…」と呟いて頭に手を当てる。
「おいおい、こんなことじゃあ、『虚影班』失格だな。これは影狼に報告だな。」
「え…ちょ…待っ!」
そんな槐に耳を貸さず、俺は歩を進める。
「さーて、さすがに疲れたし、そろそろ帰るか、メリッサ。」
俺がそう声をかけると、俺の方へ駆け寄り、俺の少し後ろについてくる。
「はい。帰りましょう。」
ショックを受けた槐は宮瑞に慰められていた。だが、まあ、そんなくだらないことを報告するつもりはないから安心してほしい。と、心の中でつぶやいた。
「あ、そうだ、帰ったら何食べたいですか?」
メリッサが話しかける。
「メリッサが作った物なら何でもいいが…まあ、肉じゃがが食いたいな。」
「わかりました。多分、食材はあると思いますので、楽しみにしててくださいね。」
「ああ、楽しみにしとく。」
久しぶりにメリッサの料理が食える。そう思うとやっと仕事が終わったということを実感する。
仕事終わりのメリッサの料理は最高にうまい。だがまあ、今日は頑張ってくれたメリッサのことも、帰ったら労ってやるとしよう。