ーANOTHERVIEWー
俺は鏡百姫を殺害するためにとある男に雇われた土属性の妖術を扱う妖怪だ。今、彼女の護衛と思わしき剣士と戦っている。刀など通常の装備ではない。対象が対象なだけに『銀狼』は何もしてこないと踏んでいたが・・・読みが外れたか?そう思い警戒していたが、能力を持っている様子もなかったため、複数の妖術を同時に発動して殺そうとした。今は『隆起岩堂』の効果で周りが岩に囲まれているため、様子が確認できないので、確証が持てないが、おそらくは死んでいるだろう。
そう思い、警戒はしつつも岩の要塞を解除する。すると・・・
「バカな。何も、無い・・・だと?」
そう、何もなかった。妖術を連発してこの場のいたるところに存在しているはずの、岩の棘や塊、巨大な金鉱石すらもそこには無かった。
何が起きたのかわからず、困惑していたその瞬間。背後から殺気を感じ取った。その場に立ち尽くしていた俺はそれに気づくのが遅れてしまい・・・
「しまった!」
ーKENTO`SVIEWー
「もう遅い!」
俺は【終焉・歌兎】を振りぬく。その一閃はその男の横腹に一筋の傷を与えた。
横腹と言ってもしっかりと急所は外している。なので死にはしないはずだ。ちゃんとあとで事情聴取してもらわなければならないし、妖怪に人権が認められているこの時代で殺せば当然こちらが捕まる。
「な・・・ぜ・・・だ。」
その男は苦悶に満ちた顔で未だ困惑していた。
俺がしたのは俺の奥の手『パニッシュメント・ラスト』
この刀、【終焉・歌兎】に与えられた力で、十秒間だけ自身に害を及ぼすものの全てを切り刻むというぶっ壊れた能力を持つ。ただ、この技は十秒しか使えないのに対し、クールタイムが一時間。おまけに使用後は反動で体の節々が痛くなるといういらないおまけ付き。故に「奥の手」なのだ。
「はは・・・まあ、どうやってやったかはもういい。どのみち我々の勝利は確実なのだから・・・」
俺が反動の痛みに堪えていると、そのようなことを男がつぶやいた。「我々」ということは・・・
「・・・っ。そういうことか!」
それに気が付いた瞬間、俺は悲鳴を上げる体に鞭を打ち、走り出す。足の速さには自信がある。痛みで多少遅くなっても、間に合うかもしれない。そんな希望に縋りながら百姫が逃げた方向へ走り続けると・・・
「犬兎くん!」
百姫だ。ただし、宮原作馬に両手を拘束された百姫がそこにいた。
「チッ・・・思ったより早かったな。」
宮原作馬は俺の姿を確認すると俺に手を伸ばすような姿勢を取り・・・
「これでもくらえ!」
瞬間、見えない力によって吹き飛ばされる。
「くっそ・・・」
俺は体の痛みのせいもあって、吹き飛ばされた体がうまく動かない。そうこうしているうちに警備員の服を着た、先程百姫を連れて行った警備員が俺に近づく。全員グルだったというわけだ。
なんとか立ち上がった俺はとっさに拳を振るう。しかし、当たらなかった。ゆっくりとにじり寄っているだけの相手に突き出した拳は避けもしない相手に当たらなかった。俺は昔から剣術以外の武術が苦手だった。もはや苦手というレベルではなく、刀なしで戦えば素人にも秒で敗北するようなレベルで攻撃が当たらない。
「なんだこいつ。対して強くないじゃないか。」
「ハハッ。ガキが調子に乗りやがって、大人しくしろ!」
そのまま俺は一人の警備員に組み伏せられた。体が動かない。このままだと百姫が危ない。なんとかしないと・・・
だが、体は動かせない。遠距離でどうにかできるような力もない。絶望的な状況。しかし、光は差した。
「時間稼ぎご苦労。」
そんな声がした瞬間。赤黒い触手のようなものが百姫の体を攫う。
「な、なんだ!?」
宮原作馬もこの状況に驚いている。百姫を攫って行った方向へ目を向けるとそこに立っていたのは・・・
「すまないな。こんなこんな気持ち悪い触手で攫って。他のものに変貌させるとケガをさせかねないと思ったからな。」
赤いポニーテールをなびかせた、鳴神颯真だった。
ーSOUMA`SVIEWー
俺が現場に到着したときには既に犬兎は組み伏せられており、鏡百姫は拘束されていた。遅れた理由は、メリッサに内緒でこの場所に来ているからだ。あいつは翼さんに心理学を学んで以降、無駄に鋭くなっていた為、嘘をついてもすぐにバレてしまう。だからそんなメリッサを言いくるめるのに時間がかかった。まあ、【共感覚】を使われれば瞬時にバレるのだが。
「な、なんなんだ!お前!」
宮原作馬が指を指して叫び散らかす。
「あんたの奥さんに不倫調査を頼まれた者だよ。まさかこんなことをしているとはな。」
俺がそんなことを言うと、宮原は歯ぎしりさせながら
「あの女、余計なことを・・・」
と口にしていた。妻にはもう情の欠片も残っていないようだ。
「まあいい、探偵だがなんだか知らないが、この場を見たお前には消えてもらう!」
その時、一瞬「空気」が異様に歪んだ気がした。
「・・・無貌結晶。」
俺は体の一部を赤い宝石のような結晶に変貌させ、その攻撃を防ぐ。」
「な、何っ!?」
驚きに染まった宮原の顔。恐らく俺の顔は余裕に満ちているのだろう。
「なるほど。能力は空気を操る・・・と言ったところか。」
「なぜ・・・なぜそれを・・・」
その反応からして正解だろう。先程感じた空気の歪み。空気を操ることで指定した場所にある空気を圧縮。そして進行方向も操作して、即席空気砲のようなもので攻撃をしてきたのだろう。
種がわかってしまえば敵ではない。俺はそのまま歩を進めると、
「妖術、幕引き、大地万象!」
突如地面が割れ、俺はその中へ落ちる。そして、割れた地面がもとに戻ろうと俺の体を挟む。そしてマグマが吹き出た。
「やった!よくやったぞ!」
「いいえ、宮原さん。これは俺の失態です。俺がそこの青年に後れを取らなければこのようなことには。」
どうやら先程犬兎と一戦交えた妖怪のようだ。その証拠に、横腹には切り傷があった。というか、地面に挟んでマグマをかけただけで勝った気になっているこいつらはバカなのか?素人なのか?
「勝手に殺すなよ。ド三流。」
俺は俺を挟み込んだ地面を挟まれる瞬間に召喚していた、【無貌・鳴颯】の大剣形態で地面を叩き斬り、跳躍し、地上に降り立った。
『は?』
宮原、妖怪、五人程度の警備員、犬兎までもがそんな声を漏らしていた。こんなことで驚かれては困る。自分にかかる分のマグマを何かしらの方法・・・俺の場合は結晶の鎧で防ぎきれば問題はないというのに・・・
「さて・・・カオスな貌を見せる時間だ。最強の前にひれ伏せ。」
俺はまず大剣を上段で振り回し、ヘリコプターのプロペラのように振り回す。
「鳴颯電承。」
その瞬間、あたりに雷が降り注ぐ。犬兎には頑張って当たらないように調整した。その結果
犬兎を拘束している警備員以外の警備員が全滅。宮原は恐らく空気の層を作り防いだようだ。妖怪は自身の周りを岩で囲み、防いでいた。
「くっ、妖術、第壱幕、岩翔!」
岩の玉が俺の方へ飛翔する。それを俺は大剣で粉砕する。
「どうやらそいつとの戦いでかなり消耗しているようだな。」
妖術の第壱幕は妖術の中では最も低いグレードだ。だが、それにしても威力が弱すぎる。
「・・・それでも、お前を倒す!」
横腹を抑えながらそう言った。
「諦めないその精神は褒めてやるが、この場合はただの無謀だぞ。」
俺が妖怪にそう声をかけた瞬間、俺の体は宙に飛ばされた。
「よしっ!今だ!」
宮原の能力か。悪くない考えだ。
「助かります!妖術、第捌幕、石像の空想!」
無数の岩の槍が俺めがけて飛んでくる。
「空を飛ぶ系統の能力でもなければ、人間は空中では何もできないだろ!」
完全に調子に乗った宮原がそんなことを笑いながら言っているが・・・
「お前ら、何か勘違いしてないか?」
俺の周りで透明な美しい宝石がいくつも現れ、結晶していく。それは即座に俺の周りを包み・・・
「・・・ダイヤモンド・ノーフェイス!」
俺の身長は180センチほどだが、その何倍も大きなダイヤモンドの塊が俺の全身を包んでいる。ただの岩では俺が魔術で生み出した特製ダイヤモンドの硬度を破れるはずもなく、岩の槍は砕かれ、俺を包むダイヤモンドの塊が重力に従って地面に着弾した瞬間、俺はこのダイヤモンドを弾けさせた。
「これで、チェックメイトだ。」
弾けたダイヤモンドは周りにいた宮原と妖怪に直撃し、二人を気絶させた。
【魔術】ダイヤモンド・ノーフェイス
俺のオリジナルの魔術。巨大なダイヤモンドを生み出し、それを様々な形に、自由に変貌させ、攻撃や防御に使用できる、超万能魔術。故に俺はこの魔術を多用している。ちなみに、能力発動後、しばらくするとダイヤモンドは消滅する。このダイヤモンドはそもそも本物のダイヤモンドではなく、魔術のダイヤモンドだからだ。つまり、よほどの力を加えなければ砕けることもない。
「あの・・・そろそろ俺を助けてもらっても・・・?」
着地したまま立っていた俺に犬兎がそんな声をかけてきた。そういえばまだ組み伏せられたままだった。
変に抵抗されたくなかったので、俺はまだ地面にダイヤモンドが残っていたので、その一部を警備員に向けて飛ばす。すると、その塊が頭に当たった警備員は力なく倒れた。
「ふぅ・・・これでいいか?」
俺は犬兎にそう声をかけた。
「あ、ああ・・・」
困惑気味の犬兎。どうやら俺の圧倒的な強さを前にしてうまく思考が回っていないようだった。
だが、その時、俺はやられてしまった・・・
犬兎に気を取られ、その存在に気づくのが遅れた・・・
いや、本当は気づきたくなかっただけなのかもしれない。
メリッサ・スチュアートに・・・
「颯真様?」
「あ、あの・・・メリッサさん?」
ついつい「さん」付けで俺が呼んでしまった、美しい銀の長髪をなびかせたメイド服の女性は俺の黒いパーカーの後ろの襟をつかんでいた。俺視点だと、身長差的にメリッサの目までしか見えなかったが、その目は笑っているようで笑っていなかった。頭に怒りのマークがついていそうな笑顔のようで笑顔じゃない顔を浮かべた俺のメイドは結構本気
で怒っているようだった・・・
「颯真様?私に嘘をついて、「一人」で戦いの場に行きましたね?」
「はい・・・」
やはり怪しいと思って【共感覚】を使い、俺の居場所を突き止めていたようだ。
「私を置いて行くなとあれほど言ったのに・・・!」
そう言うメリッサの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。相当な心配をかけてしまったようだ。これに関してはメリッサに任せた仕事の邪魔をしてはいけないと思い何も言わなかった俺が全面的に悪い。
「あ、あーその、ご、ごめ・・・」
俺が謝罪の言葉を口にする前にメリッサは俺を掴んだ襟で引きずり始め・・・
「しばらく一人で外出するのを禁止します!」
「あー!ごめん!許して!引きずらないで!あぁーー!」
俺は小柄な女性に引きずられている。強化魔術だろう。抜け出すのは容易だが、そんなことをしてしまえばメリッサにケガをさせかねないので、抵抗せずに引きずられるがままになっていた。
「もう、帰って晩御飯を食べますよ。もう作ってありますから。」
「え?早く帰るぞ、メリッサ!」
我ながらメリッサには弱い。
ーKENTO`SVIEWー
「なんつーか、嵐みたいなやつらだったな・・・」
「・・・そうだね。」
俺は夫婦漫才を見ながら百姫の拘束を解いた。
「まあ、とりあえず、大丈夫か?百姫。」
「うん。おかげさまで。」
そう言って笑顔を浮かべる百姫。その笑顔を見つつ俺は自身の力不足を痛感した。